AMPの新しいインフラファンドのニュースからわかること
オーストラリアに拠点を置くAMP Capitalにより、3億4,100万ドル規模の新しいインフラデットファンドの資金調達が完了したというニュースが流れました。
Reuters: AMP Capital raised $341 mln for infrastructure debt fund
Money Management: AMP Capital introduces new infrastructure debt fund
インフラデットファンドとは、インフラ事業を営む企業(特別目的会社含む)の債権主体で運用するファンドのことです。リーマンショック後、国際的な大手銀行によるプロジェクトファイナンスの規模が急激に縮小したことにより、インフラ案件に対する新たな貸し手として登場したという背景があるようです。
投資家から見ると、インフラ事業を運営する特別目的会社のエクイティに投資する従来型のインフラファンドでは、リターンが得られまで時間がかかる傾向があるのに対して(特別目的会社の収益が軌道に乗るまではリターンがない)、インフラデットファンドの場合には債務条件に応じた安定的なリターンが得られるメリットがあるとされています。
AMP Capitalが新たに立ち上げたインフラデットファンドは、OECD諸国にある10〜15の水道、ガス、電力、輸送、病院といったインフラサービス運営会社の劣後債権に投資します。
インフラ事業における劣後債権とは、特別目的会社の債権のうち、外部に当たるプレイヤー(銀行等)への返済を優先させ、内部に当たるプレイヤー(スポンサー企業等)への返済の優先順位を下げるために、前者を優先債権とし、後者を劣後債権とするという目的で使われるもののようです。端的にはスポンサー企業が持っている債権ということになるのでしょうか。スポンサー企業は通例、そのインフラ事業を運営すること自体に興味があるわけで、債権を持っていることに事業上の価値を見いださないはず。従って、インフラデットファンドに債権を譲渡した方がいいわけです。そこでは双方がWin-Winの関係になります。
今回のニュースで興味深いのは次の記述。
The fund will target defensive assets with high barriers to entry, a regulated environment, highly visible cash flows and strong industry position.
(このインフラファンドは、高い参入障壁を持ち、規制された事業環境があり、潤沢で明快なキャッシュフローがあり、業界内で強いポジションを持つディフェンシブな資産をターゲットとする。)
「高い参入障壁を持ち、規制された事業環境があり、潤沢で明快なキャッシュフローがあり、業界内で強いポジションを持つ」。これこそがまさに、インフラ事業に他なりません。
インフラと聞くと橋から鉄道まで何でもインフラであるかのように思ってしまいますが、民間企業の目線では、「高い参入障壁を持ち、規制された事業環境があり、潤沢で明快なキャッシュフローがあ」るものが、あえて取り組むインフラ事業である、ということを示唆しているように思えます。(これは、インフラ案件をPPPとして発案する政府・自治体側の目線からすれば、「高い参入障壁を備え、事業環境の規制があり、潤沢なキャッシュフローが見込める」ものが、民間が入札に意欲を燃やす案件であるということにもなります。)
それからもう1つ、興味深かったのが次の記述。
AMP Capital is expanding its overseas focus and tapping into the saving habits of Asian customers to reduce its reliance on Australia for capital inflows.
(AMP Capitalは、資金調達を行うにあたってオーストラリアへの依存度を減らすため、貯蓄の習慣があるアジアの顧客を開拓すべく、海外展開を強化する。)
これは明らかに中国の個人資産を念頭に置いていると思われます。中国の富裕層は、すでに数の上では日本を上回ったという話を聞きます(金融資産1億円以上といった同一基準で計った場合の富裕層)。そうした層の資金を運用する中国系の機関投資家などが、これからインフラファンドへの資金の出し手になってくるのかも知れません。AMP Capitalの新インフラファンドにはChina Lifeも投資を行っています。