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株式会社インフラコモンズ代表取締役の今泉大輔が、現在進行形で取り組んでいるコンシューマ向けITサービス、バイオマス燃料取引の他、これまで関わってきたデータ経営、海外起業、イノベーション、再エネなどの話題について書いて行きます。

インターネットにビジネス方法特許がしっくりこない理由-その3

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このトピックの続きです。

【仮説3】特許は出願した瞬間からバージョンアップが効かないものになってしまう。一方のインターネット環境は日々発展している。ある時点で発明たりえていたものが、バージョンアップができないばかりに、1年後には何の価値もなくなってしまうということはないか? 

当たり前と言えば当たり前のことなのですが、特許は、出願時点で、国から特許権を認めてもらいたい発明内容と、権利請求の範囲を明確化します。

その時点で特許内容はスタティックなものになってしまいます。雨が降ろうが槍が降ろうが特許内容を変更することはできません。

(ただし、権利が認められる前の段階で審査があり、ここで特許庁から拒絶されてしまうと、それに対する反論のような形で“意見書”“補正書”を提出することができます。ここで、出願内容の修正が可能です。ただし、発明内容そのものを変更してしまうとか、権利請求範囲を大幅に変更してしまうといった大改修はできず、あくまでも、拒絶に対する出願人側の抗弁として、部分的な修正が認められるだけです。出願後に生じた技術発展などを踏まえて、バージョンアップに相当する修正を組み入れることは無理です)

私は、インターネット上で成立するビジネスモデルは、ソフトウェアではないものの、時宜に応じたバージョンアップが必要なものだという認識に立っています。

アマゾンを例にとってみても、開業当初は、市場に流通している書籍の大多数が買える便利な本屋さんだったですが、そのうちに、ワンクリック、アフィリエート、レビュー、レコメンデーション、Webサービスが加わって、現在ではまったく別の本屋さんになっています。

この1つひとつの機能は、ソフトウェアで言えば、独立したアプリケーションであり、“バージョンアップ”に相当するものではありませんが、この絶え間ない機能追加は、インターネット上で展開する事業の発展の道筋を考える上で非常に示唆的です。

ビジネス方法特許で保護されるような新規のビジネスの方法においても、事業を続けているうちに、何らかの“バージョンアップ”の必要は出てくるはず。それは、顧客が変化し、市場が変化するなかで、企業として存続していく限りは避けられないことだと思います。

インターネットの中では、新しい技術がひとつ出現しただけで、周辺の状況がまったく塗り変わってしまうことがあります。競合が超すごいサービスを始めたばかりに、客をぜんぶそっちへ持っていかれたということもよく起こります。

そのなかで、出願時点でビジネス方法の内容が固定化されてしまう、ビジネス方法特許の価値とはどんなものか?1年後に無価値になってしまうことはないのか?

無論、“バージョンアップ”が行われる度に、新たな出願書類を起こして、特許庁に出願してしまうという方法は可能です。ただ、それって費用対効果の面で賢いやり方なのだろうか?という素朴な疑問が沸きます。

本トピックは何度もお断りしているように、インターネット上で展開する事業に関するビジネス方法特許に限定して書いています。それ以外の特許と混同しないでいただければ幸いです。

特許庁のデータベースのあり方も、非常に象徴的です。1990年代末ぐらいから、特許庁のデータベースがインターネットに接続されるようになり、インターネットにアクセスできる人なら誰でも、特許データベースの中をのぞけるようになりました。これは、従来の行政さまの態度がどのようなものであったかを思い起こすと、非常に画期的なことであり、喜ばしいことです。

ですが、いかんせん、Googleのボットが拾ってくれるリソースではないのですよね。特許庁の特許データベースは、陸の孤島のようにぽつんと存在しています。知的な情報であり、価値がある情報でありながら、Googleの検索にひっかからないのです。

特許で守られる権利はスタンドアロンであり、他者の関与を許しません。非常に自足的な世界であり、他にどのように優れた改良や発展や知見があったとしても、特許として出願された時点から、孤高の世界に入り込んでします。

仮に、知というものが、ネットワークにはたらく切磋琢磨のメカニズムによって継続的に洗練されていくものであるとするなら、特許庁に出願されるビジネス方法特許はその対極を行く知のあり方であるわけです。

もっとも、状況を鳥瞰するなら、特許庁に出願された特許も、いつかは別な特許によって価値を否定され(現在の特許では、過去の発明が持っていた課題-限界や欠点-を解決するということは常に起こっている)、新しい特許に道を譲るということは行われているので、大局的には切磋琢磨のメカニズムに組み込まれているとも言えるわけですが。

ということで、ビジネス方法特許に関して、最近感じたもやもやしたものを、整理してみました。

これはあくまでも1つの視点をとった時の論考です。ビジネス方法特許の存在領域は“事業”ですから、戦略・戦術何でもあり、競合渦巻いて、いろいろ戦っていかなければならないなかで、ビジネス方法特許を取得しておく選択肢が大いに意味を持つ局面もないわけではないと思います。

次回からは、シロートの大胆さを大いに発揮して、ビジネス方法特許に代わる権利保護の方法があるのではないか?というようなことを述べていきたいと思います。

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