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20年以上断続的にこのブログを書き継いできたインフラコモンズ代表の今泉大輔です。NVIDIAのフィジカルAIの世界が日本の上場企業多数に時価総額増大の事業機会を1つだけではなく複数与えることを確信してこの名前にしました。ネタは無限にあります。何卒よろしくお願い申し上げます。

日本でも研究用に数百万円で買える!ロボット工学的に見たUnitreeの設計思想と実装構造

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中国・杭州に拠点を置く Unitree Robotics(杭州宇树科技有限公司) は、急速に世界的な注目を集める次世代ロボット企業です。特に低価格かつ高性能な四足歩行ロボット/ヒューマノイドロボットを開発し、研究機関から産業用途まで幅広く展開。この記事では、エンジニアの視点からその設計技術を精緻に解析します。

1. 四足歩行ロボット(Go2シリーズ)

1.1 ハードウェア構成

項目

内容

主要センサー

4D LiDAR L1(360°×90° FOV)、IMU、ステレオカメラ

最大速度

約5 m/s(実測で4.7m/s超)

ジョイントピークトルク

約45 N・m

通信

Wi-Fi6 / Bluetooth / 4G

稼働時間

2~4時間(15,000mAhバッテリー)

特筆すべきは、脚先に駆動輪(7インチタイヤ)を搭載したGo2-Wモデル。歩行と車輪駆動のハイブリッドで段差70cm超をクリアする移動性能を実現。

1.2 制御系の実装

  • バランス制御:脚部の6軸IMUに加え、LiDARで前方地形をリアルタイム補正。
  • 歩容生成:動的歩行計画アルゴリズム(ZMP + 強化学習)
  • ソフトウェア:ROS2ベース(C++で書かれた低レイヤ制御)、Pythonで上位操作可能

2. ヒューマノイド:H1とG1の設計詳細

2.1 Unitree H1(研究開発モデル)

項目

内容

身長

約180cm

重量

約47kg

関節自由度

5DoF×2(脚)+4DoF×2(腕)+胴体回転

アクチュエータ

自社開発360Nm高トルクモーター

センサー

3D LiDAR(LIVOX-MID360)、Intel D435

制御技術

  • 脚部制御:動的歩行制御(MPC + RLベース)、特に傾斜地・不整地への対応力が強化。
  • Sim2Real転移:歩行制御はPyBullet / Isaac Gym (NVIDIA製、現在はIsaac LabIsaac Simとして機能強化されている)にて強化学習 → 実機へゼロショット転送。

2.2 Unitree G1(量産向けヒューマノイド)

項目

内容

身長

約127cm

重量

約35kg

関節自由度

23~43DoF(構成によって異なる)

移動速度

最大2.0 m/s

稼働時間

約2時間

ハンド構成

3指ハンド(力+位置制御ハイブリッド)

センサーパッケージ

LIVOX-MID360 + RealSense D435

構造設計上の特筆点

  • 全身アルミ合金シャーシにカーボン補強
  • バッテリー交換が3秒で可能なモジュール式電源設計
  • 二足歩行+片足ジャンプまで実装済み

3. AI・ソフトウェア基盤

3.1 UnifoLM:ロボット向け大規模統合モデル

  • 位置、力、視覚、音声を統合するマルチモーダル表現空間を構築
  • 特徴:身体感覚+知覚を連動させた"具身知能"に近づく設計

3.2 制御アーキテクチャ(推定)

  • OS:Linuxベースリアルタイムカーネル(Preempt-RT or Xenomai)
  • 通信バス:CAN-FD or EtherCATベースでジョイント同期
  • ロコモーション計画:Footstep Planning + Online Balance Controller
  • スタック:Isaac Gym(上を参照) / MuJoCo / RLlibで学習→ONNX変換→実機にデプロイ

4. 日本展開と活用可能性

まとめ:Unitreeが日本エンジニアにとって魅力的な理由

  • 量産モデルながら本格的な歩行制御/センサ設計が実装済み
  • オープンな制御系・再現性の高いプラットフォーム
  • 強化学習・模倣学習のトレンドに親和性のある設計

→「ヒューマノイドを一から自作する前に、まずUnitreeを徹底解析せよ」
これが今、現場設計者にとって最も早い近道かもしれません。

(完成体を購入して分解、解析する方法論については次の投稿を参照。ヒューマノイド量産に踏み出す第一歩『先進モデルのハンズオン分析』とは? )

参考文献

  1. Unitree公式サイト:https://www.unitree.com
  2. arXiv:H1動的歩行制御論文(https://arxiv.org/abs/2502.17219
  3. arXiv:G1模倣学習アーキテクチャ論文(https://arxiv.org/abs/2502.08378
  4. TechShare Japan(日本販売代理店):https://techshare.co.jp/product/unitree
  5. 製品マニュアル、販売価格、ROSパッケージ仕様書(TechShare資料より)
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