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20年以上断続的にこのブログを書き継いできたインフラコモンズ代表の今泉大輔です。NVIDIAのフィジカルAIの世界が日本の上場企業多数に時価総額増大の事業機会を1つだけではなく複数与えることを確信してこの名前にしました。ネタは無限にあります。何卒よろしくお願い申し上げます。

ロボティクス専門家向け:Unitree R1の技術的・経済的分析:5,900ドルヒューマノイドはいかにして可能になったか

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90万円以下という価格が話題になっているUnitreeのヒューマノイド(ヒト型ロボット)「R1」。これをロボティクスの最高度の専門家の視点で、Gemini Proにロボット工学的観点から解析してもらいました。非常に濃密なテキストになっていると思います。ロボティクスの専門家向けの内容です。

序論

提示された映像で示されるUnitree R1は、ヒューマノイドロボットの歴史において、性能ではなく「アクセス性」における真のパラダイムシフトを象徴するものである。側宙やカンフーのような俊敏な動きを見せるこのロボットが、5,900ドルからという驚異的な価格で提供されることは、単なる漸進的なコスト削減ではなく、ロボット工学の民主化に向けた破壊的な一歩を意味する

本報告書は、Unitreeの製品ラインナップにおけるR1の位置づけを明確にすることから始める。Unitreeは、高性能フラッグシップモデルのH1(約90,000ドル)、ミッドレンジのG1(約16,000ドル)、そして今回分析対象となるエントリーモデルのR1(約5,900ドル)という、意図的に階層化された製品ポートフォリオを展開している 。R1の分析は、単体で評価するのではなく、この広範な戦略的市場セグメンテーションの中で、いかにしてこの価格破壊が達成されたかを解明することに主眼を置く。

R1の驚異的な価格性能比は、単一の技術的ブレークスルーの結果ではなく、3つの核心的柱の巧みな統合の産物である。(1) 徹底した垂直統合と設計の最適化による低コストなハードウェア、(2) 四足歩行ロボットで成熟させたソフトウェア資産の活用と、開発者コミュニティを巻き込むオープンなソフトウェアアーキテクチャ、そして (3) 四足歩行ロボット事業で確立した規模の経済とサプライチェーン管理に根差した破壊的な経済モデル。本報告書は、これらの各柱を徹底的に解体し、R1がなぜ5,900ドルという価格で実現可能になったのかを詳細に分析する。

第I部:機械設計と製造戦略:低価格化の物理的基盤

このセクションでは、R1の物理的ハードウェアと製造プロセスを分析し、その低価格が、長年の経験に裏打ちされた垂直統合、戦略的な設計の簡素化、そして大規模生産によるコスト管理の直接的な結果であることを論じる。

1.1 移動能力の継承:四足歩行の熟達から二足歩行への進化

Unitreeのヒューマノイド開発の急速な進歩と低コスト化は、同社がLaikago、Aliengo、A1、Go1、Go2、B2といったモデルを含む四足歩行ロボット市場で長年にわたり築き上げてきた支配的地位の集大成である 。同社の発展の軌跡を分析すると、四足歩行ロボットの開発と商業化が、ヒューマノイド開発への重要な足がかりとして機能した意図的な戦略が明らかになる。

このアプローチは、ヒューマノイド開発に伴う莫大な財政的・技術的リスクを軽減した。なぜなら、まず収益を生み出す事業ラインを確立し、アクチュエータのような主要コンポーネントの製造プロセスを洗練させ 、そして頑健な移動制御ソフトウェアスタックを成熟させたからである 。四足歩行ロボットは動的に複雑であるが、一般的に二足歩行ロボットよりも安定している。この比較的安定したプラットフォームで技術を習得することにより、Unitreeは貴重な経験を蓄積した。Go1やB2のような四足歩行ロボットのために開発された関節モーター、制御ボード、基本的な移動アルゴリズムは、H1やR1のためにゼロから作られたわけではない 。むしろ、それらは繰り返し改良され、実世界で試され、そしてスケールメリットを伴って生産され、成熟したコンポーネントライブラリを形成した。

したがって、R1プロジェクトはゼロから始まったのではなく、成功した四足歩行ビジネスから得られた、実績がありコスト最適化されたコンポーネントと成熟した制御概念という、非常に強力な立場からスタートした。この進化の道筋は、Unitreeがなぜこれほど低コストで動的なヒューマノイドを実現できたかを説明する上で、中心的な役割を果たしている。

1.2 コスト構造の核心:徹底した垂直統合と設計の最適化

Unitreeの低価格戦略を理解する上で最も重要な要素は、垂直統合への徹底したコミットメントである。同社は、「モーターや減速機を含むコアコンポーネントは、社内で独立して開発・生産されている」と明言している 。この戦略は、同社の製品ライン全体にわたって一貫している

ヒューマノイドロボットの最も高価な部品は、アクチュエータ(モーターとギアボックス)、センサー、電子機器である 。アクチュエータと機械構造だけで、総部品表(BOM)コストの30%以上を占める可能性がある 。最も高価で性能に直結するコンポーネントを自社で設計・製造することにより、Unitreeはいくつかの重要な利点を享受している。

  • コスト管理: サプライヤーの利益マージンを排除し、BOMコストを直接削減する

  • サプライチェーンの安定性: 最も重要なコンポーネントを第三者サプライヤーに依存しないため、価格の高騰や供給不足から自社を守ることができる

  • 迅速なイテレーション: 設計と製造が社内にあることでフィードバックループが密になり、性能だけでなく製造のしやすさとコストの観点からも設計を最適化できる。

この垂直統合戦略は、R1の物理設計においてさらに徹底されている。R1は身長1.2m、重量約25kgと、G1(35kg)やH1(47kg)よりも大幅に小型軽量化されている 。この小型化は、必要な材料を減らし、より小型で低コストのモーターを使用できることを意味し、部品表コストを直接的に削減する 。R1の俊敏な動きは、H1のような絶対的なパワーではなく、この軽量性によって実現されている。質量(m)を減らすことは、同じ加速度(a)を達成するために必要な力(F)が少なくて済むことを意味し、より小型で安価なアクチュエータの採用を可能にする。

1.3 運動学的設計と戦略的簡素化

R1の物理的設計は、その低価格を実現するための意図的な妥協と最適化の産物である。R1は合計26の関節モジュール(脚に各6自由度、腕に各5自由度、腰に2自由度、頭部に2自由度)を備えている 。これは基本的な人間らしい動きには十分な構成だが、H1(脚部5自由度、腕部4自由度)とは異なるアプローチを取っている 。R1は、H1のような高速走行性能よりも、一般的な動作の多様性を重視している可能性がある。

R1の設計哲学は「アクセシビリティ重視の最適化」と呼ぶことができる。Unitreeは、R1を可能な限り安価に提供するために、性能に直結しない部分を徹底的に簡素化している。例えば、標準モデルの自律性は限定的で、遠隔操作が基本となっており、完全な自律性はユーザーによる二次開発に委ねられている 。また、器用な手はオプションであり、ベースモデルの価格には含まれていない

これらの選択は、R1が研究者、教育者、ホビイスト向けの「開発プラットフォーム」として位置づけられていることを示している 。Unitreeは、基本的な動作が可能な最低限のハードウェアを極めて低価格で提供し、ユーザーが必要に応じて機能を追加・開発できる余地を残している。このモジュール性と拡張性こそが、5,900ドルという価格帯と、プラットフォームとしての価値を両立させる鍵となっている。

第II部〜第IV部と結論と将来展望は、弊社告知の後をご覧下さい。


【告知】「シリコンバレー ヒューマノイド先端企業視察ツアー」2025年10月27日出発-11月2日帰国

NVIDIAをはじめ、Figure AI、Boston Dynamics、1X Technologiesなどシリコンバレーに本社・研究開発拠点を持つヒューマノイド(ヒト型ロボット)の先端企業、及び技術スタックを提供する企業を訪問し、今後の戦略的提携・出資・買収・商談のきっかけとして先方担当者をバイネームで知り、人間関係を構築できる機会となる視察ツアーを実施します。

また、AI + ロボットの日本の権威である早稲田大学 尾形哲也教授が視察内容を監修、同行して下さり、解説等を加えていただきます。


✔︎ 最小催行人数:10名。最大20名(20名に達した時点で締切)

✔︎ 申込期間:8月上旬申込受付開始(JTBのOASYS申込ページが動き始めます)、締切:9月10日(見積・請求はJTB)

✔︎ 申込:OASYS(JTB専用申込ページ)にて受付

✔︎ 旅行代金:127万円(燃油サーチャージ・空港使用料別)

※円安・米国物価高の影響もありこの価格帯となりますことをご了承下さい。

【ツアーの見どころと訪問予定先(先方都合により代替の可能性あり)】

NVIDIA本社(Santa Clara)

世界最大時価総額企業が展開する「Newton」など物理AIスタックを学ぶ。製造業DXの核を現場で体感。

Figure AI(Sunnyvale)

「ヒューマノイドのTesla」を目指す次世代ロボット量産企業。設計思想と量産戦略を直撃取材。

Toyota Research Institute(Los Altos)

トヨタ系研究機関で、人間理解に基づくLarge Behavior Models開発を学ぶ。

1X Technologies(Palo Alto)

「人に優しいヒューマノイド」を理念に、AI・人間工学設計を深堀り。

Boston Dynamics(Mountain View支社)

Atlas/Spotなど世界最先端のダイナミクス制御と商業化戦略を視察。

UC Berkeley Hybrid Robotics Lab

学術的アプローチでのヒューマノイド動作学習、Sim2Real研究を体験。

◎ロボティクスに詳しい日本人の通訳(シリコンバレー在住のITジャーナリスト)が通訳を担当します。

◎宿泊先:Comfort Inn Palo Alto

【視察監修・同行】

早稲田大学 理工学術院 基幹理工学部 表現工学科 尾形哲也 教授
2025年よりAIロボット協会理事長。2025年よりJST CREST領域研究総括。深層学習、生成AIに代表される神経回路モデルとロボットシステムを用いた,認知ロボティクス研究,特に予測学習,模倣学習,マルチモーダル統合,言語学習,コミュニケーションなどの研究に従事。

【視察企画・後方支援】

株式会社インフラコモンズ 今泉大輔(当ブログ経営者が読むNVIDIAのフィジカルAI / ADAS業界日報 by 今泉大輔 運営執筆者)。現地で英語と日本語が堪能な弊社スタッフが視察メンバーのケアをさせていただきます。今泉も同行します。

ヒューマノイドに関して積極的に情報発信を行なっているYouTuberの柏原迅氏も同行します。

【資料請求および旅行について】

株式会社JTB  
https://www.jtbcorp.jp/jp/
ビジネスソリューション事業本部 第六事業部 営業第二課内 JTB事務局
TEL: 03-6737-9362

【ご注意】

本スケジュールは先方都合により代替企業・研究機関への変更が生じる場合があります。


第II部:アルゴリズムアーキテクチャ:共有資産とオープン性の活用

このセクションでは、R1のソフトウェアスタックを分析し、その動きが、四足歩行ロボットで培われた既存のソフトウェア資産と、開発者コミュニティを巻き込むオープンな戦略によって支えられていることを論じる。

2.1 Sim-to-Realパラダイム:共有された学習基盤

Unitreeの制御戦略の根幹をなすのは、Sim-to-Realワークフローの徹底的な活用である。同社は、Isaac Gymをベースにしたunitree_rl_gym

unitree_mujoco のようなオープンソースツールを提供し、研究者がシミュレーションでポリシーを訓練し、それを実世界のロボットに展開できるようにしている。この学習基盤は、Go2、G1、H1といった同社の主要なロボットに対応しており 、R1もこのエコシステムから恩恵を受けていることは間違いない。

R1が見せる側宙やボクシングのような動的な動きは、H1の後方宙返りなどと同様に、強化学習(RL)を用いてシミュレーション内で学習された可能性が極めて高い 。このSim-to-Realアプローチにより、Unitreeは物理的な試行錯誤に伴うコストと時間を大幅に削減し、多様なスキルを効率的に開発できる。

ここで注目すべきは、Unitreeがなぜ自社の核となるシミュレーションおよびRLトレーニングツールをオープンソース化するのかという点である 。これは単なる利他主義ではなく、卓越した戦略的行動である。これらのツールを提供することで、Unitreeは世界中の研究者やホビイストのコミュニティが自社のプラットフォームで実験することを奨励している。このコミュニティは事実上、外部の研究開発部門として機能する。彼らは新しい応用例を見つけ、バグを特定し、新しい制御アルゴリズムを開発し、その成果をしばしば公開する。Unitreeは、この公開された研究を監視し、最良のアイデアを自社の商用ソフトウェアスタックに統合することができる。この戦略は、研究開発コストの一部を外部委託し、プラットフォームの開発ペースを大幅に加速させ、強力な競争上の優位性を築くものである。

2.2 開発者中心のソフトウェア設計

R1のソフトウェアアーキテクチャは、エンドユーザーによる「二次開発」を前提に設計されている。Unitreeは、R1がROS 2に対応したEDU(教育)版を提供することを明言しており、購入者が自律性などを独自に実装できるとしている 。これは、R1が「完成品」としてではなく、柔軟な「素材」として提供されていることを示唆している。

さらに、R1は音声や画像を扱うためのマルチモーダル大規模モデルを統合しており、これにより開発の敷居が大幅に下がるとされている 。これは、専門的なロボット工学の知識がなくても、より直感的な方法でロボットと対話し、アプリケーションを構築できることを意味する。

このアプローチは、R1の低価格化に大きく貢献している。Unitreeは、すべての機能を自社で開発して搭載するのではなく、基本的なハードウェアと、開発を容易にするための基本的なソフトウェアインターフェース(APIやSDK)を提供することに注力している。高度な機能の開発コストは、それらを必要とするユーザー自身が負担する。これにより、Unitreeはベースモデルの価格を劇的に引き下げ、幅広い開発者層にプラットフォームを届けることができる。このオープンなアプローチは、ハードウェアのコストを削減するだけでなく、ソフトウェア開発のコストとリスクをも分散させる、非常に賢明な戦略である。

2.3 学習と物理学の融合:エコシステム全体の知見

H1の分析で詳述したような、ZMP(Zero Moment Point)のような物理モデルを強化学習の報酬関数に組み込む高度な制御手法 や、モデル予測制御(MPC)の活用 は、Unitreeのロボット制御における技術的深さを示している。これらの研究は主にH1のような高性能プラットフォームで実証されているが、そこで得られた知見やアルゴリズムは、R1を含む下位モデルにも応用可能である。

例えば、安定性を維持するための基本的な制御則や、効率的な歩行パターンを生成するアルゴリズムは、ロボットのモデルパラメータ(質量、リンク長など)を変更するだけで、異なるプラットフォームに適用できる場合が多い。Unitreeがunitree_rosパッケージで全ロボットのURDFファイル(ロボットの物理的記述)を提供するなど、シミュレーション環境を整備しているのは、こうしたモデル間の技術移転を容易にするためである

したがって、R1の制御ソフトウェアは、単独で開発されたものではなく、Unitreeのロボットエコシステム全体で蓄積された、より高度な研究開発の恩恵を受けている。H1のために開発された最先端のアルゴリズムが、簡素化・最適化された形でR1に搭載されることで、低コストながらも安定した基本性能を実現しているのである。

第III部:知覚とオンボード計算:コストと機能のバランス

このセクションでは、R1が環境を知覚し、そのアルゴリズムを実行することを可能にするハードウェアを分析し、いかにしてコストを抑えつつ、開発プラットフォームとして十分な機能を提供しているかを明らかにする。

3.1 世界のセンシング:拡張性を前提としたセンサー構成

R1は、その価格帯にもかかわらず、3D LiDARと深度カメラによる360度の深度知覚能力を備えていると報告されている 。これは、基本的なナビゲーションや障害物回避には十分なセンサー構成である。

このセンサー選択は、Unitreeの「アクセシビリティ重視の最適化」という設計哲学を反映している。彼らは、市場で入手可能な絶対的に最高のセンサーを使用しているのではなく、タスクに対して十分に優れており、そして決定的に、手頃な価格で大量に入手可能なセンサーを使用している。H1がLIVOX-MID360とIntel RealSense D435iを搭載しているのに対し 、R1ではさらにコスト効率の高いセンサーが選択されている可能性がある。重要なのは、ベースモデルが基本的な知覚能力を持ちつつ、ROS 2を介してユーザーがより高性能なセンサーを追加・統合できる柔軟性を確保している点である

3.2 エッジコンピューティングの脳:階層的な計算能力

R1の計算アーキテクチャは、その低価格を実現するために巧妙に階層化されている。標準モデルには8コアのCPUが搭載されている 。これは、基本的な遠隔操作や単純な自律動作には十分な計算能力である。

一方で、より高度なAIやコンピュータビジョンタスクを求める開発者向けに、EDU版ではNVIDIA Jetson Orinをオプションで追加できる 。Jetson Orinは、ニューラルネットワークの推論を高速化するための強力なGPUを搭載しており、ロボットに高度な知能を付与するための標準的な選択肢となっている。

このアーキテクチャは、コストと拡張性の両立を見事に実現している。

  • 標準モデル(8コアCPU): 大多数のユーザーに対して、非常に低価格なエントリーポイントを提供する。

  • EDU版(+ Jetson Orin): 高度な研究開発を行いたいユーザーに対して、追加コストで高性能な計算能力を提供するアップグレードパスを用意する。

H1が標準で2つのIntel Coreプロセッサを搭載するのとは対照的に 、R1は計算能力を意図的に絞り、必要に応じて拡張できるモジュール設計を採用している。これにより、すべてのユーザーに高性能プロセッサのコストを負担させるのではなく、必要なユーザーだけがその対価を支払うという、非常に効率的な価格設定が可能になっている。

第IV部:破壊の経済学:Unitreeのビジネスモデル分析

このセクションでは、UnitreeがR1を5,900ドルという前例のない価格で提供できるビジネスおよび製造戦略を分析し、同社の技術力が、市場全体を再定義する攻撃的な経済モデルによって支えられていることを論じる。

4.1 垂直統合と規模の経済

Unitreeのコスト構造を理解する上で最も重要な要素は、前述の通り、垂直統合と規模の経済である。同社は、「モーターや減速機を含むコアコンポーネントは、社内で独立して開発・生産されている」と繰り返し述べており 、これがコスト削減の最大の要因となっている。

さらに、Unitreeは「高性能な四足歩行ロボットを公然と小売販売した最初の企業の一つであり、その販売台数は長年にわたり世界をリードしてきた」 。現在、同社はヒューマノイドの量産に向けて準備を進めており、杭州に新工場を開設した

同社の四足歩行ロボット(Go1、Go2など)の大量生産により、Unitreeは共有コンポーネント(プロセッサ、センサー、原材料、電子部品)を大量に購入することができ、単価を押し下げている 。このコスト削減は、R1のような低価格モデルの実現に直接的な恩恵をもたらす。同社が主要な技術・製造拠点である杭州に位置していることも、非中核部品のサプライヤーの密集したネットワークや熟練した労働力へのアクセスを可能にし、コストと生産リードタイムをさらに削減している

多くのヒューマノイドスタートアップが、販売する製品なしにベンチャーキャピタルを消費しているのに対し、Unitreeの戦略は異なる。利益を上げている大量生産の四足歩行ビジネスが「キャッシュカウ」として機能し、野心的で高価なヒューマノイド部門の研究開発に資金を供給している。この財務的な安定性により、彼らは長期的な視点で行動できる。R1を戦略的に低価格で投入して市場シェアを獲得し、研究開発の標準プラットフォームとしての地位を確立することができるのである。

4.2 比較市場ポジショニングと戦略的価格設定

Unitree R1の5,900ドルからという価格は、ヒューマノイドロボット市場において前例のない設定である 。これは、同社のミッドレンジモデルG1(約16,000ドル)やハイエンドモデルH1(約90,000ドル)はもちろんのこと、Tesla Optimus(目標価格2万~3万ドル)やFigure 02(推定5万ドル以上)といった競合他社の目標価格をも大幅に下回る

これにより、R1はユニークで非常に戦略的な市場ニッチに位置づけられる。R1は最高の性能を持つロボットを目指しているわけではない。ヒューマノイドロボット開発への「アクセス」を根本から変えることを目指している。これまで大学や大企業の研究機関でさえ高価で手が出せなかったヒューマノイドプラットフォームを、個人の開発者や小規模な教育機関、ホビイストでも購入可能な価格帯で提供しているのである 。以下の表は、R1とUnitreeの他のモデル、および主要な競合製品との比較分析を示しており、市場におけるその独自のポジションを明確にしている。

特徴 Unitree R1 Unitree G1 Unitree H1 Tesla Optimus (Gen 2 ターゲット)
アクチュエーション 電動 (自社製) 電動 (自社製PMSM) 電動 (自社製PMSM) 電動 (自社製リニア/ロータリー)
身長 / 重量 1.2m / 25kg 1.27m / 約35kg 1.8m / 47kg 約1.73m / 約57kg
主要能力 俊敏性、二次開発プラットフォーム 巧みな操作、柔軟性 高速走行、動的敏捷性 工場自動化、器用さ
推定価格 約$5,900~ 約$16,000~ 約$90,000~ <$20,000 - $30,000 (目標)
主要市場 R&D, 教育, ホビイスト R&D, 教育, コスト最適化 R&D, 高性能プラットフォーム マスマーケット産業/消費者
コスト戦略 徹底した垂直統合、設計の簡素化、大規模生産 設計の簡素化, 共有部品 垂直統合, 四足歩行のスケール 自動車のスケール, 自社製AI
データソース

結論と将来展望

Unitree R1は、単なる安価なロボットではなく、周到に計画された多角的な戦略の集大成である。その驚異的な低価格は、魔法のような技術革新によるものではなく、以下の3つの要因の論理的な帰結である。

第一に、徹底した垂直統合である。モーターや減速機といった中核部品を内製化することで、コストを構造的に削減している

第二に、四足歩行ロボット事業で培った資産の活用である。大量生産による規模の経済、成熟したサプライチェーン、そして共有可能なソフトウェア基盤が、R1の低コスト化を強力に下支えしている

第三に、戦略的な製品階層化と設計の最適化である。R1は、性能を意図的に絞り、二次開発を前提としたモジュール設計を採用することで、エントリーモデルとしての価格を極限まで引き下げている

R1は、ヒューマノイドロボットが一部の研究機関や大企業の独占物であった時代に終止符を打ち、より広範な開発者コミュニティにその扉を開いた。この「ロボット工学の民主化」こそが、R1の最も重要な貢献である。R1の登場により、世界中の才能がヒューマノイドロボットの開発に参加できるようになり、イノベーションのペースは飛躍的に加速するだろう。Unitreeは、R1によって、単に市場に製品を投入しただけでなく、ヒューマノイドロボットの未来そのものを形作るための、巨大なエコシステムの種を蒔いたのである。

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