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AR/VR市場、ゲームから日常へ ― IDCが示す2029年までの拡大シナリオ

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米調査会社IDCは2025年9月17日、世界のAR(拡張現実)/VR(仮想現実)ヘッドセットおよびディスプレイ非搭載型スマートグラスの市場見通しを公表しました。

From Gaming to Gaining: AR/VR Headsets and Smart Glasses Go Mainstream, says IDC

IDCによると、2025年の出荷台数は前年比39.2%増の1,430万台に達し、AI搭載型のスマートグラスが急拡大を牽引しています。Metaが市場シェアの60%を占めるなど圧倒的な存在感を示す一方で、中国のXiaomiやHuaweiなども独自の展開を進めています。

これまでAR/VRは「ゲーム向け」の印象が強かったものの、今後は生産性向上や日常的な情報取得といった幅広い用途に浸透する見通しです。IDCは2029年までに出荷台数が4,310万台へ拡大すると予測しており、スマートフォンに続く新たな情報端末としての可能性が現実味を帯びてきました。

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出典:IDC 2025.9

今回は、市場成長の要因、主要プレイヤーの戦略、利用シーンの変化、そして今後の展望について取り上げます。

市場成長を牽引する「ディスプレイ非搭載型」グラス

IDCの予測によると、2025年はディスプレイ非搭載型のスマートグラスが前年比247.5%という驚異的な成長を遂げると見込まれています。軽量で日常使いしやすく、AIアシスタント機能を前面に押し出した製品群は、従来の大型ヘッドセットが持つ装着感の重さや用途の限定性を克服し、普及を加速させています。

Metaの「Ray-Ban」シリーズは、音声操作や通知受信、カメラ機能を組み合わせ、ウェアラブルAIの入り口として高い支持を集めています。IDCは、こうした低価格帯かつ軽量なデバイスが市場拡大の入り口となり、将来的にはより高度なARグラスへ移行する「橋渡し」の役割を果たすと見ています。

主要プレイヤーの競争構図

2025年第2四半期の市場シェアでは、Metaが60.6%を獲得し、圧倒的な首位に立っています。同社はディスプレイレス製品とMixed Reality(複合現実)ヘッドセットの両分野で成果を収め、長期的なARグラスへの布石を打っています。

次点は7.7%のXiaomiで、自社ブランドのAI Glassesが中国市場で一定の成功を収めていますが、グローバル展開は限定的です。さらにXREAL(4.1%)、RayNeo(2.7%)、Huawei(2.6%)と続き、各社が新製品を通じてポジション確立を狙っています。注目すべきは、GoogleやAppleが今後18カ月以内に新製品投入を予定しており、現時点でのMetaの独走がどこまで維持できるかが焦点となります。

ゲーム中心から「日常活用」へ

これまでAR/VRの利用はゲーム分野に集中していました。2025年上期の売上上位には「Beat Saber」や「Gorilla Tag」といった人気ゲームが並び、ソフトウェア市場は依然として娯楽用途が中心です。

しかしIDCは今後、用途が大きく広がると予測しています。AIを搭載したスマートグラスは、メールやSNS通知、翻訳やナビゲーションといった日常利用に直結する機能を備え、さらに業務現場では設計支援や遠隔作業支援といった生産性向上にも応用されます。YouTubeなど動画視聴アプリの利用時間が既に上位に入っていることは、非ゲーム領域へのシフトを示唆しています。消費者層もゲーマー中心から、クリエイター、知識労働者、高齢者を含む幅広い層へと拡大が期待されています。

ソフトウェア・サービス市場の拡大

IDCは、2025年にAR/VR関連のアプリケーションやサービスへの世界的支出が前年比19.7%増の120億ドルに達すると予測しています。これにはゲーム課金だけでなく、教育、医療、ビジネスコミュニケーションに対応するアプリ群が含まれます。

特に教育現場では、仮想空間での実験・訓練が従来の教材に代わる形で普及し始めています。また、ヘルスケア分野でもリハビリ支援や遠隔診療のツールとして活用が進みつつあります。

今後はアプリ開発者とハードメーカーの協業が鍵となり、利用者の裾野拡大に直結すると考えられます。

今後の展望

IDCは、2029年に世界のAR/VRおよびディスプレイレスグラスの出荷台数が4,310万台に達すると見込んでおり、年平均成長率は31.8%とされています。市場の主力は依然としてディスプレイレス型が担うものの、Mixed Realityやディスプレイ搭載型のスマートグラスも確実に成長し、より高度なAR体験を可能にする基盤となることも予想されます。エンターテインメントやゲームにとどまらず、広告、教育、ヘルスケア、製造業など多岐にわたる分野で新たな顧客接点やビジネスモデルが形成されることも見込まれます。

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