なぜSD-WANへの移行が加速しているのか?
Frost & Sullivanは2025年11月14日、世界19カ国のIT意思決定者を対象に実施した「Voice of Customer: SD-WAN and SASE 2025」を公表しました。
クラウドファーストへシフトする企業が増えるなか、ネットワーク刷新に対する期待と課題が浮き彫りになっています。調査では、企業が従来のMPLSに代表される固定的なネットワークから、アプリケーションごとに最適な経路をリアルタイムに選択できるSD-WANへの移行を急速に進めていることが明らかになりました。
背景には、クラウドサービスの普及、働く場所の多様化、拠点網の再設計など、ネットワーク負荷の変化があります。さらに、ネットワークが事業活動の中核として位置づけられ、顧客体験や生産性向上に直結する存在へと変わっています。
今回は、SD-WAN移行が加速する理由、求められる機能、SASEとの役割分担、導入が抱える課題、そして企業が2030年に向けて描くべきネットワーク戦略の展望を取り上げたいと思います。
※Google Gemini
クラウド活用の急拡大がもたらすネットワークの限界
企業のデジタル活用が進む中で、クラウドアプリケーションやSaaSの利用は当たり前になり、業務データのやり取りも増加しています。リモートワーク、サテライトオフィス、グローバル拠点など、業務が従来より広範囲に広がるなかで、ネットワーク基盤への要求は複雑になりました。こうした変化に対して、帯域幅が高価で拠点ごとの固定ルーティングが基本となるMPLSでは柔軟性が不足し、遅延やトラフィック集中によるパフォーマンス低下が課題として浮上しています。
SD-WANは、これらの制約を解消する選択肢として注目されてきました。複数の回線を組み合わせてアプリケーションに応じた最適な経路へ自動分配できるため、クラウド利用の増加や地理的に分散した働き方にも適応できます。さらに、ネットワークの集中管理や自動化の仕組みを備え、管理負荷の軽減にも寄与します。
ネットワークが企業活動の前提となる中で、クラウド活用と働き方の変化がSD-WAN移行を後押ししている状況が鮮明になっています。
SD-WANに求められる価値と顧客の期待の変化
Frost & Sullivanの分析では、ネットワーク投資の目的が大きく変わりつつあると示されました。以前は「コスト削減」が主目的とされていましたが、現在は「業務効率の向上」「顧客体験(CX)の改善」「従業員の生産性向上」「新しい価値提供の迅速化」などが重視されています。ネットワークが企業成長の足かせではなく「価値を生む基盤」へと役割が変わりつつあることがうかがえます。
実際、企業ネットワークを利用するアプリケーションを見ても、最も利用されるのはセキュリティ関連であり、次にデータ転送や遠隔からのエンドポイント監視が続きます。店舗や倉庫などの現場では、ロスプリベンション、IoT連携、各種アプリケーションの可視化が不可欠となりつつあります。こうしたアプリケーションは、ネットワークが単なる通信の通り道ではなく「情報を判断し最適化する仕組み」として機能することを求めています。
SD-WANは、リアルタイムの経路最適化、アプリケーション単位での制御、セキュリティ統合など、現代の企業が求める要件に合致した技術として評価されており、導入を後押ししています。
普及フェーズに入ったSD-WAN導入
調査結果によると、SD-WANをすでに導入している企業は42%に達しており、46%が検証段階または導入計画の策定中でした。導入意向は9割近くとなり、SD-WANが世界の企業ネットワークにおいて主流技術として認識され始めたことが示されています。
普及が進む背景には、ユーザーの働く環境が大きく変化したことが挙げられます。従業員がオフィスと自宅、国内外の拠点を移動しながら業務を行う環境では、どこからでも一定品質でクラウドにつながるネットワークが必要となります。SD-WANは各拠点での帯域調整やアプリケーション最適化が行えるため、分散型の働き方に適しています。
ただし導入には、想定以上の運用調整やコスト増、拠点ごとの設計課題など、現場での負荷が大きくなるケースもあります。調査では「信頼できる導入パートナーの存在」がSD-WAN成功の重要な要因として位置付けられています。適切なパートナーを選び、段階的な導入計画を策定することが求められています。
SASEとの連動で加速するネットワークとセキュリティの統合
SD-WANの導入が進むと、次に注目されるのがSASEです。SASEはSD-WANの機能に加え、ゼロトラスト、クラウド型ファイアウォール、データ保護などセキュリティ機能を統合したアーキテクチャとして、クラウド利用が増える企業に適したモデルです。
調査では、約4分の1がすでに導入またはロールアウト中であり、5割以上が情報収集や検討段階にあります。これは、ネットワークとセキュリティを別々に管理する従来モデルでは対応しきれない状況が増えていることを示しています。
SASEは、ユーザーがどこからアクセスしても統一的な保護を提供できるため、SD-WANで実現した柔軟なネットワークに一貫したセキュリティを組み合わせる形で導入が加速しています。一方で、技術統合や人材育成などの課題もあり、多くの企業がマネージドサービスプロバイダーと連携しながら段階的に移行を進めています。
今後の展望
SD-WANの移行が加速している背景には、クラウド活用の拡大と働き方の多様化があります。2030年に向けて企業が検討すべきは、ネットワークを単なる基盤ではなく「企業成長を支える戦略的資産」として扱う姿勢です。SD-WANとSASEを組み合わせた統合モデルは、分散型の働き方や多様なアプリケーション利用を支える仕組みとして機能すると考えられます。
一方で、導入コストや運用負荷をどう最適化するか、ゼロトラストをどのレベルで実装するかなど、検討すべき課題もあります。また、エッジAIやIoTなど、ネットワークの役割はさらに拡張する可能性が高く、企業には将来の変化を見据えた継続的なネットワーク戦略が求められています。

出典:Frost & Sullivan 2025.11

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