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BYDはなぜ史上最強的に強いのか?そのメカニズムを解き明かした

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BYDがなぜあのように強いのか?単に安くて高品質のEVを生産販売する企業というのではない、むしろ圧倒的な強みを持って中国国内市場だけでなく欧州や東南アジアそして、日本にも入って来ようとしている恐るべき企業です。その秘密がようやくわかりました。複数の要素が複合してBYDの強さになっているのです。

BYDは「ティア0.5」

BYDは、調べてみると、従来の自動車メーカーとまったく異なる着眼点を持って展開している会社だということがわかってきます。それは同社がバッテリーの専門会社だったという由来にも関係しています。つまり部品会社であった所が完成車メーカーになってしまったという、ある意味、突然変異を遂げている訳です。

これを中国の自動車業界では「ティア0.5」と呼んでいるそうです。事実BYDは、同社が世界に誇るブレードバッテリーを競合他社に売り、同社が内製している半導体を競合他社に売っています。部品メーカーとしても機能しているのです。

深く調査をするとそのような従来の自動車メーカーにはないBYDの特徴が浮かび上がってきます。以下、先日刊行した調査報告書から抜き書きして行きます。

ブレードバッテリーは他社にも供給

引用

ブレードバッテリーはBYD自身の車両(例:Hanシリーズ)だけでなく、テスラ、トヨタ、メルセデス・ベンツなどの他の主要自動車メーカーにも供給または検討されており、その技術的競争力を示している 。 ブレードバッテリーはBYDの革新の好例である。LFPの主要な限界(歴史的に低いエネルギー密度)に対処しつつ、その強み(安全性、コスト)を増幅させ、非常に競争力のあるバッテリーソリューションとなっている。ブレードバッテリーの革新的なCTP構造 は、BYD自身の車両を改善するだけでなく、LFP化学をより広範なEV用途にとってより魅力的にする技術的イネーブラーとして機能し、競合他社にとっても同様である。

スマートファクトリーの圧倒的な生産効率化

引用

BYDは、インテリジェント変革戦略の中核として、インダストリー4.0技術、自動化、インテリジェント管理システムによる生産ラインのアップグレードに多額の投資を行っている 。

  • 実践される自動化:

    ロボティクス: BYDはバッテリー生産ワークショップで500台以上の産業用ロボットを導入し、組立、試験、包装を担当させ、高速かつ精密な操作を通じて一貫性と高品質を確保している 。同様の自動化は自動車組立ワークショップでも適用されている。

    無人搬送車(AGV): AGVは生産ワークショップ内の自動材料搬送に使用され、計画に基づいて材料を生産ラインに正確に配送し、材料配送効率を40%向上させている 。

    中略

  • 定量的なインパクト:

    • 生産効率30%向上

    • 生産コスト20%削減

    • 不良品率15%削減(自動検査による)

    • 設備故障率25%削減(IoTを活用した予防保全による)

強靭なサプライチェーン

引用

分散型生産とローカライズされたサプライチェーン: BYDは中国全土に10拠点以上の車両生産拠点を「分散配置」しており、その多くは準一線都市以下に位置する。この戦略は「単一点リスク」(例:特定の工場がロックダウンの影響を受ける)を回避し、しばしば現地の「車両+部品」産業クラスターの構築と連携し、サプライチェーンの強靭性を高めている 。

バッテリーの製品革新とプロセスイノベーション

引用

ブレードバッテリーのCTP(Cell-to-Pack)設計は、モジュール段階を省略することで、バッテリーパックの組立プロセスを本質的に簡素化する 。この簡素化は、部品点数と組立工程の削減、パック組立に必要な労働力の低減、組立時間の短縮の可能性、複雑なモジュール製造・ハンドリング装置の必要性の低減につながる。これらの要因は、LFP化学の材料コスト削減を超えて、バッテリーパック全体の製造コストを低減することに貢献する。ブレードバッテリーの設計自体が製造効率の向上を可能にしており、製品革新とプロセスイノベーションがBYDでいかに相乗効果を発揮しているかを示している。

生産のスケールが他社の参入障壁になっている

引用

BYDの莫大な生産規模 は、単独でコストメリットを提供するだけでなく、垂直統合戦略から得られる利点を大幅に増幅する。BYDが内製する部品(バッテリー、モーター、IGBTなど)については、車両生産量が多いということは、これらの社内「工場」も大規模に稼働することを意味する。これにより、垂直統合された資産の利用率が最大化され、これらの重要な自給部品の単価が、少量生産の場合の垂直統合だけでは達成できないレベルまでさらに引き下げられる。

この相乗効果は、参入障壁を強固なものにする。競合他社は、BYDの垂直統合を模倣するだけでなく、そのコスト構造に匹敵するためには同等の規模を達成する必要がある。BYDシーガルのようなモデルを非常に低い価格帯で利益を上げて提供できる能力 は、この増幅効果の直接的な結果であり、BYDをEV普及の民主化において強力な力としている。

利益とシェアが「フライホイール効果」を生み、さらなる投資につながっている

引用

このブレードバッテリーは、CTP設計により製造を簡素化する(セクションII.B)。車両生産の規模(セクションIV.B)は、内製のバッテリーおよび半導体(セクションIII.D)工場をより費用対効果の高いものにする。これは静的な利点の集合ではない。BYDが研究開発にさらに投資するにつれて(次世代バッテリー、より優れたIGBTなど)、これらの革新は統合された製造システムを通じて迅速に規模が拡大され、コストが最適化される。

現在の利点から得られる利益と市場シェアがさらなる投資を促進し、肯定的なフィードバックループまたは「フライホイール」を生み出す。この複合効果は、BYDのコストと品質の差が多くの競合他社との間で時間とともに拡大する可能性があり、そのモデルを非常に堅牢で模倣困難なものにしていることを意味する。

BYDの垂直統合モデルは常に進化している

引用

BYDのモデルは静的ではなく、垂直統合へのアプローチは進化してきた(例:部品内製率を80%から50%に削減 、サプライチェーンの開放 )。これは、コア領域における深い管理と、その他については外部エコシステムを活用するという戦略的適応性を示している。これは、そのコア戦略の弱体化ではなく、洗練された進化である。BYDは、最も重要で差別化された技術(バッテリー、コアパワーエレクトロニクス、車両ソフトウェア統合)に対する深く、ほぼ絶対的な管理を維持している。


BYDの戦術的戦略的な脅威を知ることができる調査報告書

以上の引用は以下の調査報告書

BYDの強さのメカニズムを徹底的に解明した調査報告書

から抜き出したものです。BYDの戦術的戦略的な脅威を知るには不可欠な記述や分析を含んでいます。ぜひともご活用下さい。

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