Wi-Fi 7普及とAI運用で無線LAN市場はどう変わるか？
IDCは2025年11月27日、アジア太平洋地域（日本と中国を除く、APeJC）の無線LAN（WLAN）市場が2025年に再び10億ドル規模を超えると発表しました。
市場回復を支えているのは、Wi-Fi 6EやWi-Fi 7といった新しい無線規格への急速な移行と、キャンパスネットワークの再整備、さらにAI統合がもたらす運用効率の改善です。企業や教育機関、公共部門では、クラウド活用やオンラインサービスが広がり、高速かつ安定したネットワーク基盤の重要性が高まっています。
特に、Wi-Fi 7は高速性と低遅延性を兼ね備え、業務の高度化が進む領域で採用が加速するとみられています。同時に、AIによる自律型ネットワーク運用が普及段階に入り、ネットワーク管理の在り方そのものも変わりつつあります。
これらの動きは、無線LAN市場をどのように変革するのでしょうか。今回は、Wi-Fi 7普及がもたらす変化、AI運用の進展、キャンパスネットワーク投資の再加速、そして今後の方向性について取り上げたいと思います。
Wi-Fi 7の普及がもたらす無線インフラの質的転換
Wi-Fi 7の普及は、無線LAN市場にとって大きな転換点となっています。Wi-Fi 6Eによって6GHz帯が広く活用され始めた一方、Wi-Fi 7はさらに広帯域化と複数リンク同時利用により、有線接続と同等に近い通信品質を実現します。IDCによれば、Wi-Fi 7は今後5年間でシェアが4倍以上に拡大し、2029年には市場全体の63％を占める見通しです。
こうした動きが加速する背景には、企業のクラウド依存度の高まりがあります。動画会議やAIアプリケーション、データ分析ツールなど、大容量データの低遅延処理が必要な業務が増え続けています。教育分野ではオンライン授業と対面授業を組み合わせた利用が一般化し、企業ではリモートワークとオフィスワークが混在する形態が広がり、多数のデバイスが同時接続される状況が生まれています。
また、生成AIやAIエージェントによる支援が業務領域に浸透するほど、端末間通信やクラウドアクセスの安定性が求められます。Wi-Fi 7はこうした環境に適応する性能を備えており、無線が従来の補完的存在から、企業インフラの中心的役割へと位置づけが変わる契機になっています。
今後は、AI活用を前提としたアプリケーションの普及がさらに進むことにより、Wi-Fi 7の導入は企業のネットワーク戦略の基盤として検討されるようになるでしょう。
AI運用によるネットワーク管理の自律化と高度化
無線LAN市場のもう一つの変化は、AIがネットワーク管理に深く組み込まれ始めた点です。主要なネットワーク機器メーカーは、AIを活用した管理プラットフォームの強化を競っており、CiscoのSplunkやHPE JuniperのMistなどが代表的です。これらはリアルタイム分析、異常検知、最適化、自己回復といった機能を自動で提供し、運用負荷を大幅に軽減します。
AIは、無線環境で生じるトラフィックの偏りや干渉を予測し、最適な周波数割り当てを行うことで通信品質を維持する役割も果たします。これにより、従来はネットワーク担当者が経験や勘に頼っていた領域が自動化され、運用の正確性とスピードが向上します。
生成AIを組み合わせたサービスも広がっており、ネットワーク障害時に自動で推奨アクションを提示したり、利用者からの問い合わせに自律対応したりする仕組みも登場しています。こうした機能は、IT部門のリソース不足に悩む企業にとって有効であり、ネットワーク運用の質を高めながら効率化を可能にします。
また、AIはネットワーク・セキュリティ・スイッチを包括的に扱える状態を整え、統合的な管理モデルへの移行を促しています。IDCが指摘するように、複数領域を横断する包括的なソリューションを提供する企業が市場で存在感を高めており、ネットワーク市場そのものが構造転換の時期に差しかかっています。
キャンパスネットワーク刷新と無線ファースト化の加速
2025年、APeJC地域ではキャンパスネットワークへの投資が回復し、無線LANの導入比率が高まっています。教育機関ではハイブリッド型授業が標準化し、ネットワーク安定性が学習の質に直結する状況になっています。大人数が一度にアクセスする環境では、Wi-Fi 6EやWi-Fi 7の導入が増え、負荷分散と品質向上が進んでいます。
政府分野でも行政手続きのデジタル化に伴い、ネットワーク全体の更新が不可欠となっています。電子申請やオンライン窓口など、公共サービスがネットワーク前提で提供される体制が広がる中、無線LANの信頼性が行政サービスの安定性に直結しています。
製造業では、工場のデジタル化やスマートファクトリー化に伴い、無線ネットワークの重要度が高まっています。センサーやタブレット端末、ロボットが多数稼働する環境では、柔軟性とレイアウト変更の容易さから無線ファーストが選択されるようになっています。
新設の建物や屋外環境では、初期段階からWLANが前提となる設計が増えており、特にインド、オーストラリア、韓国が地域の収益の約半分を支えています。ニュージーランド、インドネシア、フィリピンなどでも高い成長率が続いており、無線ネットワークは社会インフラとしての役割を確立しつつあります。
今後の展望
IDCは、APeJCのWLAN市場が2024〜2029年に年平均4％超の成長を維持すると予測しています。成長を支えるのは、Wi-Fi 7の普及、AIによる運用高度化、そしてキャンパスネットワーク中心の再投資です。今後の市場では、無線LANが単なる通信手段ではなく、AI時代の事業基盤としての重要性を高めるとみられます。
企業にとって重要になるのは、ネットワークの「継続的最適化」をどう実現するかという点です。AIがネットワーク状況を常時監視し、自動調整する仕組みは運用負荷を減らすだけでなく、トラブルの予防と安定性確保につながります。こうした環境を整えるためには、ネットワークとセキュリティ、クラウド管理を一体で捉える視点が必要となります。
AIによる運用自動化が進むほど、企業はネットワークを単に保有するのではなく、最適化された状態で利用するサービス型の運用へと移行しやすくなります。この動きはマネージドサービス需要の増加にもつながるでしょう。
企業の今後の対応としては、Wi-Fi 7導入の検討、AI運用基盤の採用、そしてキャンパス全体のネットワーク最適化計画の策定が求められます。
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