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人間による顧客対応はなくならない―Gartnerが2028年の展望を発表

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米国調査会社Gartnerは2025年9月10日、顧客サービスの将来像に関する新たな予測を公表しました。

Gartner Predicts None of the Fortune 500 Companies Will Have Fully Eliminated Human Customer Service by 2028

同社は「2028年までにフォーチュン500企業のいずれも、完全に人間による顧客サービスを廃止することはない」と指摘しました。生成AIや自律型エージェントが急速に普及する中で、一部では「顧客対応は近い将来すべてAIに代替される」との見方も広がっています。

しかし、Gartnerは「完全な自動化は現実的ではなく、また望ましくもない」と強調しました。人間の判断力や共感力は依然として重要であり、企業が成長を持続するには、テクノロジーと人間の役割を再定義し、適切に組み合わせることが求められています。

今回の発表では、AI活用による効率化と人間による高度対応の両立が、競争優位を築くカギであることが示されています。今回は、この予測の背景にある市場動向、AIと人間の役割分担の行方、企業に突きつけられる課題、そして今後の展望について考えていきます。

AI活用の拡大と「人間不要論」の現実性

顧客サービス分野において、AIや自動化の導入は急速に進展しています。チャットボットや仮想エージェントは、FAQ対応や注文状況確認など、定型的な業務を効率的に処理できるようになりました。生成AIの進化により、自然な対話が可能となり、一部の問い合わせでは人間と遜色ないレベルに到達しています。

こうした背景から、一部の企業や専門家は「近い将来、カスタマーサポート部門の多くは人間を不要とする」との見解を示してきました。しかし、Gartnerはこの見方に対して慎重です。完全な自動化を試みた企業は、例外的なケースや高リスクのシナリオでAIが限界を露呈し、顧客体験の質を大きく損ねる可能性が高いと指摘しています。特に感情的な不満や複雑な契約条件、緊急時のトラブルなどでは、顧客は人間による対応を求め続けており、これを無視すればブランドへの信頼失墜にもつながります。

Gartnerが描く未来像―「減少」ではなく「再配置」

Gartnerは、今後の顧客サービスにおいて人間の役割が完全に消滅するのではなく、「再配置」が進むと強調しています。AIによって業務量を削減する一方で、人間はより付加価値の高い対応に専念する形です。

実際、同社の予測によれば、2027年までに「AIによってサービス人員を大幅削減できる」と見込んでいた企業の半数が、その計画を取り下げることになります。理由は、想定どおりにAIだけで業務を完結できず、顧客満足度が低下するリスクが顕在化するためです。結果として、多くの企業は「人員削減ではなく、人材の戦略的活用」に舵を切るとみられます。

このシナリオでは、人間のエージェントは日常的な対応から解放され、クレーム処理や解約防止施策、クロスセルやアップセルといった収益につながる業務に集中するようになります。顧客サービスは単なるコストセンターではなく、成長の起点として再定義されていくといいます。

バランスを誤るリスクとリーダーへの示唆

では、企業はどのようにAIと人間をバランスさせるべきでしょうか。Gartnerのアナリストであるキャシー・ロス氏は、「AIは効率性を高める強力なツールだが、人材の価値を犠牲にしてはならない」と警鐘を鳴らします。

AIはルール化された定型業務や大量処理には優れていますが、例外的ケースや感情を伴う対応には弱さがあります。たとえば、金融分野での不正利用の疑い、通信障害に伴う大規模クレーム、医療に関わる緊急相談など、誤った対応が大きな損害につながる状況では、熟練の人間による判断が不可欠です。

サービス部門のリーダーは、短期的なコスト削減だけにとらわれず、長期的な顧客ロイヤルティの形成を重視する姿勢が求められます。顧客が「困ったときは必ず頼れる」という安心感を持つことこそ、持続的な成長の基盤となります。

企業が直面する課題―人材育成と組織変革

人間の役割が再配置される未来は、同時に新しい課題を突きつけています。1つ目は、人材のスキル転換です。日常業務をAIに委ねる一方で、人間は問題解決力やコミュニケーション力、提案力を磨く必要があります。従来の「処理型」から「戦略型」へと職務内容が変化するのです。

次に、組織文化の変革が必要です。AI導入は単なる効率化施策にとどまらず、顧客との接点を再構築する機会でもあります。そのためには、経営層から現場までが「人とAIが協働するサービスモデル」を共通認識として持つことが不可欠です。

そして、データ活用の精度向上も課題となります。AIが担う領域を広げるには、大量の学習データとその正確性が欠かせません。誤学習やバイアスが残る状態で自動化を進めれば、逆に顧客満足度を損なう危険性があります。

今後の展望―「AI+人間」が生む新しい価値

今回のGartnerの予測は、企業にとって重要な示唆を含んでいます。完全自動化への幻想を追うのではなく、人間とAIが補完し合う体制を構築することが、競争力の分岐点となるという点です。

今後、顧客サービス部門は「効率化」から「価値創造」へと進化し、AIが顧客接点の広がりを支え、人間が信頼関係と差別化を築く。この組み合わせは、単なるコスト削減にとどまらず、企業の成長戦略の一環として位置付けられることが期待されます。

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