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Cloud 2.0から3.0へ

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フロスト&サリバンは2025年12月10日、「Cloud 2.0から3.0へ:クラウドインフラとプラットフォームにおける成長機会」と題する調査レポートを発表しました。

From Cloud 2.0 to Cloud 3.0 and Beyond: Lucrative Growth Opportunities in Cloud Infrastructure and Platforms

現在、クラウドの導入はデジタルビジネスの「ゴール」ではなく、AIや機械学習を駆動させるための「出発点」へとその役割を変えています。あらゆる産業がクラウドに依存する一方で、セキュリティ要件の厳格化や技術革新のスピードに追いつけない人材不足といった課題が、企業の成長を阻害する要因として浮き彫りになっています。

本レポートが示唆するのは、従来のインフラ管理からの脱却と、AIによる自律化、そしてエッジ領域への拡張が企業の生存戦略において不可欠であるという現実です。単にクラウドを利用する段階から、いかに効率的かつ安全に「統御」するかが問われています。

今回は、レポートで示された「自律型リソース管理」「エッジでのサーバーレスAI」、そして「次世代の信頼構築」という観点から、クラウド3.0時代の本質と、企業が取るべき具体的な戦略、そして今後の展望について取り上げたいと思います。

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クラウド3.0への移行を阻む「壁」と5つの戦略的指針

クラウドの利用が拡大する一方で、企業は新たなジレンマに直面しています。フロスト&サリバンの分析によると、特に規制の厳しい業界において、セキュリティへの懸念が依然として最大の障壁となっています。加えて、マルチクラウド環境でのワークロード調整やコスト最適化には高度なスキルが必要とされますが、専門人材の供給は圧倒的に不足しています。技術の進化スピードにITチームの能力が追いつかない状況は、イノベーションの停滞を招くリスクを含んでいます。

こうした状況を打破するため、レポートでは5つのアプローチが提示されています。「セキュリティの優先(Security First)」「インフラの拡張(低遅延化)」「ローカライズされた人材への投資」「サステナビリティの実装」、そして「官民エコシステムの構築」です。これらは個別の施策ではなく、相互に関連し合う要素です。たとえば、環境規制への対応(サステナビリティ)は、地域ごとの事情に精通した人材(ローカライゼーション)なしには実現できません。

企業には、これらの要素を包括的に統合し、単なるコスト削減策ではない、価値創出のためのクラウド戦略を再構築することが求められています。

AI主導による「自律型クラウド管理」の必然性

クラウド環境の複雑化が進むなか、従来の人手に頼った管理手法は限界を迎えつつあります。成長機会スコアで「97」という高い評価を得た「AIを活用した自律型クラウドリソース管理」は、この課題に対する明確な回答といえます。IBMやAWS、Google Cloud、Microsoft Azureといった主要プレイヤーは、すでにAIを組み込んだ予測型のスケーリングやコスト最適化ツールの提供を加速させています。

自律型管理の核心は、事後対応から事前予測へのシフトにあります。AIがリソース需要を事前に予測し、リアルタイムで容量を調整することで、無駄な支出を抑えつつ、システムの安定性を担保します。また、自己学習型AIが新たな脅威を自律的に検出し対処することで、セキュリティリスクも低減されます。これは、IT部門をルーチンワークから解放し、より創造的な業務へとシフトさせるための必須条件ともいえるでしょう。人間が管理するのではなく、AIが管理するインフラへの転換は、コスト効率とイノベーション速度の両立において極めて重要となります。

エッジとサーバーレスの融合が加速するリアルタイムAI

もう一つの注目すべき成長領域(スコア97)が、「エッジにおけるAI推論のためのサーバーレスコンピューティング」です。自動運転や産業用ロボット、スマートシティといった分野では、ミリ秒単位の低遅延が求められます。データを中央のクラウドに送って処理する従来のモデルでは、この要求に応えることが困難でした。そこで台頭しているのが、データ発生源に近い「エッジ」でAIモデルを実行し、かつインフラ管理を抽象化するサーバーレスモデルです。

CloudflareやFastlyなどの企業が推進するこの技術は、開発者がインフラの複雑さに煩わされることなく、コードの記述のみに集中できる環境を提供します。特筆すべきは、AIモデルが稼働している時間に対してのみ課金されるという経済合理性です。これにより、大規模なエッジ展開における財務的なハードルが劇的に下がります。リソース効率の最大化と超低遅延の実現は、AIの実社会への実装を加速させる強力なドライバーとなることが想定されます。

「信頼」を再定義する量子技術と機密計算

クラウド3.0の時代において、技術的な性能と同様に重要視されるのが「信頼(Trust)」の基盤です。レポートでは、量子クラウドコンピューティング(スコア94)や、連合学習を用いたコンテキスト認識型セキュリティ(スコア93)、そして機密計算(スコア93)が、次の成長機会として挙げられています。これらは、データのプライバシーを保護しながら、企業や国境を越えた協調を可能にする技術です。

特に機密計算(Confidential Computing)は、処理中のデータを暗号化したまま扱うことを可能にし、機密情報を共有することなく、複数の組織がデータを持ち寄ってAIモデルを学習させることを実現します。これは、金融詐欺の検知や医療研究など、データの秘匿性が高い分野でのイノベーションを促進します。将来的には、量子コンピューティングのパワーと高度なセキュリティ技術が融合し、これまで解決不可能だった複雑な課題に対し、安全かつ迅速に答えを出す新たなプラットフォームが形成されると考えられます。

今後の展望

クラウド3.0への進化は、企業に対して技術導入以上の変革を迫っています。自律型AI管理やエッジコンピューティングの普及により、インフラの運用は「人間の手」から離れ、より自動化・最適化されたプロセスへと移行していくでしょう。しかし、ここで看過できない課題として残るのが、高度化する技術を戦略的に活用できる「人材の確保と育成」です。技術が自律化しても、それをビジネス価値に変換する設計図を描くのは依然として人間です。

今後は、単にクラウドプロバイダーのサービスを選定するだけでなく、自社のビジネスモデルに合致したセキュリティ基準やサステナビリティ目標を、プロバイダーといかに共有・共創できるかが競争力を左右します。AIによる自律化を恐れず、むしろその管理権限を委譲することで、組織のリソースを「維持」から「創造」へと大胆にシフトさせることが期待されます。まずは自社のインフラ運用における「非効率な手作業」を特定し、AIによる代替可能性を検証することから始めることが、次なる成長への第一歩となるでしょう。

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