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30年前の過ちを繰り返すな!日本の未来は、生成AIを『コスト削減』で終わらせない覚悟にある

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昨日、私が主宰する「ITソリューション塾」第49期の最終回を迎えました。11回にわたる講義の締めくくりとして、日本のテクノロジー業界を牽引するトップランナーのお一人、成迫剛志氏(岐阜大学客員教授、トヨタ自動車 チーフエバンジェリストなどを兼務)に、示唆に富むお話をいただきました。

テーマは「生成AI x ロボティクス 〜ロボットに生成AIを搭載するのではなく、生成AIをロボティクスでリアル世界に召喚する〜」。

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インターネットの黎明期から、その最前線で"インターネットを創る"仕事に携わってきた成迫氏の話は、同じ時代を生きてきた私にとって、深く共感できるものでした。そしてその中で、特に私の心を捉えたのは、生成AIに対する日本企業の関心が、30年前のインターネット黎明期のそれと酷似しているという、衝撃的な指摘でした。

また同じ過ちを繰り返すのか?

氏が紹介したPwCの調査(2024年)によると、日本の企業が生成AIに期待することの筆頭は「工数やコストの削減」でした。一方で、米国の企業は「顧客満足度の向上」に最も高い期待を寄せています。

この構図に、私は、既視感がありました。

そう、今から約30年前のインターネット黎明期です。当時、日本では「安価な通信回線」の登場に沸き立ち、いかに通信コストを削減するかに注目が集まりました。しかし米国では、インターネットを「新たなビジネスの基盤」と捉え、その上で何ができるか、どんな価値を創造できるかに知恵を絞りました。

その結果がどうなったかは、言うまでもありません。米国からはGAFAMに代表される巨大企業群が生まれ、グローバル・ビジネスの主導権を握りました。一方、日本はこの分野でいまだ世界にその存在感を示すことができずにいます。

新たなテクノロジーを「コスト削減の手段」と捉えるか、「新たな価値を創出する武器」として捉えるか。私たちは今、再びその歴史的な岐路に立たされているのです。30年前の感性が、姿を変えて現代に息づいている現実に、私は愕然としました。このままではいけない。同じ過ちを繰り返させてはならない。その思いを強くしました。

日本に残された逆転の一手

そんな閉塞感に風穴を開けるのが、成迫氏の挑戦です。それが、冒頭のテーマ「生成AIをロボティクスでリアル世界に召喚する」というビジョンです。

新興国の猛追を受けながらも、高品質な「ものづくり」において、日本にはまだ一日の長があります。特に、世界をリードするロボットやセンサーなどの産業機器は、日本の宝です。その物理的な強みを活かし、バーチャル世界の頭脳である生成AIと、私たちのリアルな現実世界を繋ぐことで、新たな価値を創造しようという試みです。

例えば、複数のロボットが日本語で自然に会話し、互いに協調しながら作業を進める。そこに人間も加わり、それぞれの得意なことを活かして一つのタスクを完成させる。これは、単なる自動化やコスト削減ではありません。生成AIに「身体」を与え(Embodied AI)、人間と機械が共生する新しい働き方を創造する試みであり、まさに「新たな価値の創出」と言えるでしょう。

すべては「I have a Dream!」から始まる

「I have a Dream!」

キング牧師のあまりにも有名な一節を引用し、成迫氏は「夢を持つこと」の重要性を説きました。今の仕事の延長線上で未来を考えるのではなく、自分が心から実現したいと願う夢(ビジョン)の実現のために、「テクノロジーをどう使うか」を考えるべきだと。

ちなみに、成迫氏の夢は「人間が火星に到達する前に、ロボットを送り込んで、人間が住める街を創っておくこと」だそうです。

目の前の問題を解決する「課題解決型」の発想ではなく、自分の描く未来の姿「夢」の実現をゴールに据え、そこから逆算して今やるべきことに取り組む。それこそが、世界を変える「価値創造」の原動力なのだと、氏は語ります。

そんな話を聞きながら、私は思わず「公私混同も甚だしい」と笑ってしまいました。自分の夢を実現するために、会社という公(おおやけ)の器を最大限に活用しようというのですから。

しかし、考えてみれば、これこそがイノベーションの本質なのかもしれません。一見、個人的に見える夢だからこそ、人は『自分事』として熱狂し、全力で取り組める。そしてその情熱が、結果として会社に新たな可能性をもたらし、未来を切り拓くのです。今の日本には、そんな「健全な公私混同」がもっと必要なのではないでしょうか。

あなたの「夢」はなんですか?

講義の中で、ある受講生からこんな率直な感想が寄せられました。 「成迫さんの取り組みと、今自分がやっている仕事とを、どう結びつけていいのか分かりません」

無理もありません。私たちはどうしても、自分の置かれている「現実」を起点に物事を考えがちです。しかし、成迫氏が教えてくれたのは、その真逆の発想です。まず、自分にとってワクワクするような「未来」や「夢」を描いてみる。そして、その未来から今の自分を捉え直してみるのです。

「こんなことができたら凄い」「世の中が変わる」といった大きな理想だけが夢ではありません。「この本当に骨の折れる仕事がなくなれば、もっと創造的なことに時間を使えるのに」という、身近な課題意識から生まれる願いも、立派な未来への夢の出発点です。

生成AIが社会の常識を根底から覆しつつある今、本当に問われているのは、AIを使いこなすスキルだけではないのかもしれません。自らの手で未来や夢を描き出す力、それこそがAI時代に求められる人間の知性なのではないでしょうか。

かつてインターネットで犯した過ちを、私たちは繰り返してはなりません。「生成AIをロボティクスでリアル世界に召喚する」というアプローチは、日本の強みを活かせる、残された数少ない道かもしれません。

そのためにも、まずは「I have a Dream!」と、自分自身の夢を語ることから始めてみませんか。その『夢』を起点に、生成AIを『新たな価値創造の武器』として捉え直す。それこそが、今の私たちに最も求められていることだと、私は確信しています。

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