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株式会社インフラコモンズ代表取締役の今泉大輔が、現在進行形で取り組んでいるコンシューマ向けITサービス、バイオマス燃料取引の他、これまで関わってきたデータ経営、海外起業、イノベーション、再エネなどの話題について書いて行きます。

アブダビのMasdar Cityはスマートシティの話題が詰まっている

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スマートシティと言えば、まずはMasdar City。アラブ首長国連邦のアブダビ首長国が2006年から国の威信をかけて取り組んでいる未来都市プロジェクトです。都市内で消費するエネルギーをすべて再生可能エネルギーで賄い、ゼロエミッション(二酸化炭素排出ゼロ)をうたっています。当初の予算は220億ドル(2兆2,000億円)。2020年〜2025年の間にすべてのプロジェクトが完了する予定です。

以下の写真を見て下さい。これぞ未来の都市。スマートシティの典型とも言うべき外観だと言えるでしょう。

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■まずはアラブ首長国連邦の歴史を確認

都市の性格を把握するには、歴史的背景の理解も欠かせないと思います。アラブ首長国連邦は日本のわれわれにはあまりなじみのない国なので、簡単に歴史をひもといてみます。

アラブ首長国連邦は登山靴のような形をしたアラビア半島のつま先のとがった部分に位置しています。このあたりは古くから栄えていたバグダードのあるイラクとインドとを結ぶ海路ペルシャ湾の要衝であり、かつ真珠も獲れたことから、通商の活発な地域でした。連邦の1つウムアルクウェインには古くから栄えた海港があったと言います。また、現在のフジャイラには大きな市があったと伝えられています。ラクダの家畜化は紀元前2000年代に始まっていたと言いますから、ウムアルクウェインとフジャイラを結ぶルートには、ラクダにまたがったアラブの商人の往来が頻繁に見られたことでしょう。

15世紀のバスコダガマによる喜望峰航路発見の後、アラビア半島の海路沿いは1世紀半の間、ポルトガルの支配下に入ります。16世紀にアラブ首長国連邦のある区域はオスマントルコに支配されますが、これが18世紀から始まったインド英国間の貿易に対する海賊行為の温床となり、それを英国が取り締まった結果、すべての首長国は英国の支配下に入ることとなりました。第二次世界大戦を経て1968年、イギリスがスエズ以東(ペルシャ湾岸と東南アジア)とからの撤兵を決断したことにより、この地域に自治の動きが芽生え、アブダビ、ドバイ、シャールジャ、アジュマーン、ウンム・アルカイワイン、フジャイラ、ラアス・アルハイマの7つの首長国による連邦が結成されました。それぞれの首長国は世襲制の王によって統治されています。

アラブ首長国連邦の人口は468万人。2008年の1人当たりGDPは52,884ドル(日本は38,267ドル)でオランダやスウェーデンと同レベル。GDPの4割が石油、天然ガス収入によるものです。うちドバイ首長国は石油埋蔵量が少ないために早くから石油依存からの脱却を目指し、周知のように中東の金融と商業の中心になっています。
今回紹介するスマートシティプロジェクトを推進するアブダビ首長国はアラブ首長国連邦の面積の8割を占め、人口も190万と4割を占める。面積が大きいだけに石油埋蔵量も多く、石油収入ももっとも多い。以下の図の黄色の部分がアブダビ首長国。

Masdarmap

■興味深いポイントが多いMasdar City

さて、アブダビの背景をここまで確認した後で、アブダビのスマートシティプロジェクト"Masdar City"関連の資料に目を通し始めたところ、論じる必要があるポイントがいくつかあることがわかってきました。

・Masdar Cityプロジェクトの設計を受注したのは英国の設計事務所Foster + Partners。同社は韓国仁川のスマートシティプロジェクトルクセンブルグの街区開発なども手がけている。

・Masdar Cityプロジェクトの上位に"Abu Dhabi Economic Vision 2030"という20年がかりの経済発展マスタープランがある。これは、将来において石油収入が枯渇した後においても、アブダビ首長国が繁栄を維持していけるように、長期にわたって維持可能な知識ベースの経済に移行させようという計画。

・ゼロエミッション(二酸化炭素排出ゼロ)をうたうMasdar Cityは、持続可能なスマートシティのショーケースとして構想されている。スマートグリッドを含むエネルギー利用の観点からも興味深い点が多々ありそう。また、石油以外の収益源として「省エネルギー型スマートシティ」に関するノウハウを中長期にわたって開発していこうというアブダビの政策も関係している。

GEがMasdar Cityプロジェクトの進展にかなり密接に関わっている

・Masdar Cityでは、化石燃料に頼らない輸送手段として、ドイツ企業2GetThere社が開発したPersonal Rapid Transit(PRT)と呼ばれる公共電気自動車システムを導入する。これは運転手のいないタクシーとして機能する。

Masdarprt

・今年10月の報道によれば、Masdar Cityのプロジェクトの完了予定が数年延期され、2020年〜2025年の間となった。主には、リーマンショック後の経済環境があるため、ビジネス区画への入居テナントが集まらないことが理由。Masdar City内で利用するエネルギーはすべてMasdar City内の発電や熱源で賄う予定だったが、これにも修正が加わった。PRTだけでカバーする都市交通も、一般的な電気自動車の乗り入れを可能にするように修正。

以上の詳細を関連資料により確かめていく必要があるため、何度かに分けて述べていきます。Masdar Cityだけ連続的に取り上げるのではなく、他の話題も混ぜながら述べる予定です。

次回は、Masdar Cityを受注した英国の設計事務所Foster + Partnersについて書きます。

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