技術解説:ファナックが遂にNVIDIA Jetsonを搭載した「人が話して指示する」フィジカルAI協働ロボットを公開!
【2025/12/10 今泉追記】
NVIDIA x フィジカルAI x ファナック/安川電機/デンソー/オムロン/コマツ/クボタなどの各社の展開状況がわかる記事を公開しました。全体状況はこちらの方がわかりやすいです。
NVIDIAのフィジカルAI 50兆ドル市場。ファナック、安川電機、デンソーなど日本の製造業が食い込むシナリオの現在進行形
本ブログの以下のカテゴリーでは、NVIDIAが8月に発売したJetson ThorというAIエッジコンピュータを、現存する企業の現存する製品と組み合わせると、どのようなフィジカルAIが実現するのか?、それを記述することを一種の思考実験として続けて来ています。
例えば、豊田自動織機のフォークリフトがどのようなフィジカルAIになるか?
ヤマハ発動機の産業ドローンがどのようなフィジカルAIになるか?
残念ながら引退しまったソフトバンクのPepperですが、これを少し改造してJetson Thorを搭載するとどのようなフィジカルAIに生まれ変わるか?
こうした思考実験を行っているのは、フィジカルAIの本格的な製品がまだ出てきていないため、ある意味雲をつかむような所があり、多くのビジネスパーソンの方々にはわかりにくいからです。そこで、今ある製品と、今手に入る最もフィジカルAIに辿り着きやすいAIエッジコンピュータJetson Thorを組み合わせれば、こんな風に展開するよ...ということで書いております。
ファナックが遂にNVIDIAをベースにしたフィジカルAI協働ロボットを出展した!
さて。日刊工業新聞主催の2025国際ロボット展で展示されているロボットが話題になっています。私は名古屋近郊に在住しているためメディアやX経由で展示内容が見られるのはありがたいです。
最も注目したのはやはりファナックのNVIDIA Jetson Thorを搭載した、人間が話して指示する協働ロボットです。(今泉注:協働ロボット/コボットとは、従来の産業ロボットのように稼働エリアに人間が入らないように設計されている=稼働エリアに人間が入ると事故が起こる、ものとは異なり、人間が働く環境で一緒に作業ができるように、安全性等に配慮された、人間の労働作業を手伝うように設計されたロボット。産業ロボットの数年前からある新ジャンル。)
【METI Journal ONLINE】AIが変えるロボットの世界 ヒューマノイドが存在感「国際ロボット展」過去最多出展(0:42あたりからファナックの場面)
これは同社の最新の協働ロボットCRXシリーズを母体としてJetson Thorを組み合わせたもののようです。
このようにNVIDIA Jetson Thorを現行機種に搭載したフィジカルAIこそが、私が以下の投稿カテゴリーで「思考実験」として行って来たものです。
「NVIDIA-Jetson活用大全集」カテゴリーの投稿
ファナックはさすがに産業ロボット世界シェア首位の企業だけあって、このブログで思考実験として行っていたものを、社内のエンジニア+おそらくはNVIDIAの技術支援を得て、実機として具現化しました。賞賛に値します。
具現化には以下の投稿で記したように、IsaacSimなどのNVIDIA技術スタックに精通したエンジニアが数名必要です。NVIDIAに土地勘がない企業ではエンジニアがNVIDIA語が話せるようになるまで2年かかります。
社内の選抜チーム5名を2年間「NVIDIA大学」に留学させる必要がある:Jetson Thorを使って自社のフィジカルAIを作るには
昨日やらせていただいたフィジカルAIに関するセミナーでは、自社の製品や技術にJetson Thorを組み合わせて自社独自のユースケースを具現化したフィジカルAI製品を作るには、以下のようなチーム編成が必要だということをお話ししました。
ロボット制御者(モーターやアクチュエータの制御)
AIエンジニア(LLMやVLAモデルの実装)
センサーエンジニア(カメラ・LiDARなどのセンサーフュージョン)
クラウド・データ担当(IoTとデータ連携)
PM(物理とAIの橋渡しができる翻訳者)
しかもこれらのエンジニアは全員とも、Omniverse以下のNVIDIA技術スタックに精通している必要があります。
(以下本体投稿を参照)
代替的な道としては、海外でNVIDIA技術スタックを使ったロボット/フィジカルAI具現化の手伝いをするロボット開発会社を雇う...のではなく、買収する手があります。なぜ買収したほうがいいのか?理由は後日投稿します。
以下では、ファナックがNVIDIAのJetson Thorを組み合わせてフィジカルAIを実現したことに関する技術的な側面を記します。ChatGPT 5.1にDeep Researchを組み合わせて調査した内容です。
ファナックとNVIDIAの「フィジカルAI」協業で使われているNVIDIA技術スタックの主要要素
以下は、2025年の国際ロボット展(iREX)前後に発表された、ファナックとNVIDIAによる「フィジカルAI」対応ロボティクススタックの主な構成要素と、それを裏付ける一次情報。
1. ファナックROBOGUIDEとNVIDIA Isaac Simの統合による、現実のサイクルタイム・軌道の忠実な再現
ファナックのロボットシミュレーションソフトウェア「ROBOGUIDE」は、NVIDIAのOmniverse上に構築された「Isaac Sim」と統合され、実機と同じアルゴリズムでロボット動作を仮想空間で忠実に再現できるようになりました 。これにより、現場と同等の軌跡・サイクルタイムで動作検証が可能となり、開発の精度と効率が大きく向上します 。
ファナック公式:生産現場の自動化・ロボット化を支援するソフトウェア、ROBOGUIDE
弊ブログ:従来のロボティクスとNVIDIA Omniverse上で開発するロボティクス2.0とは何がどう違うのか?
2. Omniverse Isaac Simを用いた、フォトリアルな仮想工場によるデジタルツイン
この協業では、NVIDIAの「Omniverse Isaac Sim」を用い、ファナックのロボット(3kg可搬の協働ロボットから2.3トンの大型ロボットまで)を「SimReadyアセット」として仮想空間に配置できるようになりました 。開発者は、Omniverse上に構築された仮想工場で、リアルな環境での学習データ生成、シミュレーション、稼働テストを効率的に実行できます。iREX2025の会場では、この仮想工場内で動作するファナックロボットの様子が実演されました 。
ファナック公式:NVIDIAとの協業によるフィジカルAIとデジタルツインの推進(リンク先資料の下半分)
3. 組み込み型AI推論用コンピュータ「Jetson」によるロボットの自律性強化
ファナックのフィジカルAIロボットには、NVIDIAの組み込みAIコンピュータ「Jetson」シリーズが搭載されており、エッジ側でリアルタイム推論を行っています 。公式情報でも、「JetsonによるオンボードAI処理」と「NVIDIAのAIインフラ」が組み合わされていると明記されています 。これにより、センシング・画像認識・経路判断などのAI処理を現場で即座に実行できるため、適応性の高い知能動作が可能になります。
ファナック公式:NVIDIAとの協業によるフィジカルAIとデジタルツインの推進(リンク先資料の中間)
4. エッジAI用のオープンソーススタック(DeepStream, ROS 2, Isaac SDK等)との接続性
この協業では、ロボットソフトウェアのオープンプラットフォーム化も大きなポイントです。ファナックは自社ロボット向けのROS 2対応ドライバをオープンソースで公開し、ros2_controlフレームワークとの親和性を確保しました 。また、Pythonでの制御スクリプト対応も進み、AI・クラウド連携が簡易化されています。
NVIDIA側では、Jetson上で「Isaac SDK」や「DeepStream」を活用することが可能であり、ROS 2やGStreamerなどオープンスタンダードとの連携が実現されています。公式発表でも、「Jetson+クラウド・エッジのAIインフラ+Isaac Simによる仮想環境」という構成が明言されています 。つまり、視覚AIやセンサーフュージョンなどの高度な推論処理をロボット側で実行しつつ、クラウドと柔軟に連携できる環境が整っています。
ファナック公式:オープンプラットフォーム対応でフィジカルAI実装を加速
5. LLM(大規模言語モデル)と音声理解による自然言語インタフェースの実装
ファナックは、フィジカルAIのキー技術としてLLM(大規模言語モデル)や音声認識による指示理解の重要性を強調しています 。iREX2025の会場では、実際に「人の声で色を指定し、それに従ってサイコロを移動させる」協働ロボットが展示されました 。このことから、LLMをベースとした自然言語処理(NLP)と音声インタフェースが、実装段階にあることが伺えます。ファナックの担当者も「AIにより指示が容易になり、中小企業を含む多くの企業にとって導入障壁が下がる」と述べています 。
ファナックがNVIDIAのOmniverseデジタルツイン上で開発できる、当ブログで言う「ロボティクス2.0」の中心に参入してきたことは、なかなか感慨深い出来事だと思います。
おそらく、日本の製造業における、NVIDIA技術スタックを使ったロボット開発をリードする存在になると思います。
NVIDIA技術スタックについてまだ土地勘のない企業は上で述べたように、エンジニア5名の精鋭チームを「NVIDIA大学」に留学させて、2年間、勉強に注ぐ勉強をする必要があります。アメリカ、ドイツ、イスラエルなどのNVIDIAスタックで開発している連中は、それだけ進んでいます。残念ながら英語の壁があるため、日本ではそのような現状です。
しかし、この2年間の投資は、社内でNVIDIA語を話せる技術人材の起点となり、フィジカルAIが花開いていく向こう半世紀の礎になります。この2年を投下することで、自社のものとして、フィジカルAIが高速に開発できるようになります。(非NVIDIAスタックでロボット/フィジカルAIを開発することは、技術的に劣後する結果を生み、NVIDIAスタックを使うプレイヤー群にすぐに追い越されます。実例が出始めています。日本でも差が出始めています。)その価値は十分にあると思います。
海外のロボット開発コンサルティング企業を買収することにももちろん意味があり、そこから技術を吸収することは時間節約という意味がありますが、やはり日本人のNVIDIA語が話せるエンジニアを社内で養成すべきです。
ファナックはそれをすでに行っていたということで、尊敬に値します。
【NVIDIA + フィジカルAI セミナーオンデマンドの告知】
先日、以下のセミナーをやらせていただきました。NVIDIAのAIエッジコンピュータであるJetson Thorを使ってフィジカルAIを具体化するにはどうすればいいか?必須となる知識を共有させていただいています。
SSK主催 【生成AIの次に来る波】
NVIDIAが示したフィジカルAIの衝撃
〜日本製造業が掴むべき市場機会と事業化の道筋〜
それを録画したオンデマンド配信セミナーが販売開始となりました。充実した50ページの資料付きです。1時間48分。
SSK セミナーオンデマンド:
【生成AIの次に来る波】
NVIDIAが示したフィジカルAIの衝撃
〜日本製造業が掴むべき市場機会と事業化の道筋〜
A4 50ページの充実した配布資料の目次(これに数ページの結論部分が別途付きます)
1.「フィジカルAI」とは何か?CES2025で語られたジェンセン・フアンの定義
2. Jetson Thorが拓くフィジカルAIの時代──オンボード推論とリアルタイム制御
3. 日本の製造業にとってのフィジカルAI──部品メーカーが主役になる理由
4. ユースケースで見るフィジカルAI:農業・建設・物流・検査
5. 学習が変わる:模倣学習から「現場適応」へ──フィジカルAIの新しい訓練方法
参考資料:
付録1:Jetson Thor が利用できるオープンソース LLM と実装の概略
付録2:VLA(Vision-Language-Action)とは何か?
[弊社でご対応可能な業務]
これ1本でJetson ThorによるフィジカルAIのユースケースや技術的に必要になる事柄が理解できます。
ご活用下さい。