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2026年に向けてインフラストラクチャおよびオペレーション(I&O)に影響を与える重要なトップトレンド

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世界的なIT分野の知見を提供するガートナーは2025年12月11日、米国ラスベガスで開催された「Gartner IT Infrastructure, Operations & Cloud Strategies Conference」において、2026年に向けてインフラストラクチャおよびオペレーション(I&O)に影響を与える重要なトップトレンドを発表しました。

Gartner Identifies the Top Trends Impacting Infrastructure and Operations for 2026

生成AIの実装が急速に進み、地政学的な不確実性が高まる現代において、企業のIT基盤を支えるI&Oリーダーには、単なるシステムの維持運用を超えた戦略的な意思決定が求められています。ガートナーの分析は、ハイブリッド・コンピューティングの進化から、「エージェント型AI」の台頭、そして「ジオパトリエーション(Geopatriation)」と呼ばれる新たなデータの回帰現象に至るまで、多岐にわたる変化を示唆しています。これらは、企業が競争力を維持し、持続可能な成長を実現するために直視しなければならない現実です。

今回は、これらのトレンドの中から主要な論点を整理し、ハイブリッド環境の高度化、自律的なAIの活用、そしてリスク管理とデータ主権のあり方について取り上げたいと思います。

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出典:ガートナー 2025.12

1. 複雑化する基盤を統合する「ハイブリッド・コンピューティング」

現代のITインフラは、クラウドとオンプレミスの単純な組み合わせを超え、より複雑で高度な段階へと突入しています。ガートナーが提唱する「ハイブリッド・コンピューティング」は、異なる、時には互換性のない計算処理やストレージ、ネットワークのメカニズムを、ひとつの統合された環境としてオーケストレーション(編成・管理)するスタイルを指します。

これまで企業はクラウド移行を推進してきましたが、すべてのワークロードがパブリッククラウドに適合するわけではありません。エッジコンピューティングや量子コンピューティング、あるいは特定の産業用システムなど、多様な計算資源を適材適所で組み合わせる必要があります。I&Oリーダーにとって重要なのは、これらの異質な環境をシームレスに連携させ、将来の技術革新にも柔軟に対応できる「コンポーザブル(構成可能)」な基盤を構築することです。これは、特定のベンダーや技術にロックインされるリスクを回避し、ビジネスの俊敏性を高めるための必須条件といえます。多様な技術の強みを組み合わせることで、企業は新たな価値を創出することが可能になります。

2. 「対話」から「実行」へ進化するエージェント型AI

AI技術の進化は目覚ましく、I&Oの現場においてもその役割が大きく変わろうとしています。「エージェント型AI(Agentic AI)」は、従来の人間が指示を出すチャットボットのような受動的なAIとは一線を画す存在です。これは、複雑なデータセットを自律的に分析し、パターンを特定し、そして人間の介入なしに行動を起こすことができるAIを指します。

I&Oの領域において、この技術は革命的な生産性向上をもたらす可能性があります。たとえば、システム障害の予兆を検知し、自動的に修復プログラムを実行したり、リソースの最適化を自律的に行ったりすることが想定されます。ガートナーのアナリストであるジェフリー・ヒューイット氏が指摘するように、これはI&Oリーダーにとって時間の大幅な節約につながり、より戦略的な業務にリソースを集中させる機会を提供します。AIが単なる「支援ツール」から、実務を担う「自律的な同僚」へと進化することで、運用体制のあり方そのものが根本から見直されることになるでしょう。

3. AI統治と真正性の保証:ガバナンスと偽情報対策

AIの自律性が高まるにつれ、それを適切に管理・監督するための仕組みが不可欠となります。「AIガバナンス・プラットフォーム」は、AIの利用に関するポリシーを策定し、意思決定の権利を明確化し、組織としての説明責任を果たすための基盤です。バイアスの排除、透明性の確保、そしてデータプライバシーの保護といった課題に対し、企業は技術的な制御と制度的な枠組みの両面からアプローチすることが求められています。

同時に、生成AIの悪用によるリスクへの対応も急務です。「偽情報セキュリティ(Disinformation Security)」は、ディープフェイクやなりすましから企業のブランドと社会的信用を守るための技術群です。企業の発信する情報が真正であることを証明し、悪意ある偽情報から組織を防衛することは、デジタル空間における信頼を維持するために重要です。I&O部門は、セキュリティの対象を従来のサイバー攻撃から、情報の「真偽」をめぐる領域へと拡大し、組織のレピュテーションを守る盾としての役割を果たす必要があります。

4. 持続可能性と新技術の融合:エネルギー効率の高いコンピューティング

AIの普及に伴う計算需要の爆発的な増加は、電力消費量の増大という深刻な課題を突きつけています。「エネルギー効率の高いコンピューティング」は、企業のサステナビリティ目標を達成するために避けて通れないテーマです。これは、単に既存のサーバーを省エネモデルに置き換えるだけでなく、光コンピューティングやニューロモルフィック(脳型)システムといった、根本的に異なるアプローチを含む包括的な取り組みです。

I&Oリーダーは、環境への負荷を低減しながら、必要な計算能力を確保するという難しい舵取りを迫られています。エネルギー効率の追求は、コスト削減という経済的なメリットだけでなく、企業の社会的責任(CSR)を果たし、投資家や顧客からの信頼を獲得するための重要な経営課題です。長期的には、これらの新技術を採用したインフラ戦略が、企業の競争力を左右する要因となるでしょう。持続可能なIT基盤の構築は、未来への投資そのものです。

5. 地政学リスクへの対応と「ジオパトリエーション」

グローバリゼーションの揺り戻しともいえる新たな潮流が、「ジオパトリエーション(Geopatriation)」です。これは、地政学的な不確実性や経済安全保障の観点から、ワークロードやデータをグローバルな巨大クラウド事業者(ハイパースケーラー)から、国や地域に根ざしたローカルなインフラへと回帰させる動きを指します。

かつての「ナショナリズム対グローバリズム」の議論の延長線上にあるこのトレンドは、単なるデータの保存場所(データ主権)の問題にとどまらず、運用の自律性(運用主権)や技術的な独立性(技術主権)にまで及んでいます。各国の規制強化や供給網の分断リスクに対し、I&Oリーダーは自社のシステムがどの国の法規制下にあり、有事の際にどのように事業を継続できるかを再評価する必要があります。国内のクラウド事業者やオンプレミスへの回帰を含めた、戦略的な分散配置が検討される段階にきています。これは国内経済の自立性を高める側面も持ち合わせています。

今後の展望

2026年に向けて示されたこれらのトレンドは、ITインフラがビジネスの裏方から、企業の存続と成長を決定づける戦略的な資産へと完全に変貌したことを示しています。ハイブリッド環境の複雑性、自律的なAIの台頭、そして地政学的な分断という三重の波に対し、企業は「適応」ではなく「先制」の姿勢で臨むことが求められています。

これからのI&O戦略においては、技術的な効率性だけでなく、倫理的なガバナンス、環境への配慮、そして国家レベルのセキュリティ要件を満たす包括的な視点が求められています。

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※Google Geminiを活用して作成

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