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株式会社インフラコモンズ代表取締役の今泉大輔が、現在進行形で取り組んでいるコンシューマ向けITサービス、バイオマス燃料取引の他、これまで関わってきたデータ経営、海外起業、イノベーション、再エネなどの話題について書いて行きます。

[ニュースの背景]GEが中国のスマートグリッド関連企業などに20億ドルを投資(下)

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GEの特徴は、急成長を遂げる市場があれば必ずそれを取りに行くということだと思います。ジャック・ウェルチの時代に、シェアが2位以内に入らなければ、その事業は撤退という指針が打ち出されました。そうした好戦的な姿勢が、再生可能エネルギー分野やインフラ投資分野にもありありと出ているように思います。

■「中国の風力発電という急成長市場

例えば、中国における風力発電市場は、GEの発表によると130億ドル。2009年の同国の風力による発電容量25GWを2020年には150GWにまで増大させる計画を持っています。規模感で言うと、日本の太陽光発電の1つの目標が2020年に2,800万kW=28GWですから、その約5倍になります。それだけの容量を風力で実現しようとしているとなると、やはりかなり巨大な市場だと言えます。

この急成長を遂げる市場をGEとしてはどうしても取りたい。取るためにはどうすればいいか?戦術的に考えて、地元資本の企業と合弁会社を設立するのが一番よかろう、ということで実現したのが、先日発表されたHarbin Power Equipment Co., Ltd.  (HPEC)との風力発電機製造合弁会社の設立であったと思います。新会社はGEが設計した"near shore"およびオフショア(洋上)用の風力発電機を製造販売します。

元々GEは中国に陸上用風力発電機の製造子会社GE Shenyang Wind factoryを持っていました。単なる推測に過ぎませんが、中国政府が今後拡充する風力発電は陸上ではなく洋上に軸足を置くという情報を、GEは中国政府との親密なチャネルによって得たのではないでしょうか。そのために元からあった陸上用風力発電機製造子会社を使うのではなく、Harbin Power Equipmentとの合弁を準備した。そのように考えることができます。またこれも推測ですが、新しい合弁会社で製造されるGEの設計による洋上風力発電機の技術は、何らかのルールの下に中国への移転が約束されていると考えることもできます。中国との合弁ではよく見られるように出資比率が優位なのは中国側です…。

元からあった陸上用風力発電機製造子会社の株式の49%は新しく設立されるHarbin Electric Machinery Co., Ltd. (HEC)が保有することになります。一般的に中国企業は地方自治体政府が大元の株式持ち株会社的な役割を果たし、その下で複雑な子会社ヒエラルキーを形成するのが普通です。そうした流儀に倣ったものと見ることができると思います。

こうした合弁子会社を設立することによってGEが得るものは、GE単体では成し得ない中国市場へのよいアクセスです。外国企業から見れば、日本は非関税障壁がたくさんあって、自由に展開しにくい特殊な市場だと思います。この非関税障壁には日本特有の商慣行も含まれます。それと同様に中国も非常に非関税障壁が多い特殊な市場です。従って、一筋縄では市場を攻略できません。結果として、郷に入りては郷に従え式の方策がソリューションとなって出てきます。風力製造合弁会社の設立はそうしたソリューションということなのでしょう。

GEのCEOジェフリー・イメルトは、つい最近、中国の対外国企業の政策について批判的なコメントをしたことがあります(Immelt: China Eases Concerns About Policy)。

「(中国の)保護貿易主義を憂慮している。前回(今年6月)の訪中時にもそう言ったし、今回も同じことを申し上げたい」。

かなり直接的な表現ですね。ただ、こういう批判を言う一方で、同社が中国に行おうとしているコミットメントーー先の投稿で紹介した20億ドルの投資ーーを強調し、中国側の反感をうまく牽制しています。

■「企業対国」の戦略

GEの成長に対する執念はすさまじいです。先頃、同社のGlobal Growth & Operations部門を受け持つ責任者としてJohn Riceを任命しました。これを告知するプレスリリースにおいて、同社が過去10年にわたって、海外部門が毎年ほぼ15%の成長を続けてきたことを強調しています。リーマンショックを含むこの10年に毎年ほぼ15%とは大変な成果です。
日本企業も製造業各社は海外売上比率が5割以上になっているところが少なくないですが、GEも海外売上比率を6割以上にすることを目標にしています。

そういうなかでキーになっていると思われるのが、GE’s “company to country” growth strategyというフレーズ。同社が外国企業の政府に直接働きかけて商機を得ていく戦略ということになります。

弊ブログで取り上げているインフラ投資、スマートシティなどの分野は、民間企業対民間企業の商取引と言うよりは、中央政府ないし地方政府対民間企業のネゴシエーションがモノを言う場面が多いと思います。

アブダビのスマートシティMasdar Cityでも、非常に目立った動きをしているSiemensやGE(ここでもGEが存在感を放っています)は民間企業Masdarと話をしていると言うよりは(同社もそもそも国策会社ですが)、アブダビ首長国のトップと気心を通じさせてオポチュニティを得ている風があります(関連記事によく同国トップと一緒に映っている写真が出てきます)。
韓国のスマートシティ新松島にしても、デベロッパーであるGale Internationalが話をしている土地の権利者は仁川市です。中国の数多くのスマートシティの場合も、その地方政府がプロジェクトの主要ステークホルダーになっていると思われます。

インフラ投資の範疇に入る鉄道の建設、原子力発電所や大規模再生エネルギー発電所の建設なども、やはり政府系の人たちとの関係づくりがあって初めて具体化するものでしょう。

ということになると、この文脈で企業に求められるのは、中央政府や地方自治体と「成長のシナリオ」を共有しながら、「適正な役割分担」を行うということかと思います。場合によっては、成長のシナリオが描けないでいるかも知れない地方政府に代わって、テクノロジーの応用などによって開ける新しい成長の姿を提案してあげることなども、仕事のなかに入ってくるのかも知れません。

一方、中国においては、郷に入りては郷に従えが一番の得策であると理解し、合弁についてもそのような枠組みを作る。その他の要望にも柔軟に応じながら、将来の成長のシェアを取る。そのような戦術的な思考をしているのではないでしょうか。外交のように二枚腰三枚腰を駆使して実を取る。そういう姿勢がGEにはあるように思います。

次回は、米国Xcel Energyによるコロラド州ボルダーのスマートグリッド事例を取り上げます。

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