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財務AIの導入はどこでつまずくのか?

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Gartnerは2025年11月18日、今年5〜6月にかけて実施した「AI in Finance Survey」の結果を公表しました。

Gartner Survey Shows Finance AI Adoption Remains Steady in 2025

183人のCFOおよび財務部門の上級リーダーへの調査で、財務領域におけるAI活用率は59%と、昨年の58%からわずかな増加にとどまりました。2023年の37%から急伸した反動もあり、導入ペースは落ち着きを見せています。しかし、AIを活用する企業の67%が昨年よりも財務AIへの期待が高まったと回答しており、成熟度が上がるほど楽観的な見方が広がる傾向も示されています。

こうした結果の背景には、データ品質、技術スキル、文化的受容などの課題が依然として存在しています。一方で、ナレッジ管理、AP自動化、異常検知といった利用領域が広がり、コード生成など新たな高インパクト領域も注目されています。

本調査は、導入の勢いに一服感があるものの、取り組みを進める組織では成果が着実に積み上がっているという二面性を示しています。今回は、調査結果を踏まえた財務AIの現状、課題、活用領域の変化、そして企業がこれから取るべき方向性について整理します。

スクリーンショット 2025-11-24 20.01.00.png※Google Geminiにて作成

財務AI導入は"安定期"へ移行しつつ、期待感は着実に高まる

2025年の調査で財務領域におけるAI導入率は59%となり、昨年の58%からほぼ横ばいの結果となりました。2023年の37%から2024年に一気に上昇した流れとは異なり、急速な増加から安定局面へ入りつつある様子がうかがえます。導入が一巡し始めたことで、組織は次の段階である運用定着や成果最大化に取り組んでいる状況と捉えられます。

一方で今年の調査が示した特徴として、AIをすでに利用している財務リーダーの期待感が強まっている点が挙げられます。利用企業の67%が昨年よりもAIに対して楽観的であると回答し、特にAI活用の成熟度が高い組織では23%が「非常に楽観的」との姿勢を示しました。これは、AI導入初期で苦戦した領域でも、運用が進むほど成果実感が高まり、次なる投資意欲が生まれる好循環の兆しと考えられます。

こうした傾向は、AIが単なる効率化ツールから、財務戦略の高度化や新たな価値創造を可能にする基盤として受け止められ始めたことを示しています。導入ペースの鈍化を単純な停滞とみるのではなく、次のステージに移行する準備が進んでいるとの見方が重要です。

ナレッジ管理が最も普及、コード生成が高インパクト領域として台頭

Gartnerの調査によると、財務領域で広く採用が進むAI活用の中心はナレッジ管理(49%)でした。膨大な財務データや業務知識を整理し、意思決定に生かすニーズが高まっているためです。財務部門では規程やレポート、取引履歴など非構造データも多く、それらを横断的に扱えるAIの強みが際立ちます。

続いて普及が進むのは、買掛金処理などのプロセス自動化(37%)です。請求書処理や照合作業といった定型業務の自動化が進むことで、財務担当者は分析や改善提案など付加価値の高い業務へシフトしつつあります。さらに、異常検知(34%)の採用も増え、支出の不正やミスの早期発見などガバナンス強化にも役立っています。

注目すべきは、まだ普及率は高くないものの、コード生成が財務リーダーから「最もインパクトの大きいAI活用領域」と評価された点です。財務部門においても、マクロやスクリプトなどの作成は改善効率に大きな影響を与えます。AIがコード生成を支援することで業務自動化の範囲が広がり、現場起点の改善サイクルが加速する未来が見え始めています。

財務AIの活用領域は、定型業務の効率化から、分析力強化や意思決定支援へ広がっています。これは、財務が企業全体のデータ基盤を扱う組織として、AIの効果を引き出しやすい構造を持っているためでもあります。

スクリーンショット 2025-11-24 19.58.13.png

出典:ガートナー 2025.11

導入を妨げる壁:データ、スキル、人材文化の課題

財務AIの導入が横ばい傾向にある理由として、多くの企業が共通して直面する課題が挙げられます。もっとも大きな障壁は、データの品質と可用性です。AIの精度を高めるには、財務データだけでなく関連部門のデータも統合し、クレンジングを行う必要があります。しかし、レガシーシステムの存在や部門間の連携不足により、必要なデータが揃わないケースは少なくありません。

次に問題となるのが、データリテラシーや技術スキルの不足です。AI導入を試みても、現場における理解や扱い方が浸透しないと、効果が限定的になってしまいます。特に、AIを活用した改善提案や自動化設計には一定のスキルが求められ、従来の財務部門の役割を超える発想が必要になります。

さらに、AIを使わない組織においては、文化的な受容が進まないことが大きな要因となっています。AIの活用を優先順位として理解できず、業務と結びついた価値を実感できなければ、導入はなかなか進みません。16%の企業が来年もAI導入を行う予定がないと回答した背景には、このような文化的ハードルが残されています。

計画からパイロット移行まで進む企業も、成果が可視化されるまで時間を要します。調査では91%が初期段階では低〜中程度の効果しか得られていません。導入後すぐに劇的な改善が生まれるわけではなく、運用の成熟によって初めて高い成果が得られるという現実が示されています。

成熟が大きな成果を生む:AI導入企業が得ているメリット

調査結果によれば、AI活用が進んだ企業は成果を実感する割合が高く、成熟度と効果の間には明確な相関がみられます。AIを高度に活用している組織は、中程度の成果を得る確率が2倍以上、高い成果を得る確率が3倍近くに増加し、低い成果にとどまる可能性は半減しています。導入初期には見えにくい効果も、運用を継続することで徐々に積み上がっていることが読み取れます。

成果が高まる背景には、AIモデルの精度が向上するだけでなく、業務プロセスの見直しや担当者のスキル向上など、組織全体の変化が伴うケースが多い点が挙げられます。また、財務部門は企業のデータ結節点でもあるため、AIを活用した洞察が経営判断に直結しやすいという特徴もあります。

ナレッジ管理の高度化による迅速な意思決定、異常検知によるガバナンス強化、業務自動化による人的リソースの最適化など、財務AIの効果は複合的に現れます。さらにコード生成のように、部門内の改善サイクルを加速させる領域も今後の成長が期待されています。

重要なのは、AI導入自体が目的化すると期待外れの結果に終わりやすく、運用を通じてどこまで価値を引き出すかが問われる点です。成功する企業は、データ整備、スキル育成、プロセス改善を並行して進めることで、AIが継続的に成果を生む環境を整えています。

今後の展望

財務部門におけるAI活用は、急拡大から安定成長の段階へ入りつつあります。今後は導入企業が増えるだけでなく、AIを前提とした財務オペレーションモデルへの転換が進むと考えられます。AIが生成するインサイトを経営判断に即時に反映する仕組みや、プロセス全体を最適化する統合的な自動化基盤の構築など、役割変化が進む可能性があります。

一方で、データ品質やスキルの課題は短期間では解決しません。特に中堅企業や地方企業では、IT予算や人材不足が壁となりやすく、AI導入格差が広がる懸念があります。この差が企業競争力の差につながるため、外部ベンダーとの協業、ガバナンスに対応したAIサービスの活用など、柔軟な取り組みが求められます。

また、財務部門は企業全体のデータ整備に触れる機会が多いため、他部門を巻き込んだデータマネジメント改革をリードする役回りも期待されています。AI活用が高度化するほど、財務は数字の管理から価値創造への貢献へ軸足を移す可能性があります。

これからの企業に求められるのは、単にAIを導入することではなく、AIが生み出す成果を継続的に最大化するための体制構築と投資判断です。財務AIの進化は、企業の経営基盤そのものを変えていく転換点に位置付けられるでしょう。

スクリーンショット 2025-11-24 19.59.39.png※Google Geminiにて編集

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