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株式会社インフラコモンズ代表取締役の今泉大輔が、現在進行形で取り組んでいるコンシューマ向けITサービス、バイオマス燃料取引の他、これまで関わってきたデータ経営、海外起業、イノベーション、再エネなどの話題について書いて行きます。

ヤフオクオーディオ取引顚末記-その3

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やってきましたニューヨークくんだり。仕事です。3年ぶりです。シェラトンニューヨークは例によって最悪です。部屋が寒すぎます。風呂のお湯が出ません。道中あわただしいですが、余裕をみて投稿します。以下は機内で書いたものに加筆。

一時期、ヤフオク中古オーディオ取引を活発にやったおかげで、市場メカニズムの何たるかを肌で学ぶことができました。
今回はそのなかでも、商品関連の情報の重要性について記してみたいと思います。

【知見3】当該製品に関する情報が限られている場合、情報をより多く提供できるものが価格決定権を持つことがある。

1970年代末~80年代半ばは日本のオーディオの黄金期とされています。総合家電メーカー、専業オーディオメーカー十数社が入り乱れ、この狭い日本市場でくんずほぐれつの競争を繰り広げていました。少し前のデジカメや携帯、現在の大画面テレビを思い浮かべてもらえばおわかりいただけると思います。誰が儲けるのか?漁夫の利を得るのは消費者だけではないか?そういう競争です。

当時の典型的な名機に、DENONのプリアンプPRA-2000があります。発売1979年、定価20万円。当時は音源の主流がアナログレコードだったので、当然のごとくフォノイコライザが内蔵されています。

フォノイコライザについて簡単に説明すると、①すべてのレコードは録音特性を良くするために、RIAAカーブと呼ばれる業界標準によって高域を強調し、低域を弱めて録音されている、②オーディオ装置でレコードを再生するためには、RIAAカーブをフラットに戻してやらないといけない、③それを行う機構がフォノイコライザ、④フォノイコライザは電子回路と関連部品によって構成される、⑤フォノイコライザにもピンキリがあって、ピンのフォノイコライザを使うと、正確無比にフラットな特性が得られ、無用なノイズがなく、「あ”ーもう脳髄とろけてどうにかなってしまいそう」という音がする…、といったところ。

アナログのよさについてはここで書いても始まらないですが、1960年代のジャズ、1970年代~80年代前半までのロック、それからCDが主流になるまでのクラシック全般を聴く人にとっては、同じ作品をCDとアナログで聴き比べると、どうやったってアナログの方に軍配が上がるという現実があります。音の瑞々しさが違うのです。
初期のマイルスや最盛期のアートペッパーなどをアナログで聴いてしまうと、もう戻れないという感じ。でもまぁレコードをとっかえひっかえするのは面倒ではあります。

このアナログレコードを高品位に再生するためには、単品のフォノイコライザを購入するか、フォノイコライザを内蔵したプリアンプを購入する必要があります。

単品フォノイコはカネに糸目をつけない人たちの占有物と言ってよく、高品位オーディオ向けの現役製品は7~8万円から。米国のBOULDER社には定価440万円というのがあります。
単品フォノイコは中古で探しても割高になります。量産に向かない製品ジャンルなので、発売時の価格設定が高く、タマも少ないため、中古になっても値がこなれないのです。
投資総額を抑制しつつハイエンドの音を実現するなどという野望を抱いている人に、単品フォノイコは向きません。
普通はプリアンプの基本性能がよいのを探し、その中から特にフォノイコが優秀とされるものを選択します。この2つの条件を満たしたプリアンプは非常に大きな価値があります。

80年代のフォノイコ付きプリアンプの代表機種には、YAMAHA C-2a、LUXMAN C-05、Exclusive(Pioneer) C3a、Accuphase C-240などがあります。いずれも発売当時の定価が20万円~40万円という中高級機。DENON PRA-2000もここに入ります。

さて。ヤフオクのオーディオセクションに行き、こうした80年代の名機が出品されているのを見て「欲しい」と思ったとしましょう。大枚をはたく前の確認として、どこかで音を聴かせてもらうことができるでしょうか?
まず無理です。試聴環境を整えているオーディオ屋は、どこも新品を並べて売っているのであって、中古品を種々つなげて聴かせてくれる奇特な店はまずありません。では、どうすればいいのか?

ヤフオク中古オーディオセクションに集う人たちの多くは、ひたすらGoogleを使って、試聴の代わりになる情報を探すということをするようです。
80年代の名機ですから、現物そのものがあまり多くありません。店頭にも並んでおらず、持っている人もまずいないとなると、誰か実際に音を聴いた人のレビューに頼るほかないわけです。
オーディオ機器はメーカー名と型番で対象を特定できるので、何らかの情報がウェブに上がっていればすぐに検索で引っかかります。
探してみると、多くは「その機種が存在していた」ということを示す情報、すなわち、メーカー名、型番、価格、スペックどまり。そういうページをかきわけかきわけしていくと、まれに、自分の耳で聴いてみてどうだったかを記してあるページが出現します。

PRA-2000で行くと次のような記述が見つかります。
「鮮度と繊細感がともに群を抜き、力もある。弾むような躍動感が大変に素晴らしい」
「噂に違わずアナログ入力の音質に惚れた」
「デジタルとの相性があまりよくない。分解能がついていけない」
オーディオマニアによる個別機種の音の記述はだいたいこんな雰囲気です。2~3行でさらっと書いてある。
Googleを相当に駆使して検索してみても、この種の記述が2~3本見つかればまだいい方です。ほとんどの機種はこういう記述が一切存在しない。

従って、ヤフオクで80年代の名機っぽい機種を見つけて「欲しいよコレ」と思った人の多くは、非常に希少なそうした耳による評価情報を繰り返し繰り返し読んで、音を想像し、自分が実現しようとしている音世界に近いと判断すれば、購入に動きます。
この種の耳による評価情報がまったく存在しない機種では、目をつぶって購入するしかありません。
80年代の中古オーディオ機器に魅せられた人たちは、そうした情報飢餓のなかで購入の決断をしています。

ヤフオクで中古オーディオを落札し始めた当初、私自身がそうでした。
情報がないので、とりあえず落札してから、自分のシステムにつなげてみて音を出してみる。すると「あー」とか「うー」とかいうことがわかる。
音の違いというのは多くの場合、1機種を聴いただけではわかりません。同ランクの機種を3~5台並べてみて、とっかえひっかえしてみると、違いがよく見えてきます。
プリアンプに無性に惹かれた時期があり、80年代の比較的お安く入手できるプリを5~6台つなぎかえて、あーでもないこでーもないとやっていたことがあります。

ヤフオクではあまり欲を出さなければ、各機種が比較的低廉に入手できるので、こうした聴き比べがしやすいというメリットがあります。
聴き比べを何度かしてみると、上述のインターネット上の評価情報の少なさがすごく気になってきます。「なぜ自分の耳で聴いた評価を公開する人が少ないのか?」→「それだったら自分でどしどし書いてやろう」という思いがもたげてくるわけです。(続く)

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