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株式会社インフラコモンズ代表取締役の今泉大輔が、現在進行形で取り組んでいるコンシューマ向けITサービス、バイオマス燃料取引の他、これまで関わってきたデータ経営、海外起業、イノベーション、再エネなどの話題について書いて行きます。

Masdar Cityの母体"Masdar"とマスタープランを受注したFoster+Partners(下)

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■世界各国で重要な建築物を手がけるFoster+Partners

Masdar Cityマスダールシティの計画は2006年から始まり、2007年にはロンドンに拠点を置く設計事務所Foster+Partnersがマスタープラン作成を受注しました。まず、Foster+Partnersの概要を確認してみます。

同社が過去に手がけた建築には非常にモニュメンタルなものが多数あります。フランスTarn川にかかる世界で一番高い位置にある橋Millau Viaductロンドン市庁舎香港国際空港北京国際空港、ロンドンにある高層ビルGherkinなど、一度写真を見ると忘れられないフォルムを持った建築ばかりです。

都市計画および都市の特定区画の再開発も手がけています。ここに一覧があります。例えば、ストックホルムの再開発の完成予想図を見ると非常に美しいです。

Masdarが、Masdar Cityのマスタープラン発注にあたりコンペを行ったという報道は見つかりませんでした。Foster+Partnersの上記のような実績を見て、ご指名で決まったものと思われます。

同社は、中東からも数多く受注しています。先日まで開催されていた上海万博のアラブ首長国連邦のパビリオンのほか、ドバイの超高層ビルThe Index、アブダビのAl Raha Beach開発なども手がけています。いずれも近未来的な印象を与える建築です。また、2009年度の売上の1/3は中東案件だったと伝えられています。

同社は過去数年の間に急成長を遂げ、2006年度の売上が4,450万ポンド(現在のレートで約58億円)だったものが、2009年度には1億5,380万ポンド(同約201億円)と3倍以上の規模になりました(規模を知るには日本の最大手設計事務所である日建設計の売上高が2007年度で約300億円だったことが参考になります)。しかし、リーマンショックの余波で、欧州でもっとも高いビルになる予定だったRussia Towerなどの案件が次々にキャンセルになり、2009年度は赤字に陥ったと伝えられます。2009年度の従業員数はおおよそ2,000名でした。

■余談…2兆円をかけた日本のオールスタープロジェクト

Masdar Cityプロジェクトの総予算は約2兆円(これは年代がややずれるものの香港国際空港の建設費と同規模)。個人的には、日本でも2兆円の予算を手当して、Foster+Partnersおよびそれと同等の設計事務所に発注すれば、Masdar Cityのような近未来都市ができるのではないかと思ってしまいました。

2兆円の総予算と言うと、日本の東京湾アクアラインの総事業費が1兆4,400億円。これを3割上回る規模ですね。10年間で割れば1年2,000億円です。仮にそれだけの予算をかけて、日本が誇る省エネ技術、電力系統技術、再生エネルギー発電技術、蓄電池技術、都市交通技術、電気自動車技術等々、近未来都市を構成する諸技術を集大成し、世界各地のスマートシティ計画を圧倒的にしのぐものが作れれば、それは非常に意味があるものになるのではないかと。

Masdar Cityがマスタープラン作成、再生可能エネルギー発電技術、都市交通(Personal Rapid Transit)などの技術をすべて国外の専門会社に頼っているのに対し、日本では、すべての技術を日本企業でカバーすることができます。これは圧倒的なアドバンテージになりますね。ということで余談でした。

■Masdar Cityでは研究者が生活を始めている

昨年8月〜9月の時点では、Foster+Partnersがお隣の韓国のスマートシティ計画「新松島」のマスタープラン作成を受注した(米国の設計事務所PHAと都市交通設計事務所Mobility in Chainとの共同受注)との報道があったのですが、その後の情報を見ると、設計はニューヨークに拠点を置くKohn Pedersen Fox (KPF)であるとするものが多く、事実関係が確認できませんでした。なお、新松島スマートシティの総予算は350億ドルだそうです。

Masdar Cityに話を戻すと、すでに最初の建物であるMasdar Instituteの研究棟、居住棟など6棟は完成しており、研究者が研究と生活を始めているそうです(Masdar Institute of Science and Technology commences classes within its new campus)。

また、2006年に原型ができ、2008年前後に作成されたマスタープランは、その後の関連技術の進展と、実際に具体化に着手してわかった知見を元に再検討されました(Masdar City master plan review provides progress update)。その結果、
・無人タクシーのように動作するPersonal Rapid Transport(PRT)の導入はMasdar Institute周辺に限定し、他区域では他の代替的な輸送手段も利用する、
・2015年のプロジェクト完了を2020年〜2025年の間に延期、
・オンサイトの再生エネルギー発電だけですべての電力を賄う予定を域外の再生エネルギー発電所からの供給も想定、
・太陽光発電だけでなく、地熱発電、太陽熱発電についても選択肢に含める、
といった変更が加わりました。

まったく新しいことにチャレンジしているわけで、この再検討を報じる記事ではMasdar Cityの広報担当者も、関連技術は常に進歩しており、それらを計画に組み入れて修正するのは理にかなったことだ、という意味のコメントをしています。Foster+Partnersが作成した最初のマスタープランも、こうした変更に柔軟に対処できる余地を残したものだったそうです(Foster & Partners: Masdar review near completion)。

次回は、韓国の仁川国際空港に隣接するスマートシティ「新松島」(New Songdo City)を取り上げます。

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