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エージェント型AIが突きつけるインフラ革命:利益プールの行き先はどこか

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ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントは2026年5月7日、AIインフラ投資の構造変化を取り上げたレポート『Investing in the Architecture of AI's Future』を公表しました。エージェント型AI(AI 2.0)が常時稼働する段階に入り、これまで半導体・メモリ・製造に集中してきた利益プールが、電力・送電網・冷却・部材といった下流の物理基盤へ移っていく状況が示されています。米国だけでも2028年までに45ギガワットの電力不足、2030年までに76万人の電力人材不足が想定され、AIの拡張速度は学習モデルそのものではなく物理基盤の整備力に依存する局面に入ったといいます。

今回は、エージェント型AIによる電力需要の急増、物理インフラのボトルネックや利益プールの下流シフト、そして、今後の展望について取り上げたいと思います。ChatGPT Image 2026年5月17日 14_17_57.jpg

エージェント型AIが引き起こす電力需要の指数関数的拡大

エージェント型AIは、対話型のチャットボットとは性質が異なります。複数の工程を自律的に処理し、人間の指示を待たずに常時稼働するためです。ゴールドマン・サックスのレポートによると、エージェント型AIのクエリ単位のGPUエネルギー消費は、従来の単発推論と比べて60〜130倍に達すると見込まれています。エージェントは1回の応答でチャットの約4倍のトークンを処理し、複数エージェントが連携するシステムでは15倍にまで広がるという、アンソロピックの分析も挙げています。

さらに、利用頻度そのものが質的に変化する状況です。従来は人が必要に応じて呼び出す利用形態でしたが、業務フローに常時組み込まれる前提に変わると、推論需要の総量は指数関数的に拡大すると想定されます。2026年のAI関連設備投資は7,500億ドルを超えると予想され、米国だけで3,400件超のデータセンターが計画もしくは建設中、としています。

米国電力市場が抱える45ギガワットの不足

エージェント型AIの本格運用を支えるには、24時間稼働する電力と冷却が必要となります。ゴールドマン・サックス・グローバル投資調査部の試算では、2025〜2028年に米国でAIデータセンター向けに求められる電力は、既存の送電網余力と建設中の電源を差し引いてもなお45ギガワット不足する見通しです。2030年までに新規で72ギガワットの電源容量が必要となり、これは大型原発72基分に相当する規模、としています。

発電量の確保だけでは課題は片付きません。送電・配電を担う熟練人材は2030年までに76万人不足し、3〜4年の訓練を要する送配電技術者は20.7万人不足する状況です。加えて、変電所や高電圧ケーブル、鉄鋼といった基幹部材は供給制約の長期化が続いており、大規模案件に適した用地そのものも限られています。物理層の制約が、AIの拡張速度に直接的な天井を設けつつあります。

利益プールが下流に移っていく構造

現時点のAIインフラ利益プールは、半導体・メモリ・製造分野におよそ90%が集中している、とゴールドマン・サックスは示しています。半導体・製造・メモリ・サーバーの合計EBITは、電力・部材・データセンターサービス各社の約9倍に達するといいます。レポートは、この偏りこそが構造的なミスプライシングを生んでいると見ています。変電所や高電圧ケーブルの供給遅延は、物流上の課題にとどまらず、エージェント型AIインフラの展開速度と建設コストを直接的に制約しているためです。

需要が一段と高まる前提に立てば、ボトルネックを解決する下流の事業者へ価値が移っていくと考えられます。半導体への集中投資は短期的には利益率を押し上げてきましたが、稼働の前提となる電力・接続・サービスが整わなければ、その利益自体が頭打ちになる状況です。投資家の視線が、ピークから裾野へ移ろうとしています。

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投資機会となる4つの領域

ゴールドマン・サックスは、エージェント型AIインフラの骨格を担う領域として、4つの軸を挙げています。第一は電力で、系統接続型の電源、需要家構内の自家発電(ビハインド・ザ・メーター)、分散型エネルギー、熱・バックアップ系を含みます。第二はサービスで、データセンターのファイバー融着やサイト選定、電源・冷却設計を一体で担うエンジニアリングサービスが対象となります。

第三は部材で、ハイパースケーラーへ直接供給される差別化された電力分配機器や、超高速ネットワーク・メモリ系の構成要素が含まれます。第四はエージェント対応型インフラで、系統電源を確保した都市部立地に置かれ、計算能力で差別化された高性能データセンターが該当します。投機的な過剰供給に晒されにくい立地と運用設計が、長期的な競争力を支えると見られています。

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機関投資家の視線と過去の実績

ケンブリッジ・アソシエイツのデータによると、2009〜2020年ヴィンテージのデジタルインフラ特化ファンドは、中央値で10.2%、上位四分位で44.8%のネットIRRを記録しています。電力ファンドの中央値が約マイナス0.07%、再生可能エネルギーファンドが約マイナス0.08%にとどまる中、デジタル領域の収益性は群を抜く水準でした。

データセンター・プラットフォームに代表されるデジタルインフラは、長期契約・資産集約型・低損失率というインフラ的特性と、上場株式に近いリターンプロファイルを兼ね備えています。これまでデータセンター中心の組成だった機関投資家(LP)は、ポートフォリオ分散の観点から「次の一手」を模索しており、安定キャッシュフロー型の伝統的インフラ投資から、グロース志向のPE型投資へと選好を広げ始めている状況です。バブル懸念と次世代AI機会への期待が、同じテーブルで議論される段階に入りました。

政策・現場・国際競争にまたがる摩擦

物理基盤の整備は、個別企業の経営判断だけでは完結しません。送配電網の容量増強は地域系統運用機関の許認可や住民合意を伴い、用地確保や変電所工事は数年単位の遅延を含むことが想定されます。米国では電力人材の高齢化と退職時期が重なり、訓練期間の長い送配電技術者の供給は短期的に増やしにくい構造です。

加えて、ハイパースケーラーが個別に系統接続を急ぐ動きが、地域の電力料金や信頼度に影響を与え、規制側との緊張も生まれ始めています。代替案として、小型モジュール炉(SMR)や天然ガスのコンバインドサイクル発電、需要家構内型発電の組み合わせが検討されていますが、いずれも環境政策や立地制約と折り合いをつける必要があります。AIインフラ整備は、資本力競争にとどまらず、制度設計と地域協調を含む総合戦に変わりつつあります。

今後の展望

エージェント型AIが本格普及する2026年以降、AIの拡張速度を規定するのは半導体性能の進化だけではなく、電力・送電・部材・人材という物理層の供給力になると予想されます。米国の電力ボトルネックは日本企業にとっても他人事ではなく、ハイパースケーラーが地理的分散を求める動きは、国内データセンター需要の押し上げ要因となるでしょう。政策面では、系統増強の規制設計、SMR導入の制度整備、送配電人材の育成投資がかみ合うかどうかが問われます。

投資判断としても、AI関連を半導体・モデル偏重で捉える視点から、下流の物理インフラを含む立体的な投資へ視野を広げることが求められます。AIの競争力は、計算資源を物理的に確保する力と同義に近づきつつあります。インフラ整備を経営課題として正面から扱う姿勢が、次の競争環境では重要となっていくでしょう。

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