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国内データセンターコロケーション市場、AI需要で転換点へ

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IDC Japanは2025年11月19日、国内データセンター(DC)で提供されるコロケーションサービス市場の最新予測を公表しました。2024年の市場規模は9,717億円でしたが、2029年には1兆7,817億円に拡大する見通しで、2024〜2029年の年間平均成長率は12.9%に達するとしています。AI普及の本格化、クラウド基盤の増強、そしてサーバー運用の複雑化が背景にあり、従来のエンタープライズ中心の市場構造が大きく変わり始めています。

中でも、AWSやマイクロソフトなどのクラウドサービス事業者による大規模DC需要は急速に拡大しており、IDCは2029年にハイパースケール向けコロケーションが国内市場の40%を超える規模に達すると予測しました。エンタープライズ側でもクラウド移行が進む一方で、DC事業者による運用サービス需要が堅調に推移し、市場の底支えとなっています。

今回は、成長の構図、提供価値の変化やAI液冷対応の行方、そして、今後の展望について取り上げたいと思います。

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※Google Gemini

拡大する国内DCコロケーション市場の全体像

IDCの最新予測によると、国内コロケーション市場は2024年の9,717億円から2029年には1兆7,817億円へとほぼ倍増する見込みです。この背景にあるのが、データ量の増大とAI時代に向けた計算需要の急増です。企業や公共機関にとって、ITインフラを安全かつ効率的に運用するための拠点としてのデータセンターの重要性は一段と増しています。

コロケーションサービスは、顧客企業が自ら保有するサーバーやストレージ機器をDC事業者の施設内に設置する際に必要な電力、空調、ラックなどの環境を提供するサービスです。国内では「ハウジングサービス」と呼ばれることもあり、多様な産業分野で利用されています。金融、官公庁、製造、医療、流通など、セキュリティ・可用性が重視される領域では依然としてコロケーションの需要が根強く、クラウド化の進展と並行して活用が広がっています。

さらに、企業側のIT運用が複雑化する中で、DC事業者が提供する運用代行の付加価値サービスの利用が増加し、市場規模の拡大に寄与しています。クラウド活用が一般化したことで「すべてをクラウドへ移す」だけでは対応しきれないケースが増え、オンプレミスとクラウドが混在する環境を安定して運用するためのDCサービスの価値が再評価されています。

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出典:IDC Japan 2025.11 

市場構造を変えるハイパースケール需要の急拡大

今回の予測で最も注目されるのが、クラウドサービス事業者によるハイパースケール向けコロケーション市場の伸びです。IDCは2029年に国内コロケーション市場の40%超がハイパースケール向けになると見ています。これは、AWS、マイクロソフト、Googleなどが進める大規模DC投資が国内でも本格化していることを示しています。

ハイパースケール向けのコロケーションでは、事業者が巨大な建物設備を「一括大量に借りる」かたちが一般化しています。この場合、サーバー運用やアプリケーション運営はクラウド事業者自身が行うため、DC事業者は主に建物・電力・空調・セキュリティといった物理層の提供に特化し、規模拡張に合わせて設備投資を積み重ねる必要があります。

背景には、生成AIの普及とAIインフラ需要の急増があります。AIモデルの学習や推論のためには膨大な電力、冷却能力、高密度ラックが不可欠であり、既存DCでは対応が難しいケースも増えています。結果として、クラウド事業者は国内でのDCキャパシティ確保を急ぎ、建設・拡張計画を相次いで発表しています。

一方でこの急成長は、電力系統の逼迫や地域の受け入れ環境、建設コスト上昇などの課題も抱えています。市場拡大は続くものの、適地確保やエネルギー供給との両立が中長期的な焦点となりつつあります。

伸び悩むエンタープライズ市場と広がる付加価値サービス

ハイパースケール市場が加速する一方、エンタープライズ向けコロケーションは緩やかな成長にとどまっています。企業ITのクラウド移行が進むことで、オンプレミス機器をDCに持ち込む需要は縮小傾向にあります。しかし、IDCはエンタープライズ市場が「低成長ながらもプラス成長を維持する」と指摘します。

その背景には、企業のIT運用の複雑化が存在します。クラウドとオンプレミスを組み合わせるハイブリッド環境の管理は高度な専門性が求められ、企業内部だけでは対応しにくい場面が増えています。そこで、DC事業者が提供する運用代行やネットワーク管理、セキュリティ、監視運用といった付加価値サービスが拡大し、収益源として存在感を高めています。

クラウドへの全面移行は業種特性やセキュリティ要件から現実的でない企業も多く、データの所在管理や規制遵守の観点でコロケーションの利用価値は引き続き高いままです。DC事業者は単に設備を貸し出すだけでなく、複雑化する企業ITの運用パートナーとしての役割を強めており、この変化が市場の底堅さにつながっています。

AIインフラ普及と液冷対応がもたらす新たな需要

IDC Japanの伊藤未明リサーチマネージャーは、今後の市場動向として「AI向け液冷サーバーに対応するコロケーションサービスが登場するだろう」と指摘しています。AIインフラは、GPUを大量に搭載した高密度サーバーを必要とし、従来の空冷方式では十分な冷却が難しくなりつつあります。

液冷はラック密度の向上と電力効率の改善に寄与するため、AI時代のDCインフラでは重要な技術になりつつあります。しかし導入には特殊な設備、メンテナンス体制、耐水設計、サプライチェーン整備など複数の課題があります。そのため、液冷対応が進むDCは新たな差別化要因となり、設備投資の優先順位にも影響を与えているといいます。

さらに、AIインフラは消費電力が非常に高く、電力供給体制の強化や再エネ調達、蓄電設備の併設など、エネルギー分野との連携が不可欠になります。政府が進めるGX政策やデータセンター立地戦略とも関連し、AIインフラを前提としたDCのあり方は、産業政策の重要テーマとして位置づけられています。

国内DC市場はAIによる需要増を取り込みつつ、電力・冷却・立地の制約をどう克服するかが問われる段階に入りました。

今後の展望

今後の国内コロケーション市場は、AI向け高密度インフラの普及と、クラウド事業者の設備投資拡大により、2020年代後半に大きな転換期を迎えることが想定されます。ハイパースケール需要の増大は引き続き市場成長を押し上げるものの、電力供給や建設コスト、適地不足といった制約が強まり、DC事業者の投資判断が難しくなる局面が訪れると考えられます。

一方、エンタープライズ市場では、運用サービスの高度化が収益拡大のカギになります。企業のIT環境はAI活用やデータガバナンス強化を背景に今後さらに複雑になり、DC事業者は運用支援の範囲を拡大することで顧客との関係を深めることが可能です。DCは単なるIT機器の置き場所ではなく、企業成長を支えるIT運用基盤として再定義されつつあります。

液冷対応や電力効率の改善、再エネ活用、地域分散型DCなど、これまでとは異なる発想の投資計画も広がるでしょう。AIインフラは電力条件が厳しく、都市部だけでなく地方都市への分散の重要性も高まっていくでしょう。

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※Google geminiを活用して編集

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