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ボストンダイナミクスのフラッグシップ「Atlas」をロボット工学的に読み解く:BDとトヨタとの提携

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2023年、Boston Dynamicsは電動化された新型Atlasを発表し、世界のロボティクス界に大きな衝撃を与えました。(従来は油圧で動いていた)
本記事では、Atlasの設計思想を工学的に解剖し、そこに宿る「力・バランス・知能」の融合を読み解いていきます。

■ 1. 機械構造:高出力と軽量性の絶妙なトレードオフ

最新のAtlasは、身長約150cm、体重89kgという人間サイズを保ちつつ、爆発的な運動性能を備えています。
フレームは軽量アルミニウム合金と3Dプリントされたチタン構造からなり、関節自由度は28DoF前後
上半身と下半身、首、手に至るまでの緻密な設計により、複雑な姿勢制御が可能です。

従来モデルに一部採用されていたSEA(Series Elastic Actuator)は、最新版では完全電動アクチュエータに置き換えられ、高速性と応答性が向上しました。

■ 2. アクチュエーション:油圧から完全電動へ

Atlasの初期バージョンは油圧駆動が特徴でしたが、2023年の"Electric Atlas"では完全電動化されました。
これにより、保守性や静粛性に優れ、運用環境の多様化が可能となっています。

各関節には高トルク・高出力のモータと高効率減速機が最適配置され、冷却系と密に連携しながら高速動作時の熱安定性を確保しています。

■ 3. 動作制御:動的平衡をリアルタイムで

Atlasの制御技術の中核には、Model Predictive Control(MPC)とZMP(Zero Moment Point)ベースのバランス維持制御が融合しています。

パルクール動作や宙返りといった高度な動作では、時間最適化された軌道生成接触ダイナミクスのリアルタイム予測が不可欠です。

特筆すべきは、Atlasが"転倒しそうな状況を予測し、1ステップ前に修正動作を始めている"点です。
これはバイオメカニクス的にも極めて人間に近い挙動であり、「機械の反応」を超えた「準予測的知能」に近づいています。

■ 4. 知覚:環境を読み、自身を認識する

Atlasには深度カメラ、LiDAR、ステレオビジョン、IMU(慣性計測装置)が搭載され、自律状態推定と周辺マッピングを実現しています。

特にジャンプや不整地走行の際には、瞬時に足場の形状を認識・判断し、自律的に踏み替える挙動が観察されます。

これらはすべてオンボード処理で行われており、ローカル推論×リアルタイム反応の実現は、エッジコンピューティングの最前線を示しています。

■ 5. ソフトウェアスタックとAI統合

Atlasのソフトウェア基盤は公開されていませんが、ROSベースの独自リアルタイムOSを内包しており、近年では模倣学習・強化学習の統合が進んでいます。

2022年に設立されたBoston Dynamics AI Instituteでは、Atlasの運動制御にAIを段階的に導入し、「ルール駆動」から「学習駆動」への移行が進行中です。

これは、Tesla Optimusなどが目指す大規模言語モデル(LLM)との統合による指示理解と物理制御の融合と同様、今後の必須進化といえます。

■ 6. 動作デモ:その一歩一歩がメッセージ

  • 前方宙返り(Backflip):時間軸の正確さとトルク制御の極致

  • パルクール動作:動的障害物の自己調整と接地反応の進化

  • 工場ワークシナリオ:工具運搬と協働作業の試験的実装

これらは単なる「魅せる技術」ではなく、Sim2Realの超高精度移行事例であり、仮想空間に依存せずに実機で調整された「究極の物理学習」モデルの証左です。

■ 工学的インパクト:Atlasが開いたロボティクスの新章

Atlasは以下の3点において、他社ヒューマノイドとは一線を画します:

  1. 動的バイオメカニクスの模倣性

  2. リアルタイム制御×接触応答の融合

  3. 物理空間での圧倒的なチューニング実績

Boston Dynamicsが"Atlasを量産せず、今も研究機に留めている理由"は、限界性能の探索を優先しているからとも言えます。

■ 今後の展望:産業用途とAI統合

  • 建設業・製造業など危険・反復作業への適応(荷物搬送、足場点検など)

  • LLMやVLM(視覚言語モデル)との統合による"言われた通りにやる"から"文脈を読んで動く"ロボットへ

  • Tesla Optimusなどとのアプローチ比較:Atlasはトップダウン制御重視、Optimusはエンドツーエンド学習志向

【参考資料・文献】

  • arXiv: Whole-body control of a hydraulically actuated humanoid robot

  • IEEE ICRA / IROS 論文(複数年)

  • Boston Dynamics 公式YouTube・ブログ

  • 米国特許公報(関節設計・冷却構造等)

  • Boston Dynamics AI Institute発表資料


今泉注:テクニカルな記述はChatGPT最新版がよくする所で、私ごときがラーニングしながら書くよりも、よほど正確な記述ができます。関係各位に間違いのない形でAtlasのロボット工学的分解を提供させていただくため、このようにしております。続いて、Tesla Optimusなどの主要モデルについても掲出して参ります。


付録:米国Toyota Research InstituteとBoston Dynamicsとの提携について

2024年10月、トヨタの研究機関であるToyota Research Institute(TRI)とBoston Dynamicsは、汎用ヒューマノイドロボットの開発を加速するための提携を発表しました。この提携では、TRIが開発した「大規模行動モデル(LBM)」と、Boston Dynamicsの人型ロボット「Atlas」の組み合わせにより、ロボットが多様なタスクを迅速に学習・実行できるようにすることを目指しています。 GIGAZINE

LBM: Large Behavior Model (TRI)

TRIのLBMは、ロボットが人間のデモンストレーションから新しい行動を学習し、自律的にその行動を展開できるようにするAIモデルです。これにより、ロボットは複雑なコードを記述することなく、多様な動作スキルを習得することが可能となります。 Rockingrobots

この共同研究の最終的な目標は、工場の組立ラインや家庭での高齢者介護など、実用的な場面でロボットを活用することです。ただし、両社は短期的な商業化よりも基礎研究に重点を置いており、具体的なスケジュールや予算については明言していません。 トラロジ

このように、トヨタとBoston Dynamicsの共同研究は、AIとロボット工学の融合による次世代ヒューマノイドロボットの実現に向けて、着実に進展しています。

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