オルタナティブ・ブログ > 経営者が読むNVIDIAのフィジカルAI / ADAS業界日報 by 今泉大輔 >

20年以上断続的にこのブログを書き継いできたインフラコモンズ代表の今泉大輔です。NVIDIAのフィジカルAIの世界が日本の上場企業多数に時価総額増大の事業機会を1つだけではなく複数与えることを確信してこの名前にしました。ネタは無限にあります。何卒よろしくお願い申し上げます。

Figure AIが開業3年で評価額4,000億円のヒューマノイド(人型ロボ)トップ企業になれた理由

»

00FigureAI.png

──創業3年で評価額26億ドルの資金調達戦略を読み解く

導入:創業3年で26億ドル──このスタートアップ、何が違ったのか?

2022年に設立されたFigure AI社。わずか3年足らずで、評価額26億ドル(約4,000億円)に達したこの企業は、「汎用ヒューマノイドロボット(General Purpose Humanoid Robot)」という、超ハードルの高い分野に挑戦しながら、OpenAI、ジェフ・ベゾス、NVIDIAマイクロソフトといった"最強の面々"から総額6.75億ドルもの出資を取り付けた。

この"重くて遅い"領域で、どうしてこれほどスピーディに、しかも資本効率よくスケールし得たのか?

本稿では、Figure AIの資金調達ストーリーを軸に、その背後にある語れるビジョン、垂直統合の哲学、ハードウェア主導のAI構築戦略を分析する。

"語れる物語"をどう作るか?──ベゾスとOpenAIを動かしたビジョン

Figure AIの創業者Brett Adcockは、実は航空ベンチャー(Archer Aviation)でNASDAQ上場まで到達した、筋金入りのシリアルアントレプレナーだ。しかも、自ら2,000万ドルを初期出資し、最初のシード資金(7,000万ドル)をVCから調達したときにはすでに、「物流倉庫から家庭まで、人間のように振る舞う汎用ヒューマノイド」というビジョンを掲げていた。

この「人型である意味」を明快に語れる創業者は実は少ない。多くのロボティクス系スタートアップが「腕だけ」「移動だけ」の特化型ロボットに逃げる中、Adcockはあえて"汎用性"と"人間とのインターフェース"に賭けた。

そしてその物語は、

  • 汎用LLMとの統合

  • 単一ボディ×マルチタスク

  • 視覚・言語・行動の三位一体型AI「Helix VLA」
    などの構想に結実し、OpenAIとの協業や、ジェフ・ベゾスが個人で出資するほどのインパクトを生んだ。

Figure AIの「資金とパートナーの同時獲得」モデル

Figure AIの戦略の妙は、「資金調達と実証パートナー獲得」を同時に進めたことにある。具体的には、以下の3つを同時進行で実現している:

  • OpenAIとのAI連携(→語れる未来像)

  • BMWとの商用実証(→語れる現実性)

  • NVIDIAとの技術協業(→語れる開発力)

これにより、"ビジョン+信頼+技術"が三位一体となったストーリーラインが生まれ、VCから見ても「安心して大金を投じられる構造」が出来上がった。

特にBMWとの提携は象徴的だ。サウスカロライナ工場にFigure 02の試作機を導入し、24時間稼働で部品補充などの業務を試験的に代替。ここでの成果が資金調達のストーリーテリングにも直結している。

なぜAIスタートアップが「ハード」に挑んだのか?

Figure AIのアプローチは、徹底した垂直統合(Vertical Integration)である。つまり、

  • ハードウェア(ヒューマノイドボディ)

  • エッジコンピューティング(Jetson Orin)

  • AIスタック(Helix VLA)
    の全てを自社設計し、エンドツーエンドで最適化している。

これは、Teslaの「車体+FSD」やAppleの「iPhone+iOS」と同じ戦略だ。

なぜこれが重要か?
それは、AIが「タスクを実行できる身体(エンボディメント)」を持たなければ、現実世界では使えないからだ。

Adcockは、OpenAIとの協業をやめ、自前でAIモデルを作る決断をした。理由は「LLMは賢くなっても汎用化されてしまい、差別化要素にならない」から。むしろ、ハード+AIの統合体として"行動する知性"を内製できる企業こそが最終的な勝者になる、と読んでいた。

日本の起業家への示唆:「語れる物語」×「明確な市場」×「圧倒的スピード」

Figure AIの戦略には、資本集約型ディープテックでも成功するためのヒントが凝縮されている。

◎「語れる物語」:

"技術"ではなく"物語"を語れる創業者が、世界の投資家を動かす。

◎「明確な市場」:

物流・製造・家庭という巨大市場に直接乗り込む覚悟。技術があっても"買ってくれる場所"を具体化できなければ投資は動かない。

◎「圧倒的スピード」:

Figure 01→Figure 02のハード進化は、Isaac SimによるデジタルツインとAI訓練の自動化で実現した。開発サイクルは10ヶ月。これはソフトウェア並みの速度である。

まとめ:資本集約型ディープテックでも"勝てる"条件とは?

Figure AIは、いわゆる「ハード×AI」領域でも、スタートアップが勝てるという希望を見せてくれた。

だがそれは偶然の成功ではない。以下の条件を揃えたからこその快進撃だった:

  • 創業者の個人資金投入による覚悟の可視化

  • 複数の資本(資金・技術・実証)を同時に動かす戦略性

  • 垂直統合による"AIを行動させる"世界観の体現

  • 語れる未来像と、目の前の用途特化(倉庫・物流)の両立

  • スケールすることを前提とした設計思想と量産計画

そして、何より重要なのは、「技術から話を始めない」ことだ。

創業者がまず語ったのは「人間が不足していく社会に、代替労働力を提供する」というストーリーだった。これは、テクノロジーではなく"文明の課題"に向けた解決策として、ロボットを位置づけたからこそ、多くの賛同と投資が集まったのだ。


noteで2万3千字のFigure AI社の全体像を包括的に論じた調査報告書を有料で販売しています。エンジニアの方々が読んでも価値を感じていただける技術分析方の調査報告書です。

[構成]

1. エグゼクティブサマリー
2. Figure AIの設立背景と企業戦略
3. Figure 01・Figure 02のハードウェア・ソフトウェア特徴
4. NVIDIA技術スタックの活用
5. AI訓練データの生成・活用方法:デジタルツイン環境での模倣学習と 自律学習
6. 商用化への展望(量産計画、市場投入時期、競合比較)
7. 日本のロボティクス業界への戦略的・技術的示唆(特に介護ロボット 分野)
8. 参考文献一覧

米国ヒューマノイド業界のトップ:Figure AIの戦略とヒューマノイド技術の全体像

Comment(0)