生成AIが押し上げるクラウド市場、「ネオクラウド」の台頭も
世界のクラウドインフラサービス市場が再び勢いを取り戻しています。調査会社Synergy Research Groupは2025年10月31日、2025年第3四半期(7〜9月期)の企業によるクラウドインフラサービス支出が、前期比で75億ドル以上増加したと発表しました。
Cloud Market Growth Rate Rises Again in Q3; Biggest Ever Sequential Increase
これは同社が統計を開始して以来、最大の四半期増加幅です。為替変動の影響を除いた実質ベースでは前年同期比28%増と、8四半期連続で成長率が上昇し、過去3年間で最も高い伸びとなりました。その背景には、生成AIの普及がもたらす市場構造の変化があります。
今回は、この急拡大の要因、主要企業の動向、地域別の成長傾向、そして今後の見通しについて整理します。

出典:Synergy Research Group 2025.10.31
生成AIが支える新たな成長局面
Synergy Researchによると、第3四半期のクラウドインフラサービス市場(IaaS、PaaS、ホステッドプライベートクラウドを含む)の売上高は1,069億ドルに達し、直近12か月の累計では3,900億ドルに到達しました。特にパブリッククラウド分野では前年同期比30%増と、全体を上回る成長を見せています。
こうした急拡大の最大の要因は、生成AIがもたらす計算需要の爆発的な増加です。大規模言語モデル(LLM)の学習や推論処理が加速するなかで、GPUクラスタの拡充やAI専用インフラの整備が進み、クラウドサービスの利用量が急増しています。Synergyのチーフアナリスト、ジョン・ディンズデール氏は「GPU as a Service(GPUaaS)の収益は年間200%以上のペースで増加しており、生成AIがクラウド市場全体の成長を牽引している」と述べています。
上位クラウド3社の寡占構造がより鮮明に
市場シェアの面では、依然としてAmazonが29%で首位を維持し、Microsoft(20%)、Google(13%)がこれに続きます。特にMicrosoftとGoogleはAI関連ワークロードを武器に成長率でAmazonを上回っており、クラウドAI基盤の最適化競争が激しさを増しています。
一方、いわゆる「ネオクラウド」企業の台頭も注目されています。CoreWeave、OpenAI、Oracle、Databricks、Huaweiなどは、AI向けGPUサービスや分散データ処理基盤を中心に急成長。とくにCoreWeaveは2年前にほぼゼロからスタートしたにもかかわらず、現在では四半期あたり10億ドル超の収益を上げ、上位10社入り目前となっています。AIインフラを中核とした新興勢力が市場構造を塗り替えつつあることを示しています。
地域別にみる成長動向:アジアと南半球がけん引
地域別では、米国が引き続き最大市場であり、第3四半期の成長率は27%。その規模はアジア太平洋地域全体を上回ります。一方、成長率ではインド、オーストラリア、インドネシア、アイルランド、メキシコ、南アフリカが世界平均を超え、ローカル通貨ベースで高い拡大を見せました。
欧州では英国とドイツが依然として規模で上位を占めるものの、成長率ではアイルランド、スペイン、イタリアがリード。データセンター投資の分散化やAI対応インフラの整備が進む地域で成長が顕著です。こうした地域的な広がりは、AI需要のグローバル化を象徴しています。
成熟市場から再成長市場へ
市場全体でみると、クラウドインフラの成長率は2022〜2023年にかけて一時的に20%前後まで鈍化しましたが、2024年以降は再び加速。2025年第3四半期には28%まで回復しています。Synergyのグラフに示されるように、成長率のカーブは底打ちから反転し、上昇基調が鮮明になりました。
これはIT支出の回復ではなく、AI時代に適応するための構造的変化の表れといえます。従来のクラウドは主に汎用的なIT基盤として利用されていましたが、現在は「AI最適化インフラ(AI-Optimized Cloud)」への転換が進行中です。演算性能、電力効率、データ帯域といったハードウェア面の再設計が求められており、各社は自社チップや冷却技術の開発にも力を入れています。
今後の展望:GPUaaSとリージョナル多様化が鍵に
今後のクラウド市場を左右するのは、AIワークロード対応の持続可能なスケール戦略です。GPUクラスタの需要は引き続き高水準を維持する見込みで、2026年には主要クラウドのGPU関連収益が現在の2倍規模に達する可能性があります。これに伴い、電力効率や冷却手法を含む「Watts-to-Bits」型の最適化が求められ、AIファクトリー型データセンターの拡大が続くでしょう。
同時に、地域的な多様化も進みます。米国中心から、インド、東南アジア、欧州各国へと分散が加速し、AIモデル開発の地産地消が進展する見通しです。これはデータ主権やエネルギー供給の観点からも重要な動きとなります。
クラウド市場はすでに成熟期を越え、AIによって再成長期に入りました。生成AI、GPUaaS、リージョナル分散という3つの潮流が重なり、2026年以降も高い成長率が持続するとみられます。AIの進化がクラウドの形を変え、クラウドがAIの進化を支える――両者の共進化が次のテクノロジー競争の中心となるでしょう。
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