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株式会社インフラコモンズ代表取締役の今泉大輔が、現在進行形で取り組んでいるコンシューマ向けITサービス、バイオマス燃料取引の他、これまで関わってきたデータ経営、海外起業、イノベーション、再エネなどの話題について書いて行きます。

[新春夢想] 福岡空港をPPPにより拡張、ローコストキャリアのハブにする

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Changibudget
Courtesy of Binder.donedat. 写真はシンガポールチャンギ空港に隣接するLCC用バジェットターミナル。

お正月ということで、「新春夢想」を続けさせていただきます。

■なぜ福岡空港か?

日本の空港は、旅客数では羽田(約6,560万)、成田(約2,960万)、新千歳(約1,730万)、福岡(約1,680万)、大阪(約1,540万)という順位。しかし、着陸数では羽田(約16万9,000)、成田(約9万6,000)、福岡(約6万7,000)、関西(約6万4,600)、大阪(約6万4,400)、と福岡空港が第三位になります。もちろん国際空港であり、アジア各国の航空界会社が就航しています。市街地からのアクセスもよく、便利な空港ですね。地下鉄で福岡中心の天神まで11分で行けます。

アジア各国の空の状況を見ると、ローコストキャリア(LCC、格安航空)によって激変が起こっていますが、これが日本にいると、ほとんど蚊帳の外。理由は、日本の空港へのLCCの乗り入れがあまり認められていないか、乗入枠がないということ。アジア全域での人の移動が大きく変化しているなかで、日本だけが取り残されていると、これから来るであろう「アジアの黄金時代」の恩恵にあずかりにくくなります。アジアから日本に対して、そして日本からアジアに対しての人の流れをシームレスするには、日本にもLCCのハブが必要だと思います。

ということで「新春夢想」の発想としては、福岡空港がアジア全域とシームレスに結びつくためのハブになってはどうか?と思うのです。

最近の報道によると、羽田空港が国際定期便に開放された結果、旅客を奪われることになる成田空港がLCCへの対応を厚くすべく、LCC専用ターミナルの建設を検討していたそうですが、これが取りやめになりました
また、関空でも全日空が設立するLCC会社を誘致して、LCC専用ターミナルを建設する話が持ち上がっていますが、費用負担で難航しそうです
ここで漁夫の利ではありませんが、福岡空港が迅速に手を打てば、日本における初のLCCハブとして、優位を固められると思うのです。なんと言っても福岡はアジアに近いという地の利があります。

■アジアのローコストキャリア

カナダBritish Columbia大学のAnming Zhang、Shinya Hanaoka、 Hajime Inamuraらによるレポート"Low-Cost Carriers in Asia"(2009年2月)によると、東アジア全域でLCCが活発に動き始めています。現在、国際便を就航させているLCCには以下があります。

  • Spring Airlines 中国(春秋航空)
  • Viva Macau マカオ
  • Oasis Hong Kong 香港
  • Jeju Air 韓国(済州航空)
  • Jin Air 韓国
  • Air Asia  マレーシア
  • Tigar Airways シンガポール
  • Jetstar Asia シンガポール
  • Lion Air インドネシア
  • Cebu Pacific フィリピン

ほとんどは近〜中距離の、飛行時間にして4時間以内の路線のみを飛ばしています。例外が最大手のAir Asia。1日400便以上を国内・国際路線で飛ばしており、就航している国はオーストラリア、バングラデシュ、ブルネイ、カンボジア、中国、インド、ラオス、ミャンマー、フィリピン、シンガポール、スリランカ、台湾、英国、韓国、ベトナム。最近これに日本が加わりました。また、イラン、フランス、ニュージーランドも予定されています。
同社のサイトで片道航空運賃を確かめてみると、近距離は日本円で1万円以内。やや遠いところ(例:クアラルンプール-メルボルン)で2万円といったところです。近距離ならば長距離バスの感覚ですね。

レポート"Low-Cost Carriers in Asia"では、こうしたLCCの低価格を成立させているのが、空港使用料の低廉な"Low-cost Carriers Terminal"(LCCT)の利用だそうです。
Air Asiaが拠点として使っているのがクアラルンプール国際空港のメインターミナルからバスで30分の地点にあるLCCT。シンガポールのTigar Airwaysが拠点としているのがチャンギ空港に隣接するBudget TerminalというLCCT。日本のブログでこうしたLCCTの利用報告を読むと、低コストが優先されているため相応に不便なようですが、その不便さゆえ空港使用料が安く、それがゆえにLCCの経営が成り立っているのであれば、意味のあることです。

■インフラファンドに滑走路を増設してもらう

福岡空港をLCCのハブ空港にするためには、現在ある2,800mの滑走路が内外の便の発着で満杯になっているため、LCC用のターミナルに加えて、滑走路を増設する必要があります。それに関連した動きとしては、福岡空港のキャパシティ問題を解決するため、2007年から2008年にかけて、新空港建設、滑走路増設、近隣空港との連携の3つの選択肢が検討され、滑走路増設がもっとも好ましいという結論になったそうです。現在の案では2,500m滑走路を増設するのに2,000億円の費用がかかるとのこと。
LCC用のターミナルについては、本来あまりコストをかける筋合いのものではないため、現在ある3つのターミナルで間に合わせることも検討するとして、滑走路については増設が不可欠です。

この費用負担を従来のように国や近隣の自治体、および地域の企業などで賄うのではなく、オーストラリアなどに範をとった民営化方式、すなわち、PPP(Public-Private Partnership、官民連携)でやってみてはどうか?というのが「新春夢想」の発想です。PPPでは、長期にわたる営業権を民間企業(多くの場合はファンドや事業会社複数から成るコンソーシアムが設立した特別目的会社)が取得する代わりに、投資に必要な一切の負担とプラスアルファを民間企業が持ちます。民間企業側では、長期の融資(プロジェクトファイナンス)や自らの資金による特別目的会社への出資によって、その費用負担をファイナンスします。空港を保有する自治体の側では、自らの予算を使うことなく、そして所有権を手放すことなく、投資が行われ、空港が活性化するということになります(これが成立するのは、ファンドが、空港が持つ地域独占の優位性を高く評価するからです)。

シドニー空港の例では、99年間のリースという形で、営業権を民間のインフラファンドなどが出資する空港運営会社が取得し、営業がなされています。英国のガトウィック空港もインフラファンドのGlobal Infrastructure Partnersが営業権を保有し、収益改善の様々な工夫をして、利益を上げています(空港の民営化については国交省が作成したこの資料が詳しいです)。

インフラファンド等が福岡空港の投資を引き受けるためには、民営化で切り分ける部分の設定を民間側にもうまみのあるものしなければなりません。滑走路への投資だけでなく、収益向上方策への投資も含むものとし、アジアのLCCにとって、そして国内のLCCにとっても魅力的な空港としての機能を備えられるように、運営受託会社側の自由裁量(経営のオプションを設定できる自由)を認めるようにすれば、必ずや応札するファンドが現れてくると思うのです。

空港への投資こそ、よその資金力を借りる形になりますが、これによって出現するアジアとのシームレスな人の流れは、福岡にとっても、九州にとっても、非常に大きな経済効果をもたらすと思います。例えば、インバウンドのアジアの旅行客の数が激増すると思います。

ASEAN各国ではオープンスカイ協定を結んでいて、首都同士の航空は自由化されています。そこにちょうど、Air AsiaのようなLCCがすっぽりはまって、人の動きを活性化させている格好になります。毎日LCCの数百便がアジア全域を飛び交っている様を想像してみてください。そして、それらの運賃が1万円〜2万円といった額で設定されていることを想定してみてください。これらから所得が上がる中間層が数億人単位で存在するアジア。そこで生じる網の目のような人の動きから、日本がはずれてしまうようではいけないと思います。

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