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AI需要がけん引する半導体装置市場、堅調な拡大続く

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半導体産業の国際業界団体であるSEMIは2025年9月4日、世界半導体製造装置市場の統計「Worldwide Semiconductor Equipment Market Statistics(WWSEMS)」を発表しました。

本統計によると、2025年第2四半期の世界半導体製造装置の売上高(ビリングス)は330.7億ドルとなり、前年同期比24%の増加を記録しました。前四半期比でも3%の拡大で、先端ロジックや高帯域幅メモリ(HBM)関連DRAM需要、アジア向け出荷増が大きな要因となりました。2024年には過去最高の1,170億ドルを記録した市場が、2025年上半期だけで650億ドルを超える売上を達成したことは、AI時代の到来とサプライチェーン強化への投資意欲を映し出しています。

今回は、この統計の詳細と背景、成長を牽引する領域、地域別の動向、そして今後の展望について取り上げたいと思います。

先端ロジックとメモリ需要が市場を牽引

2025年第2四半期の成長を支えた中心は、AI向けの先端ロジック半導体とHBMをはじめとするメモリ需要でした。生成AIやマルチモーダルAIの普及が進む中で、高速かつ大容量の処理能力を持つ半導体が不可欠となり、ロジック半導体メーカーはEUV(極端紫外線)リソグラフィーを活用した5nm以下のプロセスノードへの投資を加速させています。HBMはGPUとの組み合わせでAI演算効率を大幅に引き上げる技術として注目され、サムスン電子やSKハイニックス、マイクロンなどが積極的に設備投資を進めています。

こうした潮流が装置市場を押し上げており、露光装置、成膜装置、検査・計測機器など広範な装置分野で高水準の需要が続いています。

地域別動向とアジアの存在感

地域別にみると、アジアが依然として最大の市場を形成しています。中国では国家的な半導体自給率向上政策を背景に、製造ライン拡張が続いています。

米国による先端装置輸出規制の影響は残るものの、成熟ノードや一部先端分野への投資は継続しており、装置需要は底堅さを維持しています。台湾や韓国では、TSMCやサムスン電子などの大手企業が次世代AIチップ生産のために巨額投資を継続し、日本でも熊本や広島での新工場建設に伴う装置調達が拡大しています。一方、米国や欧州では政府補助金を背景に新工場建設が進行中であり、装置市場の地理的な分散化が進んでいる点も特徴的です。

結果として、地域ごとの投資パターンが相互に補完し合い、グローバル市場全体を押し上げる構造が形成されつつあります。

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出典:SEMI 2025.9

サプライチェーン強靭化と政策的後押し

今回のSEMIの報告では、AI時代に対応する先端技術開発だけでなく、サプライチェーン強靭化への取り組みが投資を後押ししている点が強調されています。半導体は地政学的リスクや自然災害に対して脆弱な側面があり、地域ごとの自給体制構築が重要視されています。

米国のCHIPS法や欧州のEU Chips Act、日本の「半導体・デジタル産業戦略」など、各国が補助金や税制優遇を通じて製造拠点誘致を進めており、装置需要の安定的な成長基盤となっています。装置メーカーにとっては、供給先の多様化と同時に品質・信頼性の確保が一層求められています。また、先端装置は価格も高騰しており、一台数千億円規模に達するケースもあるため、長期的な需要予測と資本回収計画の精度が今後の収益性を左右することになります。

半導体装置市場の持続性と課題

急成長を遂げる半導体装置市場ですが、課題も存在します。1つ目は、装置製造自体が高エネルギー消費型であり、脱炭素社会に向けた持続可能性の観点が強く問われています。水素や再生可能エネルギーの活用による製造プロセス改革が進められる一方で、コスト増加につながる懸念も拭えません。

継に、供給網のひっ迫です。半導体装置は高度な部材と精密部品を必要とするため、ボトルネック解消が世界的な課題となっています。

そして、人材不足です。高度な設計や製造に対応できるエンジニアの確保は容易ではなく、各国で教育・研修への投資が拡大しています。

今後の展望

SEMIの発表を踏まえると、2025年下半期以降も半導体製造装置市場の成長は続くと見込まれます。AI需要は依然として拡大基調にあり、生成AIや推論処理に適したカスタムチップ開発が投資の焦点となるでしょう。加えて、電動化や自動運転を背景とする自動車半導体、通信インフラの高速化を支える先端ロジックなど、多様なアプリケーションが装置需要を支えていくことになるでしょう。

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