厳寒のテキサスで夜間に輪番停電が発生
1950年以来最悪と言われている厳しい寒波に見舞われている米国のテキサス州で2月3日夜、電力需給が極度に逼迫し、州全域での停電を避けるために輪番停電が実施されました。日本ではあり得ないことですが、米国固有の電力事情を確かめるという意味で、関連報道などから事実を拾っておきます。
輪番停電を報じたGreentechの記事
Smart Grid Lessons From the Super Bowl Week Outages in Texas
によると、米国では電気暖房を使っている世帯が少なくなく、特に、今回輪番停電が実施された南部では多いそうです。
なお、ここで言われている電気暖房とは、日本のヒートポンプ式エアコンのように熱効率に優れるものではなく、電気を直接熱に変える従来型のもののようです。同記事には、床面積1,200平方フィートの家庭で夏期に使う冷房は1,500Wの機器で済むところ、暖房用は12,000Wの機器が必要だと記しています。熱効率の劣る大型の暖房器具が多くの世帯で使われていることを伺わせます。
2月2日、テキサス州では気温が華氏1ケタ台(摂氏マイナス10度近辺)に下がりました。テキサス州の電力系統オペレーターERCOTの報告によると、この日の早朝、コントロール下にある50の発電ユニット、総発電量にして7,000MWが発電不能であることが判明。緊急時のマニュアルに従って、産業需要家への供給電力を1,000MW単位でカットしていきました。この日の朝カットされた供給量は計4,000MW。同日午後に入って産業需要家に対する供給カットはいったん終了しました。
2月3日には寒波が強さを増し、かつ、複数の発電設備の稼働不能が発生したため、夜に入って需給が逼迫。産業需要家に対する300MWの供給カットに加えて、一般世帯に対しても、午後10時から翌朝1時にかけて、輪番停電が実施されました。対象になった世帯では、厳冬期の夜間ということで、大変に難儀したのではないかと思われます。
上の記事によると、この日、7,000MWもの発電施設が稼働不能に陥ったのは、猛烈な寒波による凍結、破損だとしていますが、一方で、ピークの卸売電力価格を上げるために、発電事業者側が故意に設備を止めた可能性についても調査が行われているそうです。同記事では、故意だとすれば、カリフォルニア州の電力危機で起こったことの繰り返しだと記しています。
同記事は2月2日、テキサス州の電力需要は冬期としては過去最大の56.3GWになり、電力卸売料金も制度上限のMW当たり3,000ドルに跳ね上がったと報じています。
米国では電力の自由化が進んで、発電、送電、配電(小売)を行う事業者が分離されました。それがために、発電分野に独立資本がどんどん入ってきて、電力の卸売市場ができあがり、平常時では他国に比べて安い電力料金をユーザーが享受できるようになったわけですが、一方で、いざ事があると、デメリットが顕在化するという状況が続いています。
発電、送電、配電を包括的に司る事業者が存在していれば、夏や冬の電力需要のピークを見込んで、ピーク電源の整備、送配電網の維持管理、緊急時の代替的な送配電ルートの確保などが粛々と行われます。米国の場合はそのような事業者がいないことで、いざ、電力が必要な時に、電力系統オペレーターから見たら利用可能な電源がほとんどないという、日本では考えられないことが起こります。高度なスマートグリッドの普及も重要ですが、米国の場合、電力取引制度などを工夫してピークに売り惜しみが出ないように工夫するのが先決のようにも思えます。