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ハイパースケーラー3強の勢力図と戦略

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英調査会社Omdiaは2025年12月22日、同年第3四半期における世界のクラウドインフラサービス支出に関する最新の調査結果を発表しました。同社のデータによると、世界全体の支出額は前年同期比25%増の1,026億ドル(約15兆円規模)に達し、5四半期連続で20%を超える成長率を維持しています。この数字は、世界経済の不透明感が漂うなかでも、企業のIT投資意欲が底堅いことを示しています。

Omdia: Global cloud infrastructure spending hits $102.6 billion, up 25% in Q3 2025

今回の発表で注目されるのは、市場拡大の質的な変化です。これまでの「生成AIの実験導入」というフェーズから、企業活動の中核にAIを組み込む「大規模な本番展開」へと移行が進んでいます。それに伴い、AWS、Microsoft Azure、Google Cloudといったハイパースケーラー(大規模クラウド事業者)の競争軸も変化してきました。単一のAIモデルの性能を競う段階から、複数のモデルを適材適所で使い分ける「マルチモデル」や、自律的にタスクを遂行する「AIエージェント」の実装環境をいかに提供するかという、プラットフォーム能力の戦いへとシフトしています。

今回は、Omdiaの調査データに基づき、クラウド市場の成長要因、ハイパースケーラー3社の戦略的な変化、そして、企業が直面するAI実装の課題と今後の展望について取り上げたいと思います。

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成長を持続させる「本番環境」への移行需要

クラウド市場が四半期ベースで1,000億ドルを超える規模に達した背景には、企業におけるAI活用の深化があります。Omdiaの分析によると、多くの企業において生成AIの利用が初期の試験運用や概念実証(PoC)の段階を脱し、実際の業務プロセスに組み込まれるフェーズへと移行しました。これに伴い、AIアプリケーションを安定稼働させるためのインフラ需要が急増しています。

この変化は、各社の受注残高(バックログ)の増加にも表れています。AWS、Microsoft、Google Cloudはいずれも受注残高を積み増しており、AWSに至っては第3四半期末時点で2,000億ドルに達しました。Google Cloudも前四半期の1,082億ドルから1,577億ドルへと大幅に増加させています。これらは将来的な収益の基盤となる数値であり、一時的なブームではなく、長期的な視点で企業がクラウドインフラへの投資を計画していることが読み取れます。市場の成長モメンタムは今後も安定して推移すると想定されます。

ハイパースケーラー3強の勢力図と戦略

市場シェアにおいては、AWS(32%)、Microsoft Azure(22%)、Google Cloud(11%)の上位3社で全体の66%を占める構図が続いています。これら3社の合計成長率は前年同期比29%に達し、市場全体の成長を牽引する存在です。ここで見逃せないのが、各社の成長率と戦略の微細な変化です。

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出典:Omdia 2025.12

AWSは前年同期比20%増と成長が再加速しており、2022年以来の好調な数値を記録しました。自社開発の「Nova」モデルファミリーの投入や、Anthropicとの提携による需要の取り込みが奏功しています。一方、Microsoft Azureは40%増という高い成長率を維持しており、OpenAIとの提携更新や「Azure AI Foundry」によるエコシステム拡大が寄与しています。Google Cloudも36%増と好調で、「Vertex AI」や「Gemini」の企業向け展開が数十億ドル規模の収益を生み出す柱へと成長しました。3社とも、単に計算リソースを貸し出すだけでなく、高付加価値なAIプラットフォームとしての地位を確立しようとしています。

「マルチモデル」が新たな標準へ

企業がAIを本番環境で利用する際、ひとつの巨大なモデルだけですべてを解決しようとするアプローチは見直されつつあります。コスト効率、応答速度、そしてリスク分散の観点から、用途に応じて最適なモデルを選択する「マルチモデル戦略」が主流になりつつあるのです。Omdiaのシニアディレクターであるレイチェル・ブリンリー氏が指摘するように、マルチモデルのサポートはもはや付加機能ではなく、本番環境における必須要件として位置づけられています。

これに応える形で、ハイパースケーラー各社は自社モデルだけでなく、競合他社やオープンソースのモデルも積極的に取り込んでいます。AWSのAmazon Bedrock、MicrosoftのAzure AI Foundry、GoogleのVertex AI Model Gardenといったマネージドサービスは、いずれも多様なモデルへのアクセスを容易にし、企業がベンダーロックインを回避しながらAIを活用できる環境を整備しています。MicrosoftがAnthropicのClaudeシリーズをサポートし、GoogleがDeepSeekなどをラインナップに加えたことは、プラットフォームとしての魅力を高めることが最優先事項であることの表れです。

AIエージェントの実装を支える標準化

今後のAI活用において焦点となるのが「AIエージェント」です。これは指示を待つだけでなく、自律的に判断し、複数のシステムを操作してタスクを完了させる仕組みを指します。しかし、実社会でのエージェント展開は、初期の実験よりもはるかに複雑であることが明らかになってきました。企業のコンプライアンス基準を満たしつつ、顧客体験を損なわない安定した動作を保証することは容易ではありません。

そこで、ハイパースケーラーはエージェント構築のための「標準化された構成要素」の提供に注力し始めています。AWSの「AgentCore」やMicrosoftの「Agent Framework」といった新しいサービスは、企業がゼロからシステムを構築する手間を省き、本番環境に耐えうるエージェントを効率的に開発するための基盤となります。KPMGなどの先進企業では、すでにこうしたフレームワークを活用して監査プロセスの高度化に着手しており、こうした動きがクラウド需要をさらに押し上げると考えられます。

今後の展望

今回のOmdiaのデータは、クラウドおよびAI市場が「期待」で動く段階から「実需」で動く段階へ完全に移行したことを示しています。今後、企業にとっては、どのAIモデルを選ぶかという点以上に、どのプラットフォーム上でマルチモデルやエージェントをオーケストレーション(統合管理)するかという判断が極めて重要となります。

また、データ主権や低遅延への要求から、地域ごとのインフラ整備も加速すると考えられます。AWSのニュージーランド・リージョン開設や、Microsoftのマレーシア・インドでの拡張計画に見られるように、グローバル展開とローカル対応の両立が求められています。

企業は単発のAI導入ではなく、複数のAIエージェントが連携して業務を遂行する未来を見据えたアーキテクチャの刷新が必要となります。ガバナンスを効かせながらも、進化する技術を即座に取り入れられる柔軟な基盤を構築することが求められています。

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