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株式会社インフラコモンズ代表取締役の今泉大輔が、現在進行形で取り組んでいるコンシューマ向けITサービス、バイオマス燃料取引の他、これまで関わってきたデータ経営、海外起業、イノベーション、再エネなどの話題について書いて行きます。

米国で議論されている原子力発電の経済合理性

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日本の原発事故に接して、原子力発電に関わりを持っている国々では、安全性についての議論が活発になっています。現在、建設中ないし計画中のいわゆる第3世代と呼ばれる原子炉では、テロを想定して航空機が衝突しても大丈夫な作りになっていたり、電源がすべて失われても受動的な機構で冷却が得られる仕組みが施されており、福島第1原発などの第1世代の原子炉よりも安全面で飛躍的に進歩しています。それでもなお、安全対策が議論されているのは無論、万一の事態を考えてです。
今後、新たに加わる安全対策は、すなわち原子力発電にかかるコストの増大を意味します。

米国の場合、オバマ大統領が就任間もない時期から、低炭素化との絡みで原子力の推進を打ち出してきていますが、福島第1原発事故の後でも、その基本的な姿勢に変化はありません。昨日行われたエネルギー政策に関する演説でも、原子力推進の姿勢が改めて示されました
一方で、すべての原発において、安全性の評価をすることを求めています。米国は世界でもっとも多くの原子炉104基を持ち、総発電量の約2割を原子力でまかなっています。1979年のスリーマイル島事故以後は新規原発建設が止まっているので、平均稼働年数は30年に達しています。これを保有する電力会社および独立系発電事業者は相応のコストをかけて、評価を行うことになります。

このような動きがあるなかで、プロジェクトファイナンスの専門家が、原子力発電の経済性について疑問を投げかけています。ロイターの記事"Odds against new US nuclear plants-finance lawyer"によると、原子力関連の専門家が集まった会議において、ニューヨークの法律事務所Sidley AustinのIrving Rotter弁護士が次のように発言しています。(Sidley Austinはインフラ関連のプロジェクトファイナンスの法務も担当する法律事務所)
「たとえ政府の融資保証があったとしても、原子力発電所の建設はコスト面で見合わないものになっている。向こう数年の間、米国において原子力発電所が新たに建設される可能性はほとんどない。しかしそれは、日本の事故が起こる前でも同じ状況だった」

この発言の背景には次のような事実があります。米国ではシェールガス(天然ガスの一種)の飛躍的増産によって、天然ガス価格が下がっています。また、シェールガスが加わったため、米国の天然ガス埋蔵量は著しく増大しました。これにより、安くて潤沢にある天然ガスを使えば発電コストを安くでき、一方で原子力のコストは相対的に高くなってしまったということです。
従って、これから発電所を作ろうという電力会社や独立系発電事業者は、何をエネルギー源にするかを考えた場合、たとえ政府の資金援助があったとしても、天然ガスを選択するであろう…。Irving Rotter弁護士の考えに立つとそうなります。さらにオバマ政権から、なお一層の安全対策が求められるようであれば、新規建設のリードタイムも伸び、コスト的にはなお一層見合わないものになります。

また、経済合理性だけでなく、プロジェクトファイナンスの世界で言う「ポリティカルリスク」への懸念を示す専門家もいます。ポリティカルリスクとは、巨額の融資(銀行団によるプロジェクトファイナンス)を必要とするインフラプロジェクトにおいて、政策や規制が変更されることによって、すでに操業状態にあるインフラ事業の収益基盤がゆらぐリスクを意味します。これにより融資した側から見れば、返済が滞ってしまう可能性があります。

日本の原発事故を受けて、ドイツでは、稼働年数の長い原子力発電所の延命を図る政策を撤回し、順次廃炉にすることにしました。この政策変更は関連事業者にとっては、突然起こった収益基盤の変化です。もし、ある国において、プロジェクトファイナンスによって1,000億円を調達して完成した原子力発電所が、今回のような事態を受けた政策の変更により操業不可能な事態に追い込まれたとすれば、融資した側は資金回収のメドが立たなくなります。
ポリティカルリスクには、リスクを緩和する方策としてポリティカルリスク保険をかけるのが通例で、それによってカバーされれば銀行側の損失は避けられます。しかし、保険のカバー範囲を超えているとなると大変なことです。そのような原子力関連の政策変更に伴うリスクということを、プロジェクトファイナンスの関係者たちは改めて意識し始めているようです。

翻って、代替的な選択肢は天然ガスを初め、いくつかあるわけですから、今後はそちらに向ける関心が高まっていくのではないかと思われます。

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