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「入れ歯専門の歯医者」が実際の症例と治療、治療に対する考え方を紹介する記事を中心に書いていきます。

・部分入れ歯の金属バネ(クラスプ)が折れたので、歯科医師が新しく作製した症例

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杉並区、西荻窪で、入れ歯修理を数多く手がける
いとう歯科医院の伊藤高史です。

「下の入れ歯が全然使えなくなっちゃって」

入っていらしたのは70代女性のTさん。

「ほんの先っちょだけなんですけどねえ」

と言うので入れ歯を見ると確かに歯を左右両側から歯をはさんで入れ歯を維持する金属バネ(クラスプ)の左側だけが折れています。

長さとしては5ミリくらいです。

しかしその5ミリがないだけで入れ歯はもう口の中で踊ってしまいます。
このままでは使い物になりません。

そこで今回は口の中の型をとって石こう模型を作製。

石こう模型上で折れた部分だけ新たなクラスプを作ることにしました。

クラスプが修理できなかったら入れ歯そのものを新しくするしかないのですが、Tさんの場合それは大変困難な修羅の道になります。

なぜならアゴ骨が極端に薄く型をとるのも一苦労だからです。

だから5年以上に渡って修理してきました。

何回か修理をしているのでTさんのアゴの型をとるのも実は慣れています。

とはいえ型とり用の金属トレーが上手く入らないので、この模型ではとても新しい入れ歯など作れない。

模型の出来具合いとしては、そんなものです。

しかし修理するためには模型の余計な部分など削り飛ばしてしまいます。

歯と入れ歯が合っていて歯グキの部分は入れ歯が乗っかってさえいれば良い。

さらにはあまり気合いを入れて精密な型をとろうとすると残っている歯への影響が心配です。

歯が3本残っていて、そのうちの一本は比較的揺れがあります。

とはいえ、すぐに抜くほどでもない。

そのような厳しい状況で型をとるために父の時代から使い続けている型とりの材料を使います。

型をとって硬化しても柔らかさが残るアルジックスという材料です。

型とりの精度に難はあるものの柔らかいまま口の中から取り出せます。

型をとったら歯が抜けた、というトラブルを起こしにくい材料です。

修理するだけなら支障ない石こう模型上で、歯科医師が自分でワイヤーを屈曲してクラスプを作製してから歯科用プラスチックで入れ歯に固定します。

待合室で1時間ほど待っていただく間に修理できます。

クラスプを修理した入れ歯を装着したTさんは
「あっ、これなら入れ歯が動かないですね」

笑顔で答えてくださいました。

ゆるい入れ歯には保険治療で歯科専用の入れ歯安定剤ティッシュコンディショナーを貼ると安定します

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残っている歯があるうちは入れ歯修理だけでこれからも使えます。

「新しい入れ歯イコール最善の入れ歯」ではない。

入れ歯は修理が最適なことがあるとご理解いただけると助かります。

歯が一本でもあるうちは修理しながら今の入れ歯を使い続けます。

残っている3本の歯が全て抜けたら、口の中に残っている歯が一本もない、いわゆる総入れ歯になります。

新しく入れ歯を作るのは、そのタイミングです。

使い慣れた入れ歯があるので、咬み合わせを変えないように作れば新しい総入れ歯はすぐに慣れて使えるようになります。

とはいえTさんの場合はここまで5年以上も現在の状態を維持しています。

特別変わったことがなければ、まだ何年かは大丈夫だと思います。

Tさんの入れ歯のクラスプを新しく作った治療の費用は、保険治療2割負担で総額約2,000円でした(症状により金額は変わります)。

入れ歯のクラスプ修理の方法

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入れ歯の金属バネ(クラスプ)が折れた場合の修理方法について詳しく説明します。

ただし、入れ歯の修理は専門的な知識と技術が必要です。

基本的には歯科医師や歯科技工士に依頼するのが安全かつ確実です。

患者さんご自身で修理を試みる場合はリスクが伴うことを理解し、あくまで応急処置として考えるべきです。

通常なら歯科医師は型をとって石こう模型を作って入れ歯をお預かりします。

専門の歯科技工所に発注して修理を依頼します。

発注と納品プラス作製で1週間かかるので、その間は患者さんは入れ歯ナシで過ごすしかありません。

Tさんのケースでもそうなのですが使っているのは前歯も含む入れ歯です。

毎日食事もしますし人にも会います。

1週間も入れ歯ナシで過ごすのは非現実的な選択です。

ですから
「入れ歯修理は出来ません」
と断ってしまう歯科医院もあるようです。

その日のうちに入れ歯修理できる技量のない歯科医師では仕方ないところです。

当院は歯科医師が自分で金属ワイヤーを屈曲してクラスプを作ることができます。

だから今回のように型をとるのも難しい症例でも、必要最低限の模型さえ作れれば修理できます。

1. 状況の確認

入れ歯の金属バネが折れた場合、まずどのように折れたのかを確認します。

折れた金属バネを再びくっつけるのは不可能です。

患者さん自身での修理を考えるのではなく折れた部分を触ってください。

金属バネの折れた部分や壊れたプラスチックが尖っていませんか?

そのまま口の中に入れると口唇や舌を傷つけてしまいます。

対応については下に書きます。

また、入れ歯全体の状態
・他の部分の損傷はないか
・適合性が保たれているか
もチェックしましょう。

口の中で使用するものなので清潔に保つことも重要です。

2. 自分でできる応急処置

金属バネが折れた場合、すぐに歯科医院に行けない状況では以下のような応急処置を考えてください。

入れ歯の使用を一時中止する:
折れたバネが口内に引っかかったり舌や歯グキを傷つけたりする恐れがある場合は無理に装着せず外しておきます。

もしヤスリなどの研磨道具を持っていたら研磨して尖りをなくすことは有効です。

代替の固定方法を試す:
市販の入れ歯安定剤(クリームタイプやパウダータイプ)を使って一時的に入れ歯を安定させる方法があります。

ただし金属バネの役割を完全に補うことは難しいです。

破片の保管:
折れた金属片が残っている場合は、捨てずに保管してください。
歯科医師が修理の際に参考にできる場合があります。

3. 歯科医院での修理について

専門家による修理が推奨される理由は、金属バネの材質(主にコバルトクロム合金やステンレス鋼)が特殊で、適切な工具と技術が必要だからです。

硬さや太さなどクラスプ用に特化した物を用います。

100均などでも日曜大工用品の金属ワイヤーが売られています。

医療用ではないので、そのような物を使うことはできません。

また触ってみたところ柔らかすぎて口の中では簡単に変形してしまうだろうと思いました。

入れ歯修理の流れは以下の通りです。

診断:
歯科医師が入れ歯全体を診察し、バネだけでなく他の部分の劣化や適合性も確認します。

バネの交換または補修:
折れたバネを取り外して新しいバネを作成して取り付けるのが一般的です。

場合によっては溶接で補修可能ですが金属の種類や折れ方によっては困難です。

当院にも金属どうしをロウ着する機械はあります。

しかし保険治療で用いられる金銀パラジウム合金は熱伝導しやすいです。

ロウ着のために熱を加えると目的の部分以外に広く熱が伝わってしまって上手く修理できません。

たとえば高額な自費治療で用いられるコバルトクロム製の金属床入れ歯に直接クラスプをロウ着する目的で設備を購入したのですが実際には使ったことがありません。

金属床入れ歯にもプラスチックの部分があるのでプラスチックを削ったり盛ったりして対応した方が簡単で安全に修理できます。

調整:
新しいバネを入れ歯に取り付けた後、噛み合わせや装着感を調整します。

試作用:
修理後、患者さんが実際に装着して問題がないか確認し、必要に応じて微調整します。

4. 修理にかかる時間と費用

修理時間は状況によりますが、歯科技工所に依頼する場合は数日から1週間程度かかることが多いです。

急ぎの場合は、医院内で対応可能なケースもあり、その場合は1日で済むこともあります。

とくに当院は1日で修理することを得意としています。

費用は日本では保険適用の場合、数千円程度(約3,000~5,000円)が目安ですが、材質や医院によって異なります。

保険外だと1万円以上になる可能性もあります。

とはいえ自費治療で入れ歯修理したという話は自分は見聞きしたことがありません。

5. 自分で修理するリスク

ホームセンターで売られている金属用接着剤や工具を使って自分で修理しようとする人もいますが、これはおすすめできません。

理由は以下の通りです。

安全性:
口腔内で使用する接着剤は食品衛生基準を満たしていないと危険です。

耐久性:
素人作業では強度が不足し、すぐに再び壊れる可能性が高いです。

適合性の問題:
無理に修理すると入れ歯全体のバランスが崩れ、噛み合わせや歯茎に悪影響を及ぼす恐れがあります。

とはいえ歯科医院に来られないなど、状況によっては仕方ない場合もあります。

そのような入れ歯を修理した経験はたくさんあります。

とにかく入れ歯さえあれば、どうにかして修理できますので、あまり気になさらずご相談ください。

6. 予防策

今後同じ問題を防ぐために入れ歯の扱い方を見直しましょう。

硬いものを噛まない
取り外し時に無理な力を加えない
定期的に歯科医院で点検を受ける

ことが大切です。

また修理修理を繰り返していると金属バネが劣化して壊れるのを繰り返すことはあります。

あまり劣化しすぎる前に新しい入れ歯への交換を検討するのも一つの案です。

ただ一回二回の診察ではわかりません。

何回も診察、治療する中で判断していきましょう。

結論

金属バネが折れた場合は応急処置として入れ歯安定剤を使うか使用を控える程度にとどめ、できるだけ早く歯科医院を受診してください。

専門家による修理が最も確実で安全な方法です。

自分での修理は一時しのぎにもならず、かえって状況を悪化させる可能性があります。

本当にどうしようもない時以外は避けましょう。

入れ歯は毎日の生活に欠かせないものですから、適切なケアと専門家のサポートを活用して快適に使い続けることが重要です。

https://www.ireba-ito.com/→いとう歯科医院

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