自動運転ユニット世界シェア7割のMobileyeが世界で取り組む"クラウドソーシング的な地図づくり"
イスラエルが産んだ自動運転(ADAS)の巨人Mobileye。日本の自動運転関係者にはよく知られた存在ですが、一般にはほとんど知られていません。
日産が少し前に手放し運転をCMでアピールしていましたが、あの技術はおそらくMobileyeが提供しているはずです。
その他、トヨタも提携していますし、ホンダも採用していました。欧州最大手のフォルクスワーゲンも大々的に採用しています。
市場分析によれば、2022年時点でADAS用プロセッサ市場におけるMobileyeの売上シェアは約52%と過半を占めます。ユニットベースで見るとMobileyeの市場占有率はなお7割近くに達すると推定され、世界の1.5億台以上の車両にMobileye技術が搭載されている計算になります。
同社とフォルクスワーゲンが最近提携したとのプレスリリースがあったので引用します。最新技術の塊であることがわかります。
Mobileyeプレスリリース:フォルクスワーゲングループ、ValeoおよびMobileyeと提携し、次世代MQB車両の運転支援機能を強化
2025年3月25日 ウォルフスブルク/エルサレム/パリ発 -- フォルクスワーゲングループ(Volkswagen Group)は、今後数年内に導入を予定しているMQBプラットフォーム採用車両において、レベル2+(強化型部分自動運転)までの高度運転支援システム(ADAS)を実装すべく、Valeo社およびMobileye社との提携を発表しました。これは、安全性と快適性の向上を目的とした取り組みであり、顧客ニーズと法規制の双方に対応するものです。
フォルクスワーゲン・ブランド調達担当取締役兼VW AG拡大会経営委員のディルク・グローセ=ロハイデ氏は次のように述べています:
「この協業は、当社の変革プロセスを力強く支援するものです。ハードウェアとソフトウェアを一体で調達することで、調達の効率化、複雑性の削減、開発の迅速化を実現します。また、テクノロジーの高度化とコスト競争力の両立により、顧客にとって高品質なソリューションを提供可能となります。」
本システムでは、高速道路の特定区間におけるハンズフリー運転に加え、渋滞時支援、危険検知、パーキングアシスト、ドライバー監視、360度緊急支援機能なども提供。さらに、拡張現実(AR)ディスプレイ対応など将来に向けた拡張性も備えています。
この共同開発および各ブランド間での調達統合により、VWグループは車両の安全性と自動化技術を進化させながら、開発効率とコスト競争力を高めることを目指しています。
改良された支援システムの特徴
新しいADASシステムは、360度の視界を提供するカメラおよびレーダー群と、ソフトウェア定義型の制御機能を備えており、ハンズフリー運転やスマートパーキング、乗員・歩行者の安全性向上を実現します。
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Valeo社は、高性能ECU、センサー群、パーキングソリューションを提供
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Mobileye社は、EyeQ™6 Highプロセッサを搭載した「Surround ADAS™」プラットフォームと高精度マッピング技術を提供
これらを一体化し、複数のECUを統合した集中型アーキテクチャを採用することで、システム性能・効率の向上と、OTA(Over-the-Air)アップデートによる法規対応の柔軟性が実現されます。
自動運転の巨人 Mobileyeに関する包括的な調査報告書(二万字)を刊行
Mobileyeの技術スタックはまことに優れたものです。先ほど刊行した調査報告書
トヨタ、日産、ホンダ、VWも採用。ユニットベース世界シェア7割。Mobileyeの自動運転技術に関する包括的な調査報告書 二万字
から一部を引用します。
Mobileye SuperVision: SuperVisionはMobileyeが自動車メーカー向けに提供するカメラベースの先進運転支援システムで、車両周囲360度をカバーする複数カメラによって実現するハンズオフ(運転手手放し可能)運転支援プラットフォームですen.wikipedia.org。
具体的には、フロント8MPカメラ(広角と望遠の2基)や左右前後のサイドカメラ計4基、リアカメラ1基、および車両周囲の短距離監視用カメラ4基という合計11台のカメラを用いて周囲を常時モニタし、高速道路や一部都市環境において車線変更や追越、歩行者や障害物の回避を自動で行いますmarklines.com.cn。
SuperVisionはカメラのみで動作し、ドライバーは常時前方に注意を向ける必要がありますが、ハンドルから手を放すことが許容されるレベル2+(部分自動運転相当)の機能を実現しますmarklines.com.cn。
このシステムには前述の高性能SoCであるEyeQ5が用いられておりen.wikipedia.org、REMによる高精度地図データも組み合わせることで、従来より安定かつ信頼性の高い運転支援を可能にしています。SuperVisionはまず中国のGeely傘下の新興EVメーカーZeekrが自社車種(Zeekr 001)に搭載し、2021年より一般道での走行実証を積みましたen.wikipedia.org。
近年では欧州メーカーにも展開が広がり、2023年発売のポールスター4(中国・吉利とボルボの合弁ブランド)もMobileye SuperVisionを採用しています。
世界中を走るMobileye搭載車が走るそばから地図情報をクラウドに上げる『リアルタイムの"地図づくりクラウドソーシング"』の仕組み
同じく同報告書からの引用です。
MobileyeのREM(Road Experience Management)は、車載カメラで収集した情報をクラウドに集約して高精度マップを生成・更新する独自のクラウドマッピング技術です。REMでは各車両が「走るセンサー」となり、走行中に検知した車線形状や道路標識、信号機、路端形状などのセマンティックな道路情報をエッジAIで抽出し、必要最小限のデータだけをクラウドに送信しますmedium.com。
下図に示すように、カメラ映像から車線マーキング(ピンク)や進行可能エリア(黄色)、交通標識・信号(赤)といった特徴が捉えられ、これらが地図の構成要素となります。アップロードされるのはこれら抽出情報のみであり、映像そのものは送信されません。
図:MobileyeのREMにおけるセマンティック認識の例。モノクロの実写映像に、検出された車線(Lane Marking)、進行方向矢印(Road Arrow)、走行可能領域(Drivable Path)、道路端(Road Edge)、信号機・標識などの情報が色付きで強調表示されているmedium.com。これはREMによる特徴抽出処理の一例。
REMシステムは、「収集(ハーベスティング)」「クラウド集約」「車載利用」という3つのレイヤーで構成されていますeetimes.com。まず自動車に搭載されたEyeQチップが走行環境をリアルタイムに解析し、地図作成に有用な道路ジオメトリや標識などの特徴点データを圧縮してクラウドに送信します。
この車載側モジュールをMobileyeでは「ハーベスティング・エージェント」と呼びますeetimes.com。クラウド側では各車両から送られた断片的な道路データを統合・整合し、高精度マップデータベース「Mobileye Roadbook™」を生成しますbusinesswire.com。
生成されたRoadbookは地理座標にひも付けられ、地図サーバ上で常に最新情報に更新されます。最後に各車両(マップ消費エージェント)は走行地域の最新Roadbookを必要に応じてダウンロードし、自車のセンサー情報と照合して高精度な自己位置推定や経路判断に利用します。
こうした一連の処理は全て自動で行われ、地図作成の人的コストを劇的に削減しています。
自動車メーカーはモジュール単位で採用できるので便利な存在
Mobileyeは、自動車メーカーにとって、自社の自動運転技術モジュールと組み合わせることができる複数のモジュールを提供してくれるありがたい存在です。
また、自動運転に不可欠な「地図づくり」に関しても、世界中で走っているMobileyeユニット搭載車が走るそばから最新の地図情報をアップデートしてくれるので、大いに頼りにできます。トヨタはGoogle系のWaymoと提携したことが発表されましたが、
トヨタとWaymo、自動運転の普及を加速する戦略的パートナーシップの枠組みに合意
そういうトヨタでも、ある部分はMobleyeのモジュールを組み合わせて高度化できる...といった余地があるようです。非常に興味深い立ち位置にある会社だと言えるでしょう。現在はインテル傘下になっています。
わかりやすいMobileyeの技術解説ポッドキャストもあります
Mobileyeの自動運転技術のさわりがよく理解できるポッドキャストを作成しました。NotebookLMに上記の調査報告書を読ませて生成したものです。これがまたよく出来ています。NHKの科学番組の質の高さです。よろしければ通勤時に聞いて見てください。Mobileyeの技術の高さに驚きます。
YouTubeポッドキャスト VM トヨタ 日産 ホンダも採用 ユニットベース世界シェア7割 ADASの巨人 Mobileye:自動運転ポッドキャスト03