オルタナティブ・ブログ > 経営者が読むNVIDIAのフィジカルAI / ADAS業界日報 by 今泉大輔 >

20年以上断続的にこのブログを書き継いできたインフラコモンズ代表の今泉大輔です。NVIDIAのフィジカルAIの世界が日本の上場企業多数に時価総額増大の事業機会を1つだけではなく複数与えることを確信してこの名前にしました。ネタは無限にあります。何卒よろしくお願い申し上げます。

ヒト型ロボを日本企業が量産するロケットスタートはFoxconn(鴻海)に製造を任せること

»

Altrernative2025Jun10a.png

ヒト型ロボ(ヒューマノイド)を量産することが日本の製造業にとって極めて大きな意味があることを本ブログでは繰り返し述べてきました。現在ではNVIDIAのロボット開発用技術スタックが使えますから、開発プロセスは従来と比べて飛躍的に速くなります。中国Unitreeや米国Figure AIがあれだけ速く開発できているのも、NVIDIA技術スタックのおかげです。同様に日本企業もNVIDIAの技術スタックを使えばヒト型ロボ開発がロケットスタートできます。

とは言え、カスタマイズの元となる完成体の供給や部品供給を中国に仰ぐことは現実的ではないということが、つい先日判明しました。この投稿に書いた通りです。

日本の大学/研究機関が中国企業と連携してロボット開発を行う際に「安全保障貿易管理」面の配慮が求められる

簡単に言うと軍事用に転用可能な技術に関する情報を、敵国になる可能性のある国との間でやりとりすることは、経産省が認めていないということです。特に日本企業がヒト型ロボ等ロボット関連のプロジェクトで政府系の補助金をいただいている時にこれが厳しく縛りとなります。詳しくは投稿にリンクしてある経産省の資料をお読み下さい。例え完成体や部品の供給を中国に仰ぐだけのテイク&テイクの関係でも、ギブはなくとも、テイクするだけで日本の技術水準があちらに知られてしまいますから、よろしくない訳です。中国本土なしで進まなければいけません。(一方で台湾はTSMCがありFoxconnがあって米国企業が全面的に依存していますからOKだと理解します)

米国でも中国でもヒト型ロボ実用化が始まったが日本はまだ

こちらの2本の投稿で書いた通り、建設業の労働者不足という問題を1つとっても、ヒト型ロボ(ヒューマノイド)が活躍する余地は極めて大きいです。介護もあります。排泄支援や入浴支援に特化したロボットが求められています。ヒト型でなくとも価値がありそうですが。

建設現場の労働者不足を解消するヒューマノイド(人型ロボ)量産。コスト試算と投資回収【前編】

建設現場の労働者不足を解消するヒューマノイド(人型ロボ)量産。コスト試算と投資回収【後編】

また自動車などの生産現場でもヒト型ロボの可能性は大きいです。韓国の現代自動車は、あまり知られていない事実だと思いますが、ボストンダイナミクスを傘下に収めて、米国の現代自動車の工場でボストンダイナミクスのAtlasを働かせる実証実験を進めています。その背景部分をこの投稿で報告しています。トヨタの米国研究法人とボストンダイナミクスとが提携している興味深い事実についても記しています。(Toyota Research Instituteが研究しているロボティクス技術は、ロボットのトレーニング関する最先端です。Large Behavior Modelsと呼ばれるロボットに人間の動作を教える方法論を開発しています。リンク先動画参照)

このように中国は元より米国でもヒト型ロボの実用化に急速に動いている中で、日本は明らかに遅れています。では、どうやってキャッチアップできるのか?

注意深く解読する必要があるFoxconn CEOのComputex 2025基調講演

日本に人型ロボの製造ができる部品企業群のエコシステムはありません。そこで、頭を切り替えて、『製造』の部分は、Foxconn(鴻海精密工業)に任せることにしてはどうでしょうか?NVIDIAと同じことをやるのです。

NVIDIAは半導体製造をTSMCに任せていますが、AIサーバーの製造はFoxconnに全面委託しています。NVIDIAのハードウェア製品はほぼ全量がFoxconn製だと思って間違いないです。元々台湾系の中国人であったNVIDIA CEOのジェンセン・フアンは台湾のFoxconnのCEOともめちゃめちゃ関係が密です。先日の台北で開催されたComputexの基調講演で二人が並んでスピーチをしていました。

Foxconn CEOの劉揚偉(リュウ・ヤンウェイ)氏はComputex 2025でNVIDIAのフィジカルAIにも言及しています。

NVIDIA AI full stack.png

一言で言うと、Foxconnは未来の製造業をNVIDIAのフィジカルAI関連技術スタックの上で構築することを言明しているのです。(Computex 2025のYouTube動画。53:00辺りからNVIDIAの技術スタックに関する言及)また、Foxconn自体がNVIDIAの最新の技術スタックを使ってOmniverse上で工場のデジタルツインを構築し、その先に進もうとしています。

とすると何が起こるか?

EVであれヒト型ロボであれ、物理的なメカニカルな製品であって、かつAIの恩恵をフルに享受できる製品の製造は、NVIDIAの技術スタックで開発して、製造をFoxconnに任せてしまえば良いのです。

Foxconnは、あのiPhoneの製造を実質的に一手に引き受けている企業です。また最近は三菱自動車のEVを手掛けることも発表しました。さらにもう1社が加わると報道されています。上のYouTube動画を見ると、FoxconnにはEV製造についても未来的なスマート製造のビジョンがあることがわかります。BYDと直接競合する中国市場向けEVは別としてもその他の市場向けのEV製造は、Foxconnと組んだ方が早いかも知れません。特に後発のメーカーはです。

ヒト型ロボットの開発、製造、販売でも、開発はNVIDIAの技術スタックで日本企業が行って、それ以降はFoxconnに任せた方が断然賢明です。Foxconnにはそれができる人材のキャパシティがあります。それによってiPhoneクオリティのヒト型ロボが量産できるのです。部品調達に悩む必要はありません。Foxconnが最適な部品を設計して調達してくれます。場合によっては日本の優れたセンサーやアクチェーターが選ばれることもあるでしょう。と言うより、村田製作所やTDKの超高性能部品がiPhone製造に使われているように、日本の精密電子機器製造企業が日本企業がFoxconnに委託して量産する次世代ヒト型ロボ向けに超高性能部品を開発するシナリオもあるでしょう。

ということで、中国のヒューマノイドエコシステムを迂回して、日本企業がヒューマノイドを量産するための道筋が見つかったように思います。

工場のデジタルツイン(NVIDIA Omniverse上に構築)を駆使して生産効率を飛躍的に向上させる未来的な製造に取り組んでいるFoxconnに、日本企業が製造を全面的に委託するのです。その中で日本企業にとってベネフィットのある補完関係も醸成されて行くでしょう。NVIDIA式のモノを作らない製造業...のような。

次の投稿は、日本企業がNVIDIA技術スタックでヒト型ロボットを開発するための現実的なトレーニングに何がふさわしいのかを述べます。


【広告】

先端技術の海外動向に関する調査報告書をオーダーメイドで。

フィジカルAI、デジタルツイン、ロボティクス全般、ヒューマノイド(ヒト型ロボット)、物流系ロボット、自動運転(ADAS)、SDV(Software Defined Vechicle)、先端ドローン、防衛産業のハイテク動向など、従来の調査会社では受注・制作できない海外の調査テーマについて、本ブログを20年以上運営してきた株式会社インフラコモンズ代表の今泉大輔が、ChatGPT Deep ResearchないしGemini Pro Deep Researchを駆使して高速に制作いたします。台湾の台湾華語、中国本土の中国語もカバー可能です。先端半導体、先端素材の調査も可能です(前職で経験済み)。

受注から最大7営業日で納品が可能(3単位程度)。ケースによっては2営業日(1単位〜2単位)でご対応します。

1日稼働10万円を1単位とし、2単位ないし3単位で、ほぼどのようなテーマでも受託可能です。納品はPDFになります。必要に応じて文字の編集が可能なWordファイルでも可能です。PPTでの納品は5単位からとさせていただきます(手作業の時間がかかります故)。

お問い合わせはこちら

Comment(0)