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株式会社インフラコモンズ代表取締役の今泉大輔が、現在進行形で取り組んでいるコンシューマ向けITサービス、バイオマス燃料取引の他、これまで関わってきたデータ経営、海外起業、イノベーション、再エネなどの話題について書いて行きます。

気になる報告書-通産省「情報化による我が国の産業構造革新」

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自動車業界で「バリュースライサー」という言葉が使われているのだということを、先日知りました。

はてどういう意味か。ということでGoogleで「Value Slicer」で検索してみると、なんと英米圏では用例がありません(韓国でそれらしきものがありますが)。こういうケースは珍しい。和製英語であると判断して、カタカナで出所を調べてみました。

2001年1月に日本自動車工業会の機関誌の座談会で使われています。それ以外では2000年初めに中谷氏が「eエコノミーの衝撃」というタイトルで講演したなかで、この言葉を使っています。eエコノミー。時代を感じさせますね。

もっと古い用例はないのかと探すと、旧通産省が1999年3月にどこぞに作成させた報告書の要約PPT「情報化による我が国の産業構造革新」が見つかりました。

中では、主要な業界においてバリューチェーンの分解・拡張→編集→再構築が進むと、付加価値が大きく高まると説明されています。これはいいことだ、情報化によってぜひ推進しようという論調です。まだ日本が不況から抜け切ったとは言えない時期の提言なわけです。

バリューチェーン再編の例として自動車業界が取り上げられていて、これをメーカーの人たちが「将来はウチらの業界も再編か」と、やや危機意識をもって受け止めたんでしょうね。それで自動車業界では今でもこの言葉が使われている。このPPTが出所でしょう。
(なお、後から見つけましたが、バリューチェーンのアンバンドリングについては、「Unbundling the Corporation」John Hagel III and Marc Singer という論文がHBRに掲出されています。上のPPTと同時期の99年3-4月)

では、どこの総研がこれを作成したのかと思い、いろいろ漁ると、この名和高司氏の論文が見つかりました。

①「バリュー・チェーン」というカタカナの言葉を、バリューチェーンのアンバンドリングという文脈で使っている、②バリューの「パッケージング」という考えも見られることから、名和氏のマッキンゼーが通産省のPPTを作ったと推測できます。

意味も把握でき、出所もだいたいわかって、まぁよかったということです。
(これを書いている最中に、上の通産省のPPTが納められたディレクトリが/Mckinsey/であることを発見しました。これで出所は確実に)

「情報化による我が国の産業構造革新」では、バリュースライサーのような業界の暴れん坊が出た後で、バリューパッケージャーや顧客エージェントが一種のまとめ役として出現してくるというシナリオを述べています(各々の役割についてはスライド20枚目で整理されています)。

音楽配信分野では、Appleによってこのバリューパッケージャーが実現されているように思います。(暴れん坊はさしづめNapsterか。)

たぶん、バリューパッケージャーが成立するためには、消費者が受け取るものの総体を「経験」に踏み込んでデザインすることが必要で、経験価値とか経験マーケティングとか呼ばれている分野の話になってくるんだろうと考えています。
既存のWebユーザビリティの世界とは一線を画して、まもなく、エクスペリエンス・デザイナーとかエクスペリエンス・アーキテクトとかいう職種がもてはやされるようになるのではないでしょうか。五感で勝負の時代?

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