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株式会社インフラコモンズ代表取締役の今泉大輔が、現在進行形で取り組んでいるコンシューマ向けITサービス、バイオマス燃料取引の他、これまで関わってきたデータ経営、海外起業、イノベーション、再エネなどの話題について書いて行きます。

2015年の高速鉄道市場73兆円/2018年Wカップでロシアに超大型の高速鉄道需要(上)

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北京・上海間の高速鉄道が開業したばかりですが、高速鉄道は世界各国で色々が動きがあります。最近、ロシアにかなり大規模な計画があることが明らかになりました。

■ボリュームゾーンはほどほどのスピードのカローラ的パッケージ

MarketResearch.comが今年2月に発表した調査報告書によると、高速鉄道製造の世界市場は2005年に2,440億ドル(19兆7,000億円)。これが2015年には9,070億ドル(73兆3,000億円)に拡大するとの予測です。経産省が水関連のインフラ輸出でよく引き合いに出す数字に、「世界の水ビジネス市場は2025年に87兆円」というものがあります。水という人々の生活に欠かせない分野にほぼ匹敵するサイズが高速鉄道製造にはあるということになります。

この大きな市場は米国などの高速鉄道の後進国、それも多数の国が、日仏などの先進国にキャッチアップする動きのなかでできあがってきます。世界全体は高速鉄道のキャッチアップトレンドの中にあり、毎月のように世界の各地域から関連のニュースが飛び込んできます。日本の車輌製造業界は中長期にわたって市場拡大の恩恵に与る可能性があります。同様に事業機会はフランスのアルストム(Alstom)、ドイツのシーメンス(Siemens)、カナダのボンバルディア(Bombardier)、スペインのタルゴ(Talgo)、中国の南車や北車などにもあり、受注競争は熾烈化するでしょう。
おそらくボリュームゾーンは、そこそこのトップスピードが出せる車体で、建設を含む初期投資が比較的安く済む「高速鉄道システム」だと思われます。時速300km前後にこだわっている国はむしろ少数のようで、旧世代の鉄道網からのアップグレードを図りたい国では時速200km台で十分と考えている様子が窺えます(こちらの投稿のヨルダン高速鉄道計画は時速160km、こちらの記事のポーランド高速鉄道計画は時速250km)。
また新興国の場合は、現地の物価水準により旅客収入にキャップが被さっている格好になっているため、車両価格を含めて初期投資がかさむタイプのシステムは投資回収が長期化するので受注で苦戦を強いられる可能性があります。クルマで言えば、カローラのようなパッケージングがカギになるのではないでしょうか。

■ロシアで始まる超大型の交通インフラプロジェクト

ロシアは昨年末に2018年のワールドカップ開催を勝ち取りました。観客収容数4万5,000から9万の競技場を持つ13の都市で計64試合が行われる予定で、欧州初め世界各国からやってくるサッカーファンをどうやって各都市に送り届けるかが課題となっています。高速鉄道は天候の影響も受けにくく、時間通りに大量の人員を運ぶことができるために、最良の選択肢だと考えられています。また、これを機に老朽化した鉄道網を刷新するのにも役立ちます。

こちらの鉄道メディアの記事が報じる計画概要は、以下のように大規模なものとなっています(Russian Railways to invest in rail for 2018 World Cup)。
●時速300km〜400kmの高速鉄道を以下の区間に建設
- モスクワ(Moscow)・サンクトペテルスブルグ(St. Petersburg)間
- モスクワ・ニジニノブゴロド(Nizhny Novgorod)間
- ニジニノブゴロド・カザン(Kazan)間。将来はエカテリンブルグ(Yekaterinburg)まで延伸
●時速160km〜200kmの高速鉄道を以下の区間に建設
- モスクワ・カハルコフ(Kharkov)・ロストフ(Rostov-on-Don)・クラスノダール(Krasnodar)・アドラー(Adler)間
  - モスクワ・ヤロスラフル(Yaroslavl)間
●準高速鉄道(faster passenger trains)により以下の各都市を結ぶ
- ヴォルガ(Volga)地区の各都市:ニジニノブゴロド、サランスク(Saransk)、サマラ(Samara)、ヴォルゴグラード(Volgograd)、カザン
- ロシア中央地区とバルチック海沿岸のロシアの飛び地カリニングラード(Kaliningrad)
●高速な国際列車の路線を建設
- ロシア・ミンスク(Minsk、ベラルーシの首都)・ワルシャワ(Warsaw)・ベルリン(Berlin)間
- モスクワ・キエフ(Kiev、ウクライナの首都)間
- モスクワ・リガ(Riga、ラトビアの首都)間
- サンクトペテルブルグ・タリン(Tallinn、エストニアの首都)間
●以下の各都市に空港と都市中央とを結ぶインターモーダル(複数の公共交通に対応)な旅客ハブを現存施設を改修、あるいは新設して設置
- モスクワ、エカテリンブルグ、サマラ(現存施設を改修)
- カザン、ソチ(Sochi)、サンクトペテルブルグ、カリニングラード、ヴォルゴグラード、クラスノダール、ヤロスラフル(新設)

上の計画に上がっているうち、一番上の時速300km〜400kmで結ばれる5都市をGoogle Mapでマッピングしたのが以下の図。西のサンクトペテルブルグから東のエカテリンブルグまでは2,000km以上あるようです。(将来的には中国のウルムチからカザフスタンを経て延伸してきた高速鉄道とリンクするのでしょうか?)

Russiahsrmap

その他の項目もすべてを合わせると、先般中止になった米国フロリダ高速鉄道(事業費33億ドル)のゆうに5〜10倍はありそうな超大型の交通インフラプロジェクトではないかと思えます。

これを2018年のワールドカップに間に合わせて建設するということですから、発注側も受注側もきわめてハイピッチで進める必要があります。

関連報道がまだあるようなので、続きを後日記します。

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