米国進出で12倍値上げ!? 欧州起業家の海外チャレンジから学べ
小生がメンターを務めるエンデバー・ジャパン主催のイベント、2025年11月21日・東京・竹芝で開催のEndeavor Japan Summit 2025からセッションの一つを紹介したい。
3:50pm - 4:40pmのファイヤーサイドチャット #4 「ハイ・インパクトな起業家を支援する:次世代のグローバルリーダーを育成戦略」
ゴンサロ・フォルテス氏 Gonçalo Fortes(Exited Founder、エンジェル投資家、Endeavor Portugal ボードメンバー)
ルカ・ボヴォーネ氏 Luca Bovone(Habyt 創設者兼CEO、Endeavor Entrepreneur)
濱田 奈巳氏=モデレーター(Benhamou Global Ventures, BGV、Japan Advisory Board Member)
の三名による本パネルでは、ヨーロッパを起点に世界へ挑み、米国・アジアへの展開やM&Aを実際に経験した創業者二名が、リアルな実体験と成功の視点を共有した。
■ 投資家は選べ──大切な3つの視点
議論の冒頭で共有されたのは、投資家を単なる資金提供者としてみるなという点。ゴンサロ氏は「創業者は投資家に選ばれるだけでなく、投資家を選ぶ存在だ」と強調する。
「悪い投資家が企業を潰す原因になり得る」とルカ氏は警鐘を鳴らす。ルカ氏は、長期的な大きな成長のためには、短期的に収益を犠牲にする「実験」が必要であり、このビジョンを投資家と共有することが不可欠だと強調した。
その際に重要となる観点は大きく3つ:
- 市場に対する深い理解があるか
投資家が事業領域を理解していなければ、プロダクトの強みも弱みも見抜けない。適切な戦略議論が成立しない。 - 過去の成功事例と信頼できる実績
他の有望企業と連携した経験があるか。良質なボードメンバーを迎えるかどうかは企業の命運を左右する。 - 短期利益ではなく長期の視点を持てるか
スタートアップは「短期の赤字を許容して長期成長を狙うべき局面」が必ずある。そこに理解のない投資家は、事業を逆に壊してしまう。
実際、多くの創業者が悪い投資家を迎えたことを、事業のつまずきの原因として挙げている。十分な相互デューデリジェンスを行わずに急いで出資を受けると、その後のガバナンスや意思決定で大きな歪みが生まれるという。
ゴンサロ氏は、自身の経験から、投資家との意見の相違があったエピソードを共有した。投資家はポルトガル市場でのリーダーシップを優先させたが、ゴンサロ氏はより大きなチャンスを求めて米国市場への展開を主張した。
「スタートアップにおける最大のコストは機会費用であり、最大の資産はスピードだからです」
市場が小さすぎて迅速な拡大ができないことによる機会損失を避け、最終的に取締役会に挑戦して米国市場への進出を強行し、成功を収めた。この経験から、CEOや創業チームがビジネスの推進者として、時にはVCとの対立を恐れずに大きなビジョンを追求することの重要性が示唆された。
■ベストの選択肢としての米国進出
次に議論は、グローバルでの市場選択へと移った。
ヨーロッパで複数市場を経験したゴンサロ氏は、最初の海外展開についてこう語る。
「初期は、できることから始める。しかし市場ごとの実験を経て、自社の勝ち筋を見極めることで戦略になる」
例えば彼の事業では、ミッションクリティカルな製造業向けSaaSを提供していたため、リアルタイム対応が可能で、均質で、価格が取りやすい市場を求め、最終的に米国を選択したという。
ゴンサロ氏のスタートアップは中小企業向けの製造業用ソフトウェア(SaaS)を提供しており、以下の理由から米国への移転を決断した。
- 市場の規模と均質性: 米国市場は十分に大きく、単一の言語圏として均質で、強力なビジネス文化がある。
- 高い価格設定と迅速な採用: 米国では価格を12倍にし、リード獲得数も増加し、財務構造が劇的に改善した。
ヨーロッパでの展開を試みた際、市場が分断されすぎている(異なる言語、採用の課題)と感じたことも、米国を選択した大きな要因。
興味深いのは、米国上陸の直後に価格を12倍に上げた点だ。ヨーロッパよりも明確に価値が伝わり、結果としてリード獲得数も増え、財務構造が劇的に改善した。
また、国際展開におけるコスト効率の戦略として、「母国(ポルトガル)に高コストな業務(エンジニアリング、カスタマーサクセス)を残し、市場(米国)には営業とマーケティングのチームとCEO自身が移る」ハイブリッドモデルを採用したことが成功の鍵となった。
■パートナーシップ/M&Aで国際展開
ルカ氏は、不動産管理・コリビング市場という業界特性から「都市単位での市場選択」が重要だったと強調。
「国単位で考えるとミスをする。市場は"都市"であり、"需給"である」
国境を超えても、供給を一気に広げられる地域、アンカーパートナーが存在する地域に集中することで、効率的な拡大が可能になった。
不動産関連のビジネス(Habyt)を営むルカ氏は、事業が「供給に制約される」性質上、市場参入のスピードが重要になると説明した。
- 買収 (M&A): 特定市場への参入を加速させるための手段として積極的に活用。
- 戦略的パートナーシップ: 日本や韓国のような市場では、現地の大きな企業をパートナーとし、バックエンド/一部フロントエンドをHabytが、現地でのオペレーションとフロントエンドをパートナーが担当するモデルを採用。
Habytはこれまで7件以上のM&Aを実施してきた。その経験から語られたのは、成功の裏側にある厳しい現実だ。
「買収したチームの80%は12〜18か月以内に離脱する」
これは業界を問わず起こりうる現象であり、統合(PMI)の難しさを象徴している。
しかし一方で、残る20%は 「その市場を最も深く理解している"宝のような人材"」
となり、事業の成長を強力に支えてくれる。
買収成功のポイントとして挙げられたのは次の3点だ。
- 市場参入のスピードを一気に高めるためにM&Aを使う
- 統合すべき領域とローカルに委ねる領域の明確化
- カルチャーが合うかよりも、事業が伸びる構造を優先する
ルカ氏は、成功と失敗を繰り返した結果、自社に最も適した統合モデルとして
「バックエンドは本社で統合し、フロントは現地パートナー」
というハイブリッド方式を確立したという。
■ CEOが現地で理解を進めてボトムアップで組織を作る
海外展開を成功させる上で最も重要なのは「現地に文化を理解した強いチームをつくれるか」だ。
ゴンサロ氏は、自身の給与は2.5万ドルだったが、米国移住後に年収40万ドルで営業責任者を雇ったと語る。しかし結局この人材は3か月で解雇された。初期のSaaS企業の営業VPの80〜90%は失敗するという よくある落とし穴 を体験したのだ。
そこから得た教訓は明確だ。「新市場ではトップダウン採用より、ボトムアップの現地チーム構築が成功する」
■ メンタリングは持ち帰る音楽
後半では、Endeavorでメンターを務める彼らが「よいメンタリングとは何か」を語った。
Endeavor Portugalのボードメンバーでもあるゴンサロ氏は、メンタリングを効果的にするための要素として、以下の2点を挙げた。
- 共通の共感と信念: メンターは、メンティーが成功すると心から信じることが重要です。
- ラディカル・カンドア(Radical Candor:徹底的な誠実さ): 物事がうまくいっていないときに「厳しい正直さ」を与えることが、ビジネスと人格の両方を強化します。メンターは優しい言葉をかける役割ではなく、真正面から向き合う存在である。
ルカ氏からは、メンターからアドバイスを受ける側の重要な姿勢が共有された。「決して他人の助言に盲目的に従わないでください。どんなに優れた方でも、あなたの立場に立ったことはありません。」
そしてルカ氏曰く、「アドバイスは音楽のように聴き、自分に響いたものだけ持ち帰ればいい。」
最終的な決断はあくまで起業家自分自身で行うべきだ。
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<本荘コメント>
この頃にわかに、日本のスタートアップの海外展開が叫ばれるようになったが、経験・知見がある人はわずか。海外の起業家から学ぶことは有効だ。Endeavorのような真にグローバルなコミュニティの価値も大きい。
<参考>
11月21日 Endeavor Japan Summit 2025 開催レポート