シリコンフォトニクスとCPOが描くAIデータセンターの今後
台湾の調査会社TrendForceは2026年5月5日、AI向け光トランシーバーの世界出荷台数が2023年の約2,650万台から2026年には9,200万台超へと3倍以上に拡大するとの見通しを公表しました。
生成AIの普及を受けたデータセンター投資の急拡大が背景にあり、需給と仕様の決定権がクラウド事業者へと移行しつつある状況です。同時に、米国の対中規制と「Out of China」の流れが重なり、米国ベンダーは内製中心の生産モデルから東南アジア委託を組み込んだハイブリッド型へと舵を切りつつあります。サプライチェーン再編、台湾エコシステムの再評価、そしてCPO時代の参入条件は、AIインフラ投資の前提を更新する論点となります。
今回は、米国ベンダーの委託転換、台湾エコシステムの広がりや半導体起点の参入経路、そして、今後の展望について取り上げたいと思います。

出荷量3倍超のAI光通信市場とその構造変化
TrendForceによると、光トランシーバーの世界出荷台数は2023年の2,650万台から2026年には9,200万台超へと3倍以上に拡大すると予想されます。背景には、ハイパースケーラーによるAI学習・推論基盤への大規模投資があります。モデル規模の拡大とパラメータ並列学習の進展により、GPU間通信帯域への要求は数百Gbpsから1.6Tbps級へと急速に引き上げられている状況です。
これまで光通信市場は通信キャリアの設備投資サイクルに連動して動いてきました。AIインフラ投資の主体がクラウドサービス事業者(CSP)に移行したことで、需給と仕様の決定権が通信機器メーカーからクラウド側へと移ってきたと考えられます。サプライチェーン全体の優先順位も、長期安定供給からハイペースな能力増強へと組み替えられています。
問われているのは、誰が量産需要の急拡大を取りにいけるのか、そして高速化と低消費電力化の両立にどの技術スタックで応えるのかという二点です。次章以降では、量産帯の覇権を保ってきた中国勢と、高付加価値領域に経営資源を集中させてきた米国勢のすみ分けを起点に、再編の構図を読み解きます。

中国勢の量産優位と米国勢の高付加価値戦略
TrendForceは、中国の光通信ベンダーが規模と原価競争力を背景に、Ethernet向けトランシーバーやFTTx向け部材で長期にわたり主導的な地位を保ってきたとしています。InnolightやEoptolinkなどは、標準化された量産品で価格優位を確立しており、参入障壁は高い水準にあります。
これに対して米国ベンダーは、密度波長分割多重(DWDM)やコヒーレント光学など高付加価値領域に経営資源を集中させてきました。コアネットワークやデータセンター間接続では優位性を保つ一方、プラガブル光モジュールの量産帯では中国勢に押される構図が続いてきたと整理されます。
このすみ分けは、AI需要が立ち上がる前までは合理的な戦略でした。CSPが800Gや1.6Tの高速プラガブル光モジュールを大量に調達し始めたことで、量産帯の重要性は再評価されています。米国勢にとって、量産能力を自社内で抱え続けることは、投資効率と地政学リスクの両面で再検討の対象となり、外部委託の比重を引き上げる必要が生じている状況です。
内製から委託へ──CoherentとLumentumの戦略転換
米国を代表する光通信ベンダーであるCoherentやLumentumは、これまで主要工程を内製で支える垂直統合型の生産体制を採用してきました。光学部品の精度や歩留まりが製品競争力を決める領域では、内製による品質管理が合理的だったためです。
しかし、AI需要の急拡大により、自社拠点の能力増強だけでは需要に追随できない状況が生じています。TrendForceは、両社が内製中心の運営から委託活用を組み合わせたハイブリッド型へと舵を切り、能力拡張のスピードと供給リスクの分散を同時に追求しているとしています。
委託先選定では、中国を経由しないサプライチェーンの構築が前提条件となっています。米国の対中規制とCSP側のコンプライアンス要件が重なり、東南アジアに製造拠点を持つパートナーが優先される状況です。委託モデルの設計はコスト削減という枠組みを越え、地政学的に許容される供給網をいかに迅速に組み上げるかという経営判断と直結しています。ここで問われるのは、委託先の量産品質を維持しつつ、機微な工程を自社に残す線引きの設計です。
「Out of China」が押し上げる台湾エコシステムの広がり
東南アジア委託の流れは、域内に組立・検査の能力を蓄積してきた台湾系企業に大きな受注機会をもたらしています。台湾のEMSやODMは、サーバー受託生産や光学組立の知見を背景に、米国ベンダーから流れてくる量産案件を取り込みやすい立場にあります。
ここで重要となるのは、台湾エコシステムが組立工程にとどまらない点です。TrendForceは、台湾には半導体ファウンドリ(PICプロセス)、2.5D/3D実装に対応する先端OSATパッケージング、光電ハイブリッド検査基盤、精密光学組立、サーバーODMまでが連なる一貫した産業基盤があるとしています。
サプライチェーン再編が進むなかで、組立力単体ではなく、前工程から後工程までを束ねる総合力が評価軸となっています。日本にとっても、デバイス材料や精密光学部品、検査装置で蓄積してきた競争力を、台湾エコシステムや米国ベンダーの委託網にどう接続するかが事業機会の見極めにおいて重要となります。地域分業の中で何を担うかという設計力が問われる状況です。
銅配線の限界とシリコンフォトニクス・CPOへの移行
高速化と消費電力の課題は、光通信市場の競争軸を入れ替えつつあります。データセンター内の銅配線は、伝送速度の向上に伴い信号品質と消費電力の双方で限界に近づいているとされます。これを背景に、シリコンフォトニクス(SiPh)とCPO(Co-Packaged Optics:光電融合)が長期的な解として位置づけられています。
CPOは、スイッチASICのすぐ近傍に光エンジンを配置し、電気配線の長距離伝送を排除する構成です。NVIDIAやBroadcomを中心に、ハイパースケーラー向けスイッチで採用検討が進んでおり、800G・1.6T時代以降の標準的な選択肢の一つとなる可能性が高まっています。
CPOの実装には、ウェハレベルの設計・実装能力、光電混載パッケージング、専用検査基盤など、半導体寄りの技術スタックが必要となります。従来の光通信ベンダーが得意としてきた組立工程の延長線上では完結しません。技術の主戦場が組立から前工程へとシフトしており、半導体産業のプレーヤーが参入する余地が広がっていると考えられます。

半導体インフラを起点とする新規参入の構図
CPO時代の到来は、光通信に直接関わってこなかった半導体企業や受託製造企業に新しい参入経路を開いています。TrendForceは、ファウンドリ、OSAT、検査、組立、サーバー製造の各領域を横断的に活用できる事業者が、AI光通信における基幹インフラの供給者へと進化しうるとしています。
参入の起点となるのは、既存の半導体インフラをいかに光電ハイブリッド領域に拡張できるかという技術投資です。コモディティ化が進む量産品で中国勢と価格競争を続けるよりも、半導体・光学統合プラットフォームに早期投資する方が、利益率と地政学的な許容性の両面で有利に働くと想定されます。
日本企業にとっては、フォトニクス材料、光半導体、精密実装、検査機器など、長年積み上げてきた技術資産を国際分業の文脈に再配置する局面が訪れています。米国ベンダーの委託網や台湾エコシステムの中で、補完的役割を担う領域を見極めることが、AI光通信における持続的なポジショニングにつながると考えられます。単独で完結するモデルではなく、地域分業のどこに価値を据えるかが問われる時期に入っています。
今後の展望
AI光通信市場は、量産帯の供給網再編とCPOへの技術移行という二つの構造変化が並行して進む局面に入っています。短期的には、米国ベンダーの東南アジア委託拡大により、台湾系EMSやODMがプラガブル光モジュールの能力増強の中心となる状況が続くと予想されます。中期的には、CPOやシリコンフォトニクスの本格採用により、ファウンドリと先端パッケージングが主戦場へと移行すると想定されます。
国際競争の力学も、組立規模を競うフェーズから、前工程と実装の統合プラットフォームを競うフェーズへ切り替わるでしょう。日本企業にとっては、フォトニクス材料、光学部品、検査装置、設計IPなど、要素技術を国際分業の中で適切に再配置できるかが事業機会の輪郭を定める論点となります。経営側には、技術ロードマップを米国CSPと半導体産業の動きに同期させる視座、そしてアジア地域での戦略的提携を再構築する判断が求められています。AI光通信は、組立能力の延長戦から、半導体インフラを起点とする統合競争へと舞台を移しつつある状況です。
