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【スパイ防止法】イギリス「Official Secrets Act」─ 戦時の諜報経験を100年活かす国家

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Alternative2025Oct26d.png本投稿を執筆する背景は、前回の投稿に記しました。

【スパイ防止法】アメリカの「スパイ防止法」から日本が学ぶべきこと Espionage Act of 1917

イギリス「Official Secrets Act」─ 戦時の諜報経験を100年活かす国家

自由と安全保障を両立する"老練なスパイ防止国家"の設計思想

第1章 "諜報国家イギリス"の原点は第一次世界大戦にある

イギリスのスパイ防止法は、Official Secrets Act(オフィシャル・シークレッツ法)として1911年に制定された。
その目的は、ドイツ帝国による産業・軍事スパイへの対抗だった。
この法律は、その後100年以上にわたり、国家情報機関(MI5・MI6)を支える法的基盤として生き続けている。

第二次世界大戦中、イギリスは「エニグマ暗号解読」「ダブルエージェント運用」「欺瞞作戦(Operation Fortitude)」など、世界最高レベルの諜報作戦を展開。
これらの戦時経験が、戦後の法制度にも受け継がれた。
スパイ防止法は単なる刑罰法ではなく、情報を国家戦略として扱う哲学の中で成熟した。

日本の議員が学ぶべき点

  • 諜報・防諜活動は「戦時の特殊任務」ではなく「平時の国家運営」に不可欠。

  • 法制度は、現場の経験とセットで成長させる必要がある。

第2章 Official Secrets Actの中身と特徴

イギリスでは1911年、1920年、1939年、1989年と段階的に改正が重ねられた。
特に1989年改正では、時代に合わせて「報道との境界」を整理している。

主な構成要素

  1. 国家安全情報の保護
     軍事、外交、情報活動に関する資料の不正入手・漏洩を犯罪とする。

  2. 職務上の守秘義務の明確化
     政府職員・契約企業の職員は、自らが扱う情報の重要性を理解したうえで義務を負う。

  3. 報道・出版に対する制限の明確化
     「国家機密に該当する場合のみ」刑罰の対象とする。
     曖昧な「不利益情報」までは処罰対象としない。

この限定設計によって、イギリスは「守秘」と「報道の自由」の均衡を保っている。

日本の議員が学ぶべき点

  • 「国家機密」の範囲を明示し、恣意的な拡張を防ぐ明文化が不可欠。

  • 官僚・契約企業を含めた守秘教育と責任体系の整備が制度の基礎になる。

第3章 象徴的な事例とその意義

① ケンブリッジ・ファイブ事件(1951年発覚)

ケンブリッジ大学出身の外交官・情報将校らが、20年以上にわたりソ連に機密情報を流出。
MI5の内部にもスパイが潜入していたことで国家的衝撃を与えた。
→ 教訓:"信頼の内部にスパイがいる"という現実を法制度に組み込む必要性

② ピーター・ライト事件(1980年代)

元MI5職員が回顶録『Spycatcher』を海外出版し、機密情報の漏洩を疑われた。
政府は出版差し止めを求めたが、オーストラリア高裁は表現の自由を優先。
→ 教訓:政府の秘密保護と報道の自由を法廷でバランスさせる仕組み

③ キャサリン・ガン事件(2003年)

イギリスのGCHQ(Government Communications Headquarters=政府通信本部)に勤めていた職員が、アメリカによる国連盗聴活動を暴露した事件。
起訴されたが、検察が訴追を断念。
→ 教訓:公共の利益に資する告発は、国家への裏切りではない

日本の議員が学ぶべき点

  • 内部告発・公益通報との整合をとることが、民主国家の成熟。

  • スパイ防止法と「公務員倫理法」を一体運用できる枠組みを設計すべき。

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キャサリン・ガン事件の概要

  • 時期:2003年(イラク戦争開戦前)

  • 人物:Katharine Gun(当時、GCHQ勤務。NSA=同盟国である米国の国家安全保障局との通信翻訳を担当)

  • 出来事:

    • 彼女は、NSAがイラク侵攻を支持する国連安保理加盟国の外交官を盗聴・傍受しようとしているという内部メモを見つけました。

    • そのメモを英国紙「The Observer」にリーク(内部告発)し、アメリカが戦争支持を得るために国連をスパイしていた事実が公になりました。

法的経過

  • 英政府は、ガンを「国家機密法(Official Secrets Act)」違反で起訴。

  • しかし、2004年に検察が突然訴追を取り下げ。

    • 理由は明確にされませんでしたが、裁判になれば政府内部文書のさらなる暴露につながる恐れがあったため、と報じられています。

  • 結果として、ガンは無罪のまま釈放。

第4章 情報社会のいま:イギリスが示す"冷静な現実主義"

現在のイギリスは、テロ・サイバー・外国干渉に対応するため、
スパイ防止法をさらに拡張したNational Security Act 2023を施行した。

この法律は、外国勢力による影響工作、サイバー攻撃、企業スパイなどを新たに対象とする。
同時に、報道・学術活動の自由を除外条項として明記し、民主主義の根幹を守っている。

つまり、イギリスは100年を経てもなお、「安全保障の現実主義」と「自由主義の理念」を法の中で調和させようとしている。

日本の議員が学ぶべき点

  • スパイ防止法は、時代とともに"再設計できる法律"であるべき。

  • 新法制定と同時に、5〜10年ごとの運用見直し条項(sunset clause)を設けることが、長期的なバランスを維持する鍵となる。

結語:戦時の経験を"冷静な制度"に変えた英国流の知恵

イギリスは、戦争の恐怖を知るがゆえに、法律を過剰には使わない。
その強さは、国家が国民を信頼し、国民が国家を信頼する"社会契約"にある。

スパイ防止法を作るとは、敵を疑う法律を作ることではない。
信頼を裏切らせない仕組みを作ることだ。


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