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株式会社インフラコモンズ代表取締役の今泉大輔が、現在進行形で取り組んでいるコンシューマ向けITサービス、バイオマス燃料取引の他、これまで関わってきたデータ経営、海外起業、イノベーション、再エネなどの話題について書いて行きます。

モルガンスタンレーのインフラ投資に関する報告書を読む

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[2010年11月30日時点における追記] 末尾の記述にはやや考えが浅い部分があり、誤解を招く可能性があるので、削除いたしました。インフラ投資の基本部分は以下の投稿でもお読みいただけます。

インフラ投資基礎資料「アセット・クラスとして拡大するインフラストラクチャーへの投資を」読む
Global Infrastructure Partnersからインフラ投資の基本を学ぶ
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Morgan Stanleyが2009年2月に出した”The Infrastructure Opportunity: Repair, Build and Stimulate”という報告書。少し前にざっと目を通して、広義のスマートシティ関連の投資機会を取り扱ったものだとばかり思っていたのですが、今回落ち着いて読んでみると、道路、鉄道、港湾、空港なども含む文字通りのインフラ投資について、投資家の目線で、概況と投資判断のポイントを説明した報告書であることがわかりました。スマートシティにも少しだけ関係しますので、読んで気づいたことをメモしていきます。
刊行は2009年2月ですが、インフラ投資は10年20年単位のものなので、あまり古いという感じはしません。ただ、書いている人(Morgan Stanley Investment Management, Managing Director, Mike Nolan; Managing Director, Justin Simpson)はリーマンショック後の信用収縮をかなり意識していて、「こういう苦境においても、このように有望な投資機会はあるよ」というメッセージが感じられます。現在は信用収縮が一段落しているので、世界経済のアップダウンにあまり影響されない投資機会の解説レポートと捉えるのがよいでしょう。

● 世界は年間1兆ドルのインフラ投資を倍増しなければならない
一般的に、先進国におけるインフラ投資は既存の道路、橋、上下水道、港湾、空港などの修繕、再構築が主なもの。社会インフラができあがって数十年、あるいは100年以上経っているところが少なくありませんから、急を要する投資も少なくありません。例えば、ロンドンでは、おそらくはできあがってから100年以上経っているであろう上水道の漏水がひどく、末端の需要家に送り届けることのできる水の総量が不足して、2006年には100年に一度という水不足に見舞われたそうです。米国では28%の橋梁が必要な修繕がなされずに不十分な状況にあると伝えられています。
一方、発展途上国におけるインフラ投資は、道路、鉄道、港湾、空港、電力網などを新築するためのものです。世界経済の中で国としての競争力を高めていくためには、産業の発展に欠かせないインフラ整備は喫緊の課題。それとともに、多くの発展途上国では住民の都市化が速いペースで進展しています。同報告書によれば、1990年時点の都市人口は23億人。これが2015年には38億人に増えると予想されています。この38億人のうち約75%は新興国の都市人口だそうです。すると、新興国の都市における居住環境、都市交通、上下水道、エネルギーシステム、廃棄物収集システム、衛生環境の確保などに対する投資もまた急を要する課題ということになります。
同報告書によれば、現在の世界のインフラ投資総額は年間で世界GDPの2%、約1兆ドル。一方、同報告書の推計によれば、2030年までに必要とされるインフラ投資総額は41兆ドル。年間1兆ドルのペースで2030年まで投資を続けていっても20兆ドル超にしかならないわけですから、現在の投資規模を2倍に増やさなければならないということになります。同報告書はここに大きな好機を見ています。

●水関連の投資需要がもっとも大きく、エネルギー関連がそれに次ぐ
インフラ投資分野を、水関連、電力、道路・鉄道関連、空港・港湾の4つに大別すると、2030年までの投資需要のうち、もっとも大きいのが水関連です。すなわち、上水道の上流に位置するダム、取水設備、浄水場、上水道網、さらには下水道網、下水の浄化設備、生活排水を浄化して使用する中水(トイレ等に使用)のための設備。また、水資源が圧倒的に不足している地域においては、中国の南水北調のような大規模な取水工事、海水の淡水化プロジェクトなども入ってきます。
4分野の2030年までの投資総額は以下のようになります。
 水関連 — 22兆6,100億ドル
 電力 — 9兆ドル
 道路・鉄道 — 7兆8,000億ドル
 空港・港湾 — 1兆5,900億ドル
水関連はエネルギーの2倍以上ということになります。日本から近いアジア・オセアニア地域は以下のようになっています。
 水関連 — 9兆400億ドル
 電力 — 4兆2,300億ドル
 道路・鉄道 — 2兆1,100億ドル
 空港・港湾 — 5,100億ドル
ここで見ても水関連は電力の2倍以上。慢性的な水不足に悩む中国が入っているだけに、水関連が膨れあがっているということはあるでしょう。しかし、アジア・オセアニア地域が水関連で必要とする投資額が、世界全体の電力で必要とする投資額とほぼ同等ということは非常に印象的です。
なお、ここで言う電力関連の投資とは、いわゆるスマートグリッド関連投資に留まらず、原子力、水力、火力、再生可能エネルギー等の発電所の新設、送配電網の整備などの上流部分の投資を含みます。一般的に言って、スマートグリッド関連の投資は電力事業における設備投資の10%以下に留まります。

● 米国のインフラ投資
同報告書では個別の国や地域についても若干のスペースを割り当てています。米国ではGDPの2.4%、年間4,000億ドルがインフラ投資に費やされています。ただし絶対額は不足しており、空港関連の投資がなされていないがために、飛行機の遅れ等で年間150億ドル相当の生産性効果が失われています。また、道路渋滞により、780億ドル相当の時間損失および燃料超過が発生しているとのこと。老朽化した社会インフラに必要とされる修繕等を加えるためには、向こう5年間にわたり年間1兆6,000億ドルのインフラ投資が必要だとしています。現在の4倍にする必要があるわけですね。

● 欧州のインフラ投資
欧州でも老朽化した社会インフラに対する修繕等は必要なわけですが、EUは、将来の経済成長に貢献するインフラ投資として、輸送関連の投資を重視しています。具体的には、港湾、空港、主要都市をネットワーク化する鉄道網の整備です。これに9,000億ドルの予算が割り当てられているそうです。高速鉄道の新設、衛生による鉄道貨物のトラッキングシステムなども計画されているとのこと。また、港湾、空港の新設、道路網、水路網の整備も進められつつあります。
その他では、環境関連の法整備が進んでいるドイツ、デンマーク、スペイン、オランダにおいては、電力関連の投資、すなわち、低炭素化を実現するための電力関連投資が活発だそうです。

● 中国のインフラ投資
この報告書で伝えられる中国のインフラ投資は、日経新聞などから知るものとややトーンが違っているように思います。いくつか拾います。
・2006年から2010年までの東アジア地域のインフラ投資の80%は中国が占めた。年間ではGDPの9%、3,500億ドルをインフラ投資に充てている。
・世界における向こう20年間のエネルギー需要増加分の50%はインドと中国が占める。
・向こう20年間に中国が新設する必要がある発電容量は、現在の米国の総発電容量を上回る。
・鉄道に対する投資は前年比88%の急上昇。
・水関連の投資は前年比8.9%の上昇に留まる。
中国のインフラ投資を予測したチャートがあります。これによると水力発電所と水関連の投資が多くなっています。最近の日経では中国の水関連投資に関する記事が多くなりました。これから得る印象からすると、水関連投資の伸び率はもっと高くてもよさそうな印象があります。

Chinainfrainvestment

いずれにしても、インフラ投資の規模は格段に大きく(2009年予測で1兆6,000億元=19兆2,000億円)、日本企業にとっても大きな市場であることに間違いはありません。

●インドのインフラ投資
インド全体では社会インフラ整備がこれからということで、電力の恩恵を受けられる世帯は全体の55%。上水道が整備されていない地域も多く残っています。産業に不可欠な物流などのインフラ投資が不完全であるために、経済成長率が2%低くなっているそうです。同報告書ではインドの年間インフラ投資が210億ドルであるところ、2008年から2012年の5年間で5,000億ドルが必要だとしています。すなわち現在の5倍に増やす必要があるということです。

● ラテンアメリカのインフラ投資
メキシコでは道路網の半分が未舗装。2008年には道路整備に27億ドルが割り当てられました。今後5年間で、輸送インフラ整備に2,500億ドルが投じられます。ブラジルでも舗装済みの道路は12%。また、輸出競争力の向上に欠かせない港湾設備も投資が不十分で、非効率的な運用が見られ、欧州の水準と比較すると15%高い物流費用がかかっているとのことです。

● インフラ投資の原資はどこから?
さて、このように非常に大きな需要があるインフラ投資。お金の出所は、どこかというと、同報告書の説明では、大半は政府の負担ということで腑に落ちます。しかし、今後の旺盛な需要をまかなうには、民間の投資が不可欠であるというのが同報告書の主張。
現在でも世界のインフラ投資総額の10〜15%は民間から拠出されているそうです。具体的には、各国で進んでいる各種の民営化による民間資本の導入、政府・自治体保有の有料道路等の民間への売却(これも一種の民営化ですが)、さらには、大規模な年金基金によるインフラ投資があります。米国カリフォルニア州の公務員年金基金は2010年に70億ドルをインフラ投資に回したそうです。ワシントン州政府の投資委員会は基金の5%をインフラ投資に回す決定をしました。

●一般投資家にとってのインフラ投資
一般的な投資家がインフラ投資を始めるにはどうすればいいか、ということもこの報告書では説明しています。二通りのやり方があります。1つは、プライベートエクイティ。未公開株への投資ですね。これは、投資に必要な最低金額が大きく、ロックアップ期間が10年といった長期にわたり、流動性も得にくいという特徴がある一方で、高いリターンが見込めるメリットがあるそうです。空港、港湾、鉄道、エネルギー関連設備などへの投資をイメージすればよいでしょうか。
もう1つのやり方がインフラ投資に関わる企業の公開株への投資。この報告書としては、読者の関心をここに持って行きたかったということが、ここまで読むとよくわかります。要は、インフラ投資関連株は有望であると。向こう20年の旺盛なインフラ投資の果実を得るなら、一般投資家はここに着目するのがいいと。

●インフラ投資関連銘柄がなぜよいか
インフラ関連の銘柄の値動きをインデックス化した「S&P Global Infrastructure Index」があるそうです。スタンダード&プアーズが公開している資料でこちらに概要が。こちらにその詳細があります。
世界のインフラ投資関連会社75社を組み入れており、分野別では、エネルギー関連17.04%、輸送関連38.73%、電力を含む公益事業関連44.23%となっているそうです。日本からは5社が選ばれており(公開資料からは社名が割り出せず)、国別比率では約8%を占めます。
このS&P Global Infrastructure Index構成銘柄の時価総額は2008年12月時点で1兆7,000億ドル。同時期の東証全体の時価総額が283兆円。その半分以上の規模があるということになります。
S&P Global Infrastructure Indexは他の指標、例えば、標準的なS&P 500と比較してみると、価格変動リスクを示すベータ値が良好で(前者0.79、後者1.00)、投資信託の運用効率を計るために使われるシャープレシオも正の値であり、かつ他のインデックスよりもよい値となっています(前者0.61、後者−0.28)。2001年から2008年までの平均リターンが11.79%。自分の資産ポートフォリオに2割組み入れるだけで年率4.6%のリターンが稼げるそうです。


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