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20年以上断続的にこのブログを書き継いできたインフラコモンズ代表の今泉大輔です。NVIDIAのフィジカルAIの世界が日本の上場企業多数に時価総額増大の事業機会を1つだけではなく複数与えることを確信してこの名前にしました。ネタは無限にあります。何卒よろしくお願い申し上げます。

【AI地政学分析】イスラエル・イラン交戦が自社に与える影響を自社の調査部門がAIに分析させる5つの方法

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サントリーが「インテリジェンス」に関する専門チームを発足させたという報道をTVで見ました。海外の地政学的な状況が自社のビジネスに与える影響を分析するチームです。

米国の大手企業ではMarket Intelligenceというチームが社内にあって(私が仕事をしたシスコシステムズにもありました)、自社のための調査業務を行なっています。そもそも戦争を前提とした敵国に関する情報収集を行うのがIntellgenceです。米国のCIA(Central Intelligence Agency)のIntelligence。知性という意味のIntellgenceではありません。

これだけ地政学的な出来事が日常茶飯事的に起こってくると、社内に国際情勢を分析するチームがいないと、経済新聞だけでは全く不足です。

しかし現在はAIがあります。AIを駆使すると、社内でも2人程度でMarket Intelligenceのチームが組成できます。経営企画部門に置いても良いでしょう。そういうMarket IntelligenceのチームがAIを駆使して実際に何ができるかを以下で見ていきます。

AIを駆使した5つのIntelligence活動の基本

現在のようなイスラエルとイランが交戦状態にある状況で、AIを活用した状況把握をするには、いくつかのやり方があります。

  1. 日本の報道メディアが伝えていないイスラエル側の政府見解等をユダヤ語メディアから抽出する。同じくイラン側の政府見解等をペルシャ語メディアから抽出する。(現地語メディアからの情報収集)
  2. 日本で放映されていないイスラム圏側ニュース=アルジャジーラのYouTube動画ニュースから要約を得る。全文文字起こしの日本語翻訳を得る。(最近分厚くなってきたYouTube動画からの情報収集)
  3. ChatGPTないしGeminiのDeep Researchを活用して、自分の関心領域の各国経済記事を探索させ、自分が指示したやり方で分析を得る。(原油、ガス、物流等の国際的な動向の深堀り調査)
  4. 米国株式市場の反応をChatGPTないしGemimniのDeep Researchに分析させる。(マーケットの反応を鳥瞰的に知る)
  5. 自分の会社が属している産業分野においてイスラエル・イラン交戦の影響をChatGPTないしGeminiのDeep Researchに分析させる。(シナリオ分析)

GeminiにYouTube時事動画の要約をさせる

原理原則的には以上の6つのやり方を、自社なりにカスタマイズして、ChatGPTないしGeminiを動かすということになります。もちろん新聞雑誌記事のピックアップではPerplexityも使えますし、Grokもそれなりに有用ですが、包括的にネットに溢れている情報を取捨選択し、咀嚼し、分析させるという点では、ChatGPTないしGeminiのDeep Researchを使うのが賢明です。性能的にはGemini ProのDeep ResearchがChatGPTよりは上です。

以下ではGemniを使って、イスラム圏諸国の見解を伝える唯一と言っていい国際メディアであるアルジャジーラ(Aljazeera)がYouTubeに上げていた2025年6月15日夜10時頃(日本時間)の「イラン側視点で見るまとめ」動画の要約をGeminiにやらせたものです。


このアルジャジーラの動画が伝えている、イラン側の見方を要約しました。

イラン政府の見解:

  • 紛争拡大は望まない: イランはイスラエルとの紛争拡大を望んでおらず、イスラエルが攻撃を止めればイランもエスカレーションを止めると表明しています。[00:00]
  • 自衛のための行動: イランの攻撃は自衛のためであり、イスラエルの攻撃と違反行為への対応であると主張しています。[01:36]
  • 交渉への意欲とイスラエルの妨害: アメリカとの交渉(オマーンで6回目の協議が予定されていた)を進めていたが、イスラエルが合意や外交的解決を望んでいないため攻撃してきたと考えています。[01:41]
  • 報復の警告: イスラエルが攻撃を止めなければ、さらなる報復を行うと警告しています。[01:28]
  • アメリカへの関与警告: イランはアメリカに対し、この紛争に関与しないよう警告しています。関与すればアメリカも攻撃対象となる可能性があると示唆しています。[15:54]
  • 核交渉の余地なし: 現状では核交渉の余地はないと考えています。イスラエルがイランの核施設を攻撃し、アメリカがそれを支持している状況では交渉は不可能だと述べています。[18:11]
  • 力の均衡の再構築が必要: まず軍事行動によって力の均衡を再構築し、イスラエルが敗北を認めた後に初めて交渉の余地が生まれるとしています。[18:52]

イラン国内の状況と国民感情(テヘランの特派員より):

  • 前例のないエスカレーション: イランとイスラエルの間で前例のないレベルの緊張状態にあると認識されています。[03:09]
  • 民間インフラへの被害: 当初は軍事施設や核施設が標的とされていたが、実際には民間インフラや一般市民の建物も攻撃されており、懸念が広がっています。[05:12]
  • 市民の犠牲: 攻撃により、女性や子供を含む市民の犠牲者が出ており、国民はイスラエルがあらゆる標的を攻撃する可能性があると認識しています。[06:04]
  • メディアの論調: イラン国内の新聞では「戦争を終わらせ、イスラエルを終わらせる」といった強い論調が見られます。[04:36]

外交専門家の見解(テヘランのシンクタンク所長より):

  • 地域の国々への協力要請: イランは地域の国々に対し、外交努力を支援し、イスラエルの攻撃を非難するよう求めています。緊張激化は地域全体の利益に反すると考えています。[14:51]
  • イスラエルによるレッドライン越え: イスラエルは民間人や民間地域を標的にしており、すでに全てのレッドラインを越えたと認識しています。[16:45]

これらの情報から、イラン側はイスラエルの攻撃を強く非難し、自衛のための行動であると主張しつつも、紛争の拡大は望んでいないという姿勢を示していることがわかります。しかし、イスラエルが攻撃を続ける限り、イランも強硬な姿勢を崩さない構えであることがうかがえます。


これ1つ取っても、数年前には考えられないような素早い現地情報の取得ができます。

そういう時代になりましたので、AIを積極的に活用して、自社の調査部門の拡充をなさることをお勧めします。

ジャンル別:自社調査部門がAIを使ってインテリジェンス活動を行うモデルケース

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トランプ関税、中国のレアアース禁輸、国際サプライチェーンに影響を与える政変などなど、現在では、自社の事業の先行きを見通すために分析しなければならない出来事が多岐に渡ります。また変化の速度が増している印象があります。

そういう中で、世界各国の自社に影響を与える可能性がある情報をまず現地の経済メディアから抽出し、日本語に翻訳し、さらにそれを噛み砕いて経営者が読んで意味のある報告書に落とし込む情報処理が求められています。

現在ではChatGPTないしGeminiの高度なDeep Researchを駆使するとそれができます。しかし、一般社員がDeep Researchに何かをインプットすればすぐにそういう回答が出てくる訳ではなく...。プロフェッショナルとしてそれと同じ作業を"人力"で行なってきた経験者のノウハウが不可欠です。プロとしての経験があるからこそ、優れたAIの情報分析力を引き出すことができるのです。

社内でMarket Intelligenceチームを立ち上げる場合にも、同じノウハウが役立ちます。

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