オルタナティブ・ブログ > 『ビジネス2.0』の視点 >

ICT、クラウドコンピューティングをビジネスそして日本の力に!

2030年を見据えたネットワークセキュリティ市場の構造転換

»

富士キメラ総研は2025年12月3日、国内ネットワークセキュリティ市場の現状と将来展望をまとめた『2025 ネットワークセキュリティビジネス調査総覧 市場編』を発表しました。

本調査は、政府が推進する能動的サイバー防御の構想や、各種法規制への対応が求められるなか、国内のネットワークセキュリティ市場がどのように変容しているかを明らかにしています。

クラウド活用の常態化とデータ流通量の爆発的な増加は、従来の境界防御モデルを陳腐化させつつあります。調査結果によれば、2030年度のセキュリティサービス市場は2024年度比で約6割増という大幅な伸長が予測されており、製品市場の成長率を大きく上回る見込みです。

今回は、市場データの分析を通じて、ゼロトラスト、サイバーレジリエンス、そして今後の展望について取り上げたいと思います。

「所有」から「利用」へ加速する市場の構造変化

2030年度の予測において、サービス市場は2024年度比58.9%増の7,715億円に達すると見込まれる一方、製品市場は同9.5%増の2,461億円にとどまります。企業のセキュリティ対策がハードウェアやソフトウェアの資産保有から、運用を含めたサービスの利用へと急速にシフトしているということが読み取れます。

背景には、サイバー攻撃の高度化と複雑化があります。企業が自社で製品を購入し運用するだけでは、日々進化する脅威に対応しきれない状況が生まれているのです。そのため、専門的な知見を持つベンダーによるコンサルティングや、設計から運用までを一貫して任せるMSS(Managed Security Service)への需要が急増しています。クラウド化の進展もこの傾向を後押ししており、企業は自社資産を持たずに、高度なセキュリティ環境をサービスとして享受する形態を選択し始めています。これは、コストの最適化のみならず、人材不足の解消という側面でも合理的な判断といえるでしょう。

スクリーンショット 2025-12-10 5.53.26.png

出典:富士キメラ総研 2025.12

ゼロトラストがもたらす境界防御の終焉とSASEの台頭

「信頼しない」ことを前提とするゼロトラストの概念は、企業インフラの実装標準となりつつあります。関連市場は2030年度には2024年度比166.6%の2,899億円に拡大すると予測されており、この分野が市場全体を牽引していることは明白です。なかでもSASE(Secure Access Service Edge)関連製品の伸びが顕著であり、これは企業のネットワーク環境が根本的に変化したことを意味します。

ハイブリッドワークの定着やクラウドサービスの利用拡大により、社内と社外を隔てる「境界」は消失。従来型のVPNやファイアウォールを中心とした境界防御では、分散するユーザーやデバイスを保護しきれません。SASEは、ネットワーク機能とセキュリティ機能をクラウド上で統合し、場所を問わず一貫したポリシーを適用することを可能にします。すでに導入済みの企業においても、運用体制の見直しや再選定の動きが活発化しており、ゼロトラスト環境の整備は、企業のデジタルトランスフォーメーションを支える必須のインフラとして定着しつつあります。

「予防」と「回復」を重視するサイバーハイジーンの浸透

防御壁を高くするだけでなく、侵入されることを前提とした対策への意識変革が進んでいます。日常的にIT環境の健全性を維持する「サイバーハイジーン(衛生管理)」や、攻撃を受けた際の被害を最小限に抑え、速やかに復旧する「サイバーレジリエンス」という考え方が重要視され始めました。調査でも、EDR(Endpoint Detection and Response)や端末管理ツールの需要が中堅・中小企業にまで波及していることが報告されています。

これは、セキュリティ対策の焦点が「入口対策」から「内部対策」および「事後対応」へと広がっていることを意味します。脆弱性の管理や設定ミスの修正といった地道な運用管理こそが、重大なインシデントを防ぐ鍵となるからです。高度なペネトレーションテスト(侵入テスト)の需要増も、自社の弱点を能動的に把握しようとする企業姿勢の表れといえます。攻撃を完全に防ぐことが困難な現代において、システムの状態を可視化し、常に健全な状態を保つ取り組みは、事業継続性を担保するうえで極めて重要です。

法規制対応とサプライチェーン防衛という社会的要請

セキュリティ対策は、一企業の自助努力の範疇を超え、サプライチェーン全体での責任という性格を強めています。内部不正対策としてのIDaaS(Identity as a Service)や特権ID管理ツールの需要増加は、性善説に立った運用からの脱却を示しています。くわえて、業種ごとのガイドライン改定や法規制の強化が、企業に対策の実施を迫っています。

大企業と比較して対策が遅れがちな中堅・中小企業が、サプライチェーン攻撃の標的となるケースが増加しています。取引先である大企業と同等のセキュリティレベルを求められる場面も増えており、ガイドラインへの準拠はビジネスを行うための「免許」のような意味合いを持ち始めました。政府や業界団体によるガイドラインの改定は、こうした状況に危機感を持ち、底上げを図ろうとする意図があります。企業は、コンプライアンス遵守の観点だけでなく、ビジネスパートナーとしての信頼性を確保するためにも、能動的な投資判断が求められています。

今後の展望

今回の調査結果は、セキュリティ産業が「機器販売」から「包括的な安心・安全の提供」へと産業構造を高度化させていることを示しています。2030年に向けて、生成AIの活用やOT(制御技術)領域への保護拡大など、技術的なフロンティアはさらに広がるでしょう。本質的な変化は技術そのものよりも、企業経営におけるセキュリティの位置づけの変化にあります。

セキュリティ費用を「削減可能なコスト」ではなく、「事業成長のための戦略的投資」と捉え直す必要があります。今後は、CISO(最高情報セキュリティ責任者)の権限強化や、経営戦略と一体化したセキュリティロードマップの策定が急務となります。外部の専門サービスを賢く活用しながら、自社のビジネスモデルに適したレジリエンスを構築することが重要となるでしょう。

スクリーンショット 2025-12-10 5.52.21.png

Google Geminiを活用して作成

Comment(0)