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株式会社インフラコモンズ代表取締役の今泉大輔が、現在進行形で取り組んでいるコンシューマ向けITサービス、バイオマス燃料取引の他、これまで関わってきたデータ経営、海外起業、イノベーション、再エネなどの話題について書いて行きます。

ロシアのエネルギー覇権、米国のシェールガス産出状況、欧州にとってのシェールガス(調べてみました:シェールガスが注目される理由(下))

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■シェールガスの位置づけを外交戦略面から分析した文書

世界的にシェールガスに大きな注目が集まっている理由の1つに、天然ガスを使ったロシアの覇権主義を牽制できるからというのがあります。昨年5月に米国Rice UniversityのBaker Institute for Public Policy(元国務長官James Baker氏にちなむ外交シンクタンク)が発表した報告書"Russia and the Caspian States in the Global Energy Balance"がその観点を非常に詳しく論じています。Executive Summaryと銘打ってありますが30ページ以上もあって、全部は読めませんでした。あしからず…。

この文書は、シェールガスが世界のパワーバランスを変えるということを述べる際によく引き合いに出されています。しかし、ざっと目を通すと、ほぼすべてのページを使って、世界一位の埋蔵量の天然ガスと、世界二位の産出量の石油を駆使するロシアのエネルギー覇権戦略について記述しています。外交の専門家なら大いに興味深く読める文書だということがわかりました。
シェールガスについてはおしまいの方で少し触れている程度。米国政府がシェールガス田の探索と産出に優遇税制を適用すると、結果的にはロシアのエネルギー覇権を牽制できるとしています。シェールガスを純粋にエネルギー安全保障上の観点から見ているわけですね。

興味深い指摘として、石油産出世界一位のサウジアラビアが原油をタンカーで消費国に運ぶことができ、売り先を自由に選べるのに対し(影響力の行使先を選択できるのに対し)、ロシアは石油も天然ガスもパイプラインで運べる国々に売っているだけというのがありました。このためロシアが覇権を誇示できるのは、パイプラインでつながった諸国に対してのみであるとのことです。このことをもってすれば、シベリア地区から中国や日本海に運んでくるパイプラインは、極東地域に対する影響力行使のツールになるであろうということも、言えそうですね。

■米国では天然ガス全体の6%を産出するシェールガス田がある

そのほか、注目されるシェールガス関連文書として、米エネルギー省が公開している"Modern Shale Gas - Development in the United States - A Primer"があります。これは100ページ以上もあって、シェールガス研究者は必読だと思います(米エネルギー省によるシェールガス公式ハンドブックのような位置づけです)。こちらはシェールガスのさわりを知りたいだけなので、冒頭の部分と最後のサマリーだけを読んでみました。以下がメモです。

・米国では現在、全エネルギーの22%を天然ガスでまかなっている。
・政府系Energy Information Administrationの推計によると、米国にはシェールガスなどの非従来型ガスを含めた天然ガスの埋蔵量が1,744兆立方フィートあり、これは現在の天然ガス年間産出量からすれば90年分に当たる。非従来型天然ガスは埋蔵量全体の6割を占める(なお、1兆立方フィートの天然ガスで1,000億kWhの電力を発電できる、あるいは、天然ガス車1,200万台を1年間走らせることができる)。
・従来型天然ガスに対して、シェールガス、タイトガスサンド、コールベッドメタンなどの非従来型ガスがあるが、現在の米国の天然ガス産出は後者によるものが46%を占めるまでになっている。
・米国本土の48州では、シェールガスを含む頁岩が広範囲に分布しており、すでに産出が始まっているなかで、テキサス州のBarnett Shale田が米国天然ガス産出の6%を占めるまでになっている。

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・シェールガスの産出が採算に乗るようになったのは、第一に水平掘削法(horizontal drilling)の技術が発達した(井戸を何本も掘らずに済む)、第二に頁岩からシェールガスを取り出すための水圧破砕の技術が発達した、第三に近年の天然ガスの価格上昇によりシェールガス産出のコストに見合う販売が見込めるようになったから。
シェールガス産出のための水圧破砕法(hydraulic fracturing)では、1つのガス田で300万〜400万ガロン(1,135万〜1,514万リットル)の水を用いる。このため、水の手当、利用後の水の浄化、地下水を汚染しないための措置などが必須になる。米エネルギー省では細かな基準を設けて汚染を防止している。
・米本土のシェールガス田は過去に天然ガスが産出された井戸のそばにあり、既存のパイプラインを用いて消費地に輸送することができる。

なお、掘削技術の発達により、都市近郊でもシェールガスの採掘が可能になっており、Barnett Shale田はダラスのフォートワース空港に近い場所にあり、前述のように米国天然ガスの6%を産出するまでになっているそうです。

米国では元々天然ガスを産出している国なので、シェールガスが採算に乗るとわかると、すぐに必要な準備を行って産出し、既存のパイプラインなどのインフラ使って、商業ベースに乗せているのでしょうね。昨年の米国の天然ガス産出がロシアを抜いて世界一位になったのは、シェールガス産出が貢献したからだと言われています。

付言すれば、シェールガス産出が大量の水を使い、その水を地下に戻したり、河川に流す際に、必ず、水の浄化処理技術が必要になると思われるので、日本の水関連の企業には大きなオポチュニティがあるかも知れません。

■ロンドンの専門家は欧州のシェールガスに懐疑的

米国におけるシェールガスの興隆に刺激されて、欧州でもシェールガス熱が高まっています。ロンドンに拠点のある天然ガス専門のコンサルティング会社Gas Strategiesが発表したレポート"Shale gas in Europe: A revolution in the making?"によると、仮にシェールガスが欧州で産出されるようになるとすれば、前投稿および上で説明したロシアのエネルギー覇権のネガティブな影響から免れるということで、非常に熱い期待をもって色々な動きが始まっているとのことです。以下が同レポートから引用した欧州のシェールガス田候補地域。

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ExxonMobil, ConocoPhillipsといった米国石油メジャーが試験的な掘削などを始めています。こうした米国石油メジャーが欧州で競ってシェールガス探索を始めているのは、米国のシェールガスが比較的小規模な企業によってすでに押さえられてしまっており、今から参入する余地がないために、欧州では他社に先んじてやらなければと考えているからだそうです。
欧州の石油・ガス会社もシェールガスに前向きで、ノルウェーのStatoilは、米国最大の天然ガス会社で、すでにシェールガスを産出しているChesapeake Energyと提携して、米国のシェールガス権益を購入すると同時に同社のアドバイスを得て欧州のシェールガス探索を行っています。なお、Chesapeake Energyは自社が保有しているシェールガス田権益をすでに売却して大きな資金を得ています。同レポートによると、Statoil、Total、BPに米国のシェールガス田の権益を与えた見返りに108億ドルを得たとのことです。Shellなど欧州石油メジャーもシェールガスに積極的になっています。

最近、JP Morganが欧州のシェールガスに関して非常に楽観的なレポートを出したそうで、それによると、欧州のシェールガス産出は2015年までに30億立方メートルになり、2020年にはその4倍にまで達するとの予測をしています(非公開。J.P.Morgan “Shale Gas – a game changer for global gas markets”, 2010年2月)。

このようにブームの観を呈しているわけですが、天然ガス専門コンサルティング会社Gas Strategiesの見方はかなり渋く、みんな浮かれすぎだ、というニュアンスで述べています。理由は以下の通り。

・従来型天然ガスや石油と同様で、出るかでないかは結局のところ、掘ってみなければわからない。
・米国と違い、欧州では地形が入り組んでおり、大規模なシェールガス田が得にくい。生産性において米国に劣る可能性がある。
・もっとも有望なシェールガス田は海域(オフショア)にあるが、海域のシェールガス産出は未だ試されておらず、経済性が疑問。
・現在の米国のシェールガス産出コストは、楽観的な見方では5ドル/MMBtu、現実的には7ドル/MMBtu。これは欧州のガス取引文脈では、例えばドイツが長期契約で輸入している天然ガスが8.5ド/MMBtuであることを考えると採算に合う。しかし、現時点のロンドンのガス取引市場で付いている安い価格、すなわち、5.3ドル/MMBtuからすれば高コストのガスということになる。
・さらには、環境問題が懸念される。欧州ではシェールガス田が人の居住している地区に近接している。シェールガス産出では大量の水を使う他、水に化学物質を混入させてガス抽出の効率化を図る。この化学物質が地下水を汚染する可能性がある。

このような点を指摘して、かなり懐疑的な見方に立っています。

[関連投稿]
調べてみました:シェールガスが注目される理由(上)

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