社内の選抜チーム5名を2年間「NVIDIA大学」に留学させる必要がある:Jetson Thorを使って自社のフィジカルAIを作るには
昨日の日経でNVIDIAの方が「日本はもうロボット大国ではない」とおっしゃったそうですが、それは以下の現実を念頭に置いているはずです。
日経:NVIDIA幹部「日本、もうロボット大国ではない」 AIで一変
昨日やらせていただいたフィジカルAIに関するセミナーでは、自社の製品や技術にJetson Thorを組み合わせて自社独自のユースケースを具現化したフィジカルAI製品を作るには、以下のようなチーム編成が必要だということをお話ししました。
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ロボット制御者(モーターやアクチュエータの制御)
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AIエンジニア(LLMやVLAモデルの実装)
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センサーエンジニア(カメラ・LiDARなどのセンサーフュージョン)
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クラウド・データ担当(IoTとデータ連携)
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PM(物理とAIの橋渡しができる翻訳者)
しかもこれらのエンジニアは全員とも、Omniverse以下のNVIDIA技術スタックに精通している必要があります。
以下はGoogle検索用の文字列として置きます。
[Omniverse]
└ 日本の製造ライン / 倉庫 / 店舗 / 建機 の
デジタルツインを構築(OpenUSD)
└ [Isaac Sim]
├ 既存機械の3Dモデル化(URDF/USD)
├ シミュレーション(動作検証・安全性確認)
├ 合成データ生成(視覚・操作データ)
├ Newton Physics(高精度物理)
└ Cosmos(視覚・世界理解)
├ 物体認識・シーン理解
└ 自己位置推定・空間理解
└ [GR00T / Isaac マルチモーダルモデル群]
├ 自然言語理解(作業指示・対話)
├ 視覚+言語+動作の統合計画(VLA)
├ 動作計画(行動シーケンス生成)
└ 行動生成(アーム・脚・車輪の動作生成)
↓
[Jetson Thor(ロボット本体・機械側の脳)]
├ GR00T推論(指示→行動に変換)
├ Cosmos推論(視覚・世界理解のオンデバイス化)
├ モーター制御(サーボ、アクチュエータ)
├ センサー融合(カメラ、LiDAR、IMU、力覚)
└ リアルタイム制御(1〜5ms周期)
日本では残念ながら英語の壁があることもあって、NVIDIAの技術スタックに習熟しているエンジニアがほとんどいません。例外的に、独立系の方が2人、いますが、お名前を出すと依頼が殺到する可能性があるので出しませんし、企業が本格的なフィジカルAI開発プロジェクトを依頼できるキャパシティがあるかどうか不明です。残念ながら。(スタートアップで一社、めちゃめちゃパワフルなNVIDIAスタック力量を持っている所が存在していますが、この会社も鋭意、自社ロボット製品の開発に邁進しているのでお名前は出しません。)
つまり、日本企業がJetson Thorを使って自社の製品等に組み合わせてフィジカルAIを具現化するには、NVIDIA技術スタックを全く勉強していない上記の5名で始める必要があるのです。
これを私は「NVIDIA大学に2年間留学する必要がある」と呼ぶことにしました。日本企業がJetson Thorを使ったフィジカルAIを具体化するためには、社内の精鋭5名の日常職務を解き、2年間、みっちり勉強に注ぐ勉強をさせる必要があります。
米国では、ドイツなどでは、イスラエルでは、NVIDIA技術スタックに通暁したエンジニアが無数にいて、自社のロボットを作ったり、外部向けにロボット開発コンサルティングを提供しています。しかし日本では、皆無です(日本でもロボット開発コンサルティングの看板を掲げている所が数社あります。しかしNVIDIA開発スタックについては無縁のようです。残念ながら)
英語の壁が厳然としてあって、日本ではNVIDIAの技術理解がゼロに近いのです。なので、2年間、「NVIDIA大学に留学する」必要があります。
(おそらく日立製作所は例外です。)
日本企業がJetson Thorを使ってフィジカルAIを実現するには「NVIDIA大学に2年留学」が正攻法
NVIDIAのJetson Thorがついに登場したことで、「自律マシンを自社でつくれるかもしれない」という期待が日本の製造業にも高まりつつあります。トラクター、建設機械、物流ロボット、検査装置、介護支援ロボットなど、既存の機械がまるごとフィジカルAIに生まれ変わる可能性があります。
では、誰がこの開発を実装できるのか?
答えは非常にシンプルです。
NVIDIAスタックを理解し、自分の手でPoCを回せる人材が必要です。
「できる人」を探すのではなく、「できるチーム」を養成する
Jetson Thorは単なるAIモジュールではなく、「Perceive, Reason, Plan, Act」という4つの処理系を1チップで動かすことができる"頭脳"です。従来のPLC制御やマイコンとはまったく異なるアーキテクチャです。
それを社内で実装するには、PoC(概念実証)に特化した5人チームを組むのが現実的です。
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ロボット制御者(モーターやアクチュエータの制御)
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AIエンジニア(LLMやVLAモデルの実装)
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センサーエンジニア(カメラ・LiDARなどのセンサーフュージョン)
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クラウド・データ担当(IoTとデータ連携)
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PM(物理とAIの橋渡しができる翻訳者)
この5人で1セット。大企業なら"部署横断"で社内から集めれば編成可能です。
習熟すべきNVIDIAスタック一覧(基礎編)
Jetson Thorは「単体」で動くのではなく、NVIDIAスタック全体と密接に連携しています。以下のツール群は"少なくとも概要を理解していて、触ったことがある"必要があります。
| 領域 | ツール・ライブラリ名 | 説明 |
|---|---|---|
| シミュレーション | Omniverse / Isaac Sim | 仮想空間でロボットをSim2Real実験できる |
| 推論モデル実行 | TensorRT / DeepStream | NVIDIA独自の高速推論エンジン |
| ロボット制御 | Isaac ROS | ROSベースでJetsonと連携可能な制御パッケージ群 |
| LLM実装 | NIM / TensorRT-LLM | オープンLLMをJetsonに最適化して組み込むための基盤 |
| センサーフュージョン | Multi-Camera Pipeline / CUDA Streams | カメラやLiDARを複数同時に扱う処理基盤 |
| 映像解析 | Jetson Multimedia API | 4K動画、深度センサなどとの連携API |
「NVIDIA大学に2年留学」という考え方
結論として、今からJetson Thorを使って自社マシンにフィジカルAIを組み込むなら、"留学"が必要です。
ここで言う"留学"とは、物理的にどこかへ行くという意味ではありません。
**「NVIDIAスタックと英文ドキュメントにどっぷり浸かって、手を動かしながら2年間学び続ける」**ということです。
NVIDIA大学への"留学生活"とは?
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日常の業務から一時的に外れ、NVIDIAの技術資料・GitHub・YouTubeを読み込む
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OmniverseやIsaac Sim上で、仮想空間にロボットを置いて動かす
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TensorRTやLLMモデルを自力でビルドし、Jetson上で動かす
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時折、実機に触れてSim2RealのPoCを試す
この学習スタイルが1年半〜2年程度続けられれば、社内に「NVIDIA認定に近いレベルの実務者」が誕生します。実は、こうした人材は、国内にはまだごくわずかです。これから大きな需要が生まれます。
まとめ:「今すぐ人材を探す」のではなく、「NVIDIA大学に人を送り込む」
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Jetson Thorの登場により、日本の製造業も"自律マシンの開発元"になれるチャンスが来た
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だが、実装にはNVIDIAスタックに深く習熟した人材が不可欠
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最短ルートは「NVIDIA大学に2年留学する」覚悟で人材を育てること
未来のフィジカルAIは、「誰が人を出して留学させるか」で勝負が決まるかもしれません。
今泉追記:
もう1つ、別な具現化方策があります。それについては後日記します。
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