Appleが異常な収益性を生んでいる構造がわかった!「垂直統合×EMSアウトソーシング」の"選択的統合"モデル
AppleがiPhoneの生産をインドに移管することについて色んな角度から調査をしていて、Apple本体のサプライチェーン戦略が浮かび上がってきました。そしてさらにそれを突っ込んで調べたところ、以下が判明しました。シェアします。
Appleの"異常な収益性"とは?
Appleは、世界最大のスマートフォンメーカーの一角でありながら、営業利益率が20〜30%台に達する異例の高収益企業です。
たとえば:
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iPhoneの売上構成比は60%以上
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さらにiPhone本体の利益率は40〜50%とされる
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他の製造業(例:自動車、家電)が10%以下にとどまる中で、この差は異常です
この"異常な収益性"の背景には、Apple独自の製造戦略があります。
それが、「選択的な垂直統合 × 外部委託(EMS)アウトソーシング」というモデルです。
用語の確認
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垂直統合(Vertical Integration)
=製品に関わる工程を、企画〜販売まで自社内で完結させるモデル
→ 例:Appleはチップ設計(A17/M3)・OS(iOS/macOS)・ハード設計・店舗(Apple Store)を内製 -
EMS(Electronics Manufacturing Services)
=電子製品の組立・部品調達などを、外部の専門企業に委託すること
→ Foxconn(鴻海精密)、Pegatron、Wistron、LuxshareなどがAppleのEMSパートナー
Appleの製造戦略は「選択的統合」
Appleは、すべてを内製しているわけではありません。
むしろ、「どこを自社でやり、どこを他社に任せるか」を極限まで戦略的に設計しています。
項目 | 内製(垂直統合) | 外部委託(EMS) |
---|---|---|
チップ設計(A/M系) | ◎自社(Apple Silicon) | X |
OS・ソフトウェア | ◎ 自社(iOS, macOS) | X |
ハードウェア設計 | ◎ 自社 | X |
実際の製造・組立 | X | ◎ Foxconnなど |
部品の調達 | X(一部共同) | ◎ EMS主導 |
店舗(リテール) | ◎ Apple Store | X |
このように、「上流と下流の最も価値がある部分だけを握り、コモディティ化された部分は委託」しているのです。
なぜこれが収益性を高めるのか?
1. 最も利益率の高い部分だけを握っている
Appleは、ユーザー体験の核となる部分(チップ、OS、デザイン、ブランド体験)を自社で管理することで、製品価格にプレミアムをつけられる構造を築いています。
例)
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類似スペックのスマホ:8〜10万円
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AppleのiPhone:12〜20万円
→ この価格差の"上澄み"が、Appleの利益です。
2. 製造リスクや設備投資を外部に持たせている
Appleは、自社で工場を持っていません。
→ FoxconnなどのEMS企業に任せることで、在庫リスク・設備投資・雇用リスクを回避できます。
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工場閉鎖や設備老朽化など、重たい問題を抱える必要がない
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市況が悪化しても、需要調整が迅速にできる
これは、"アセットライト経営"の究極系と言えます。
3. サプライヤーに対して圧倒的な交渉力
Appleは、複数のEMSパートナーを使い分けています(Foxconn、Pegatron、Luxshareなど)。
→ これにより、価格競争を誘発しつつ、サプライヤーへの強い交渉力を維持しています。
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「君ができないなら、別のサプライヤーがいる」
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品質管理はApple基準で統一 → ブランド価値は維持
4. 再利用できる"イノベーション資産"が貯まる
自社で:
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OSをコントロールする
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チップ(Aシリーズ/Mシリーズ)を設計する
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ハードウェアとソフトウェアを同時に設計する
ことで、「1つの設計が全製品に波及するレバレッジ効果」が発生します。
例)
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M1チップ → Mac、iPad、Vision Proなど広く展開
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FaceIDやLiDARなどのセンサーデザイン → 他製品にも流用
→ 研究開発のROIが極めて高い。
なぜ他社は真似できないのか?
このモデルは、「規模 × ブランド × 技術力 × サプライチェーン管理」が揃わないと成立しません。
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中途半端に垂直統合すると、コストがかかりすぎる
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中途半端に外部依存すると、品質や納期が乱れる
Appleは20年以上かけてこのバランスを最適化してきました。
日本企業への示唆
Appleの「選択的垂直統合 × アウトソーシング」モデルから、日本企業が学べるのは次の点です:
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本当に価値が出るコア領域だけにリソースを集中する
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製造や物流はパートナー企業と信頼で分担する
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バリューチェーン全体を設計し、支配する視点を持つ
このモデルは、単なる効率性ではなく「支配性(支配力)」を生む設計思想です。
追記:このモデルは、トヨタを例外として、すべての自動車メーカーに教訓を与えていると思います。自前主義からの脱却です。