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株式会社インフラコモンズ代表取締役の今泉大輔が、現在進行形で取り組んでいるコンシューマ向けITサービス、バイオマス燃料取引の他、これまで関わってきたデータ経営、海外起業、イノベーション、再エネなどの話題について書いて行きます。

国レベルではビジネスモデルがいらない?

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最近思ったことを忘れないうちに1つ。

アラブ首長国連邦系アブダビ投資庁がシティバンクに75億ドル出資(11月28日報道)
中国政府系中国投資有限責任公司がモルガンスタンレーに50億ドル出資(12月20日報道)
シンガポール政府系テマセクホールディングスがメリルリンチに50億ドル円出資(12月22日報道)

サブプライム問題で自己資本比率の大幅な低下が避けられなくなった米国金融機関が相次いで政府系のファンド(SWF - Sovereign Wealth Fund)から数千億円単位の出資を受けています。一方で、米銀が日欧の大手銀行に信用保証枠の提供を申し入れたサブプライム基金の設立は流れてしまいました。ラストリゾートはもはやSWFしかないということなのかも知れません。

この図式を鳥瞰してみるとおもしろいことに気づきます。

世界的な金余りの”受け皿需要”を満たすべく、消費者に貸し出したサブプライムローンからRMBS(住宅ローン証券)、CDO(債務担保証券)、ABCP (資産担保コマーシャルペーパー)といった証券系商品を組成し、世界各国の金融機関に売り、あるいは系列のストラクチャード・インベストメント・ビークル(すごいネーミング)で運用し…といったことを行っていたのが米国の金融機関です。
非常にシンプルな消費者向けローンから組成された種々の証券系商品は、いわば、ビジネスモデルの最たるもの。ストラクチャード・インベストメント・ビークルという法人形態もビジネスモデル的思考の精緻化の極致といった感じです。いわばスーパー収益マシーン。

一方で、米国金融機関に出資している政府系ファンドの資金の大元は、アラブの場合ならば原油、中国の場合ならば豊富かつ低廉な労働力をベースにした輸出といった形の非常にシンプルな経済行為です。ビジネスモデルの有無で言えば無いに等しい。こちらにあるものをあちらに売る式の商取引です。

このビジネスモデルの精緻と、ノービジネスモデルと言っていい国家レベルの商行為とがこの数年の間、世界経済において競い合っていたような状況があると思います。しかし、前者は大きなリスクを抱えていたことが明らかになり、後者に資金援助を頼まなければいけなくなった。これをどう考えるべきなのか?

ネットワーク化された経済においては、ものみなコモディティ化するという捉え方が適用できる場面が多々あります。大方の経済行為はこれで説明できる。
とすると、もともとコモディティであった原油や低廉な労働力は、それだけコモディティ慣れしているので、稼いでいる分にはびくともしない。一方で、Structured的な金融の商品、手法、発想はそのStructuralな特性により伝播性が強く(動的な情報が細かく織り込まれており、ネットワークのメカニズムをより強く受ける)、コモディティ化が非常に速く進展して収益モデルが成立しなくなった(限られた投資主体のみが買うべき特殊な商品に各国の投資主体が殺到→商品の供給が増える→リスクが肥大→暴落)。最終的に、コモディティ慣れしている方が、コモディティ慣れしていない方を助けることになった。こんな風に捉えることも可能だと思うんです。どうでしょうか?

思ったことというのはここまで。

追記すると、サブプライム問題の根幹には、与信の際に利用されるスコアリングモデルの適否の問題があると思います。個別の消費者にローンを貸し出す時に、種々の条件を入力して「この人はオーケー」「この人は貸し出してはダメ」と判断する際に使うスコアリングモデルです。いわば、与信判定アルゴリズムですね。
このスコアリングモデル、米国の消費者信用の世界では、供給元が確か2社ぐらいしかありません。従って、米国の個人向けローンおよびクレジットカードの世界では、与信のリスクの持ちようがひどく平板になっているということがあると思います。リスクの持ちようが平板だということは、言うまでもありませんが、不確実性に耐えられない。どこかに大きなリスクを包含している可能性があるわけです。サブプライム問題はそれが出たということだと思います。

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