ハイパースケール化する世界のデータセンター
調査会社シナジーリサーチグループは2025年6月24日、、世界のデータセンター容量の最新動向を公表しました。
The World's Total Data Center Capacity is Shifting Rapidly to Hyperscale Operators
ハイパースケール事業者が運営する大規模施設は四半期末時点で1,189カ所に達し、世界総容量の44%を占めています。自社建設・所有型が半数を超え、リース型との二本立てで拡張が続く一方、企業のオンプレミス比率は34%まで低下しているといいます。
2030年にはハイパースケールが61%へ伸び、オンプレミスは22%へ縮小する見通しです。生成AIやGPU需要がオンプレミスにも一時的な追い風をもたらすものの、クラウド主導の構図は不変であり、業界の競争軸が急速に塗り替えられています。
ハイパースケール事業者が塗り替えるデータセンター地図
ハイパースケール事業者は、SaaSや検索、SNS、ECなどを担う巨大プラットフォームとクラウドサービス群を背景に、年間二桁成長で電力・床面積を拡大しています。
2018年時点で3割強だったハイパースケール事業者の比率は、6年で4割超へ到達しました。生成AIモデルの学習には膨大な電力とGPU集積が求められ、単一事業者が自社最適化した専用設計を採る流れが加速しています。
結果として、建屋の形状から冷却方式、再エネ調達手法に至るまで、垂直統合による規模の経済が支配的となり、従来型データセンターとの差は指数関数的に広がりつつあります。
オンプレミスは縮小傾向に
一方、企業が自社拠点に保有するオンプレミス容量は、世界全体で6年間に22ポイントもシェアを失いました。クラウド移行に伴うIT負債圧縮が主な要因ですが、ゼロトラスト移行やハイブリッド開発基盤の整備に伴い、オンプレミスシステムで「残すべき領域」が選別されています。
財務面では設備償却と運用コストの変動が直撃し、株主への資本効率説明が難しくなるため、企業はクラウド上でのサービス開発を優先しています。生成AI向けGPUクラスタを自社で抱える事例も増えていますが、キャパシティ規模ではクラウドに遠く及ばず、シェアの下落基調を覆すには力不足といえます。
コロケーション市場の潜在成長力
ハイパースケールの陰でコロケーションは地味に映りがちですが、年率ほぼ一桁後半から二桁に近い成長を維持し、容量そのものは右肩上がりとなっています。エッジ需要や地域分散、規制対応で占有ラックを求める企業が増え、GPUサーバーやデータ主権要件に合わせた高密度区画の新設も相次ぎます。
また、再エネ証書付き電力や液浸冷却といった環境対応サービスを標準装備する事業者は、ESG投資を重視する多国籍企業からの引き合いが強く、単価上昇が収益性を下支えしています。シェア低下が見込まれるとはいえ、キャパシティ構築のペースは衰えていないといいます。
地域別の投資シナリオ
シナジーの分析によれば、米国は自社建設型ハイパースケールの集中度合いが群を抜いています。州政府の税優遇や再エネ供給網が整うネバダ、テキサスなどでのメガサイト建設が拍車をかけ、日本企業が米国クラウドへの依存度を深める構図が鮮明となっています。
対照的にEMEAやAPACでは規制・不動産制約が厳しく、リース型やコロケーションを組み合わせた分散配置が主流です。国内でも電力ひっ迫や立地制限が課題となる中、再エネ比率を高めたリージョンの誘致合戦が起こり、道内や九州北部での新設計画が相次いでいます。企業はクラウド、コロケーション、自社GPUクラスターをどう組み合わせるか、地域特性を踏まえた戦略設計が重要となっています。
今後の展望
2030年に向けて、全地域でデータセンター容量は年率二桁台で拡大し、ハイパースケールが年間20%以上の勢いで市場をリードしていくことが想定されています。電力制約とカーボンニュートラル要件への対応が最大の勝敗分岐となり、再エネ調達や熱回収モデルを内包した「ネットポジティブ」なデータセンターが競争優位に働く可能性があります。
2030年に向けたデータセンター戦略は、単なる容量の増加ではなく、AI対応やエネルギー効率、地政学的リスクへの対応といった複合的視点が求められています。
出典:シナジーリサーチグループ 2025.6