2030年には45%の企業がAIエージェントを全社的に展開
IDCは2025年10月23日、企業のデジタル変革を展望する年次報告「IDC FutureScape 2026」を公表しました。今回のレポートでは、生成AIの次の進化形として注目される「エージェント型AI(Agentic AI)」が、2030年に向けて企業戦略・人材・イノベーションの在り方を根本から変えると指摘しています。
IDCは、世界的な経済不確実性や地政学リスク、規制強化といった複雑な環境の中で、AIが単なる効率化ツールから経営の「意思決定主体」へと進化していると分析。2030年には45%の企業がAIエージェントを全社的に展開し、業務プロセスや組織構造に深く組み込むと予測しました。
今回は、IDCの予測が示す企業変革の方向性と、AI活用の新たな課題、そして今後の展望について取り上げたいと思います。
エージェント型AIがもたらす「戦略の再構築」
IDCは今回の報告で、エージェント型AIを「人の判断と自律的なAI行動を組み合わせ、企業全体の意思決定をオーケストレーションする仕組み」と定義しています。従来の生成AIが「入力に応じた出力」を担うのに対し、エージェント型AIは目標を理解し、自ら行動計画を立案・実行・検証する点が大きく異なります。
企業経営の文脈では、これが戦略立案や業務プロセスの自動最適化、さらには顧客対応やサプライチェーン運営にまで波及します。IDCのMeredith Whalen氏は「この新しいAIは単にスピードを高めるのではなく、働き方そのものを変革する」と述べています。つまり、AIが「実行者」ではなく「意思決定の共同担い手」へと進化する段階に入りつつあるといいます。
人材とAIの共創が進む新しい労働構造
IDCは、2026年までに世界の大手企業(G2000)の40%の職種がAIエージェントとの協働を前提とするようになると予測しています。これにより、従来の「職階」や「スキル要件」の定義が再構築され、人間とAIが相互補完的に成果を上げる「ハイブリッド職務」へと移行します。
一方で、AIとの共創には「人の側の準備度(Human Readiness)」が求められます。AIを活用する能力だけでなく、AIが生成する提案を吟味し、倫理的・法的リスクを見極める力が重要になるでしょう。
IDCは、AIスキルの教育やリスキリングを体系的に進める企業が、今後の生産性向上を牽引するとしています。単なるAI導入ではなく、人材戦略とセットで推進することが成長の鍵となります。
信頼とガバナンスが競争力を左右する
AIが企業活動の中核を担うほど、ガバナンスと倫理の欠如が深刻なリスクとなります。IDCは2030年までに、G1000企業の20%がAIエージェントの制御不備に起因する訴訟や罰金、さらにはCIO解任に直面する可能性があると指摘しました。生成AI時代にも増して、AIの行動を可視化し、説明可能性(Explainability)と透明性を確保する仕組みが不可欠です。
また、地政学的な不確実性を背景に、2028年までにデジタル主権の要件を持つ企業の60%が、機密性の高いワークロードを新たなクラウド環境へ移行すると予測。サイバーセキュリティとクラウド分散管理が、リスク回避と企業価値維持の両面で重要になります。AIとクラウドの境界を再定義する動きが広がるでしょう。
AIが変える経済モデルとビジネスの再設計
IDCによると、AIエージェントの普及に伴い、従来の「席単価制(seat-based)」の価格モデルは2028年までに姿を消すと予想されています。AIが定型業務を代替することで、「人の稼働時間」に基づく価値計算が意味を失うためです。その結果、70%のベンダーが成果や価値提供に基づく新しい料金体系へ移行する見通しです。
同時に、経営者層のAI投資指標も変化します。IDCは2026年までに、G2000企業の70%のCEOがAI投資のROIを「コスト削減」ではなく「成長とビジネスモデルの再構築」に置くようになると予測。AIを「効率化の手段」から「価値創出のエンジン」へと昇華させる視点が求められています。
今後の展望
IDCのFutureScape 2026が描く未来は、AIが企業活動の中で単独プレイヤーとして機能する「エージェント社会」への移行です。AIが経営判断・顧客対応・業務運営に自律的に関与する時代において、重要となるのは「信頼・透明性・責任」の3つの柱です。
企業に求められるのは、「持続的なAI運用モデル」の構築です。AIを制御し、成果を最大化するためには、データ品質、倫理基準、そしてAIガバナンス体制を一体として整備する必要があります。また、教育・人材育成の観点からも、AIと共に意思決定を行う「AIリテラシー人材」の育成が欠かせないでしょう、
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