2025年企業WLAN市場は7.8%増、Wi-Fi 7とAIが成長を牽引
米IDCは2025年12月11日、同年第3四半期(3Q25)における世界の企業向け無線LAN(WLAN)市場に関する調査結果を発表しました。これによると、市場規模は前年同期比で7.8%増加し、27億ドル(約4,000億円)に達しています。この成長は、前四半期の13.2%増に続くものであり、企業のネットワーク投資が堅調であることを示しています。
デジタルトランスフォーメーション(DX)が成熟期に入り、企業が単につなぐだけのネットワークから、高速かつインテリジェントなインフラへと刷新を急いでいる社会的な文脈があります。調査結果は、最新規格である「Wi-Fi 7」への移行が急速に進んでいること、そしてネットワーク管理における「AI(人工知能)」の役割が決定的になっていることを明らかにしました。
今回は、市場を牽引する技術的な転換点、ベンダー間の勢力図の激変、地域ごとの市場環境の違い、そして今後の展望について取り上げたいと思います。

出典:IDC 2025.12
Wi-Fi 7への移行が加速する技術的背景
市場成長の最大の牽引役は、新しいWi-Fi規格への急速な移行です。データによると、2025年第3四半期において、アクセスポイント(AP)売上に占める「Wi-Fi 7」の割合は31.1%に達し、前四半期の21.0%から大幅に伸長しました。「Wi-Fi 6E」の24.5%と合わせると、過半数が最新の6GHz帯域を利用可能な規格へと移行しています。
この変化は、企業が利用可能な帯域幅を最大3倍に拡大し、混雑の少ない6GHz帯を活用しようとする動きを反映しています。拡張現実(AR)や仮想現実(VR)を活用した業務プロセス、高解像度のビデオ会議、IoTデバイスの爆発的な増加など、企業活動において広帯域・低遅延な通信インフラが不可欠になっていることが、この投資を後押ししています。
「AIネットワーキング」が選定の重要基準に
ハードウェアの進化と並行して、ネットワーク管理のあり方も大きく変化しています。IDCのアナリスト、ブランドン・バトラー氏が指摘するように、企業は「AIを活用したネットワーキング機能」を優先的に選択するようになっています。これは、複雑化するネットワーク環境において、手動での管理が限界を迎えているためです。
AIによる自動化されたトラブルシューティング、セキュリティの統合、そしてプラットフォームベースでの一元管理が可能なシステムへの需要が高まっています。企業は、ネットワーク機器を単体のハードウェアとしてではなく、セキュリティや運用管理を含む包括的な「プラットフォーム」として評価しており、これがベンダー選定の大きな基準となっています。
既存巨人の苦悩と業界再編の影響
ベンダー別の動向を見ると、市場構造の変化が浮き彫りになります。長年市場をリードしてきたシスコシステムズ(Cisco)の売上は前年同期比3.0%減の9億9,240万ドルとなり、シェアは37.4%でした。依然としてトップシェアを維持していますが、成長率においてはマイナスに転じており、市場全体の拡大とは対照的な結果となっています。
一方で、ヒューレット・パッカード・エンタープライズ(HPE)は、2025年7月に完了したジュニパーネットワークスの買収効果を含め、売上が1.6%増加し、シェア19.3%を確保しました。この統合により、HPEはAIドリブンなネットワーク管理機能を強化しており、今後シスコに対抗する強力なプラットフォームを提供する体制が整いつつあります。
新興・特定市場ベンダーの躍進が示す二極化
特筆する点は、ユビキティ(Ubiquiti)とファーウェイ(Huawei)の驚異的な成長率です。ユビキティは前年同期比47.1%増という驚異的な伸びを見せ、シェア11.3%を獲得しました。高機能ながらコストパフォーマンスに優れた同社の製品は、中堅・中小企業だけでなく、分散型拠点を持つ大企業にも浸透し始めています。
また、ファーウェイも33.7%増と大幅に成長し、シェア9.0%を占めました。これは、地政学的な課題を抱えながらも、特定の地域や市場において同社の技術力と価格競争力が強く支持されていることを示唆しています。市場は、高付加価値なプラットフォームを提供する大手と、コストと性能のバランスで攻勢をかけるチャレンジャーという二極化の様相を呈しています。
地域差に見る世界経済の温度感
地域別の成長率からは、世界経済のまだら模様が見て取れます。欧州・中東・アフリカ(EMEA)地域は前年同期比12.8%増と高い成長を記録し、米州も6.0%増と堅調です。これに対し、アジア太平洋地域は5.6%増にとどまり、なかでも中国市場は1.3%減とマイナス成長となりました。
中国市場の減速は、同国内の経済状況や設備投資の抑制傾向を反映している可能性があります。一方で、EMEA地域の高い成長は、デジタルインフラの近代化プロジェクトが活発化していることを示しており、グローバル展開する日本企業にとっては、投資の優先順位を検討する上で重要な指標となります。
今後の展望
2025年第3四半期の結果は、企業ネットワークが「単なるインフラ」から「AI活用のための戦略基盤」へと完全にシフトしたことを示しています。今後、Wi-Fi 7への置き換え需要はさらに加速し、2026年には市場の主流となることが確実視されます。
企業経営者やIT責任者に求められているのは、ネットワーク投資をコスト削減の対象としてではなく、生産性向上とセキュリティ強化のための戦略投資として捉え直すことです。AIによる運用自動化は、IT人材不足への現実的な解となるでしょう。

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