AIとクラウドネイティブが変える通信インフラ Omdiaが2030年市場を展望
英Omdiaは2025年10月27日、「Telco Network Cloud Market Tracker - 2025 Annual Forecast Report」を発表しました。報告によると、世界の通信事業者(CSP)がクラウドインフラと関連ソフトウェアに投じる支出は、2025年の174億ドルから2030年には248億ドルに拡大する見込みです。年平均成長率(CAGR)は7.3%とされ、生成AIやクラウドネイティブ化の進展が大きな成長要因となっています。
Omdia: AI and cloud-native transformation to drive global telco network to $24.8bn by 2030
2025年は前年の2倍となる12%の成長が見込まれ、AIや自動化ツールの成熟が本格的な変革を後押ししています。通信業界は、従来の仮想化ネットワーク(VNF)からコンテナ化ネットワーク(CNF)への移行を進め、ネットワーク運用にAIと自律制御を組み込む段階へと進化しています。
今回は、この市場変化の背景にある「AIインフラ」「クラウドネイティブ化」「パブリッククラウド活用」「ベンダー勢力図」の4つの観点から、通信業界の転換点を考察します。

出典:Omdia Telco Network Cloud Market Tracker - 2025 Annual Forecast Repor 2025.10
AIが通信インフラの新たな基盤に
AIと生成AI導入は、通信ネットワークの運用効率とサービス品質を劇的に変えつつあります。Omdiaの調査によると、通信事業者の62%以上が「AI/ML対応のインフラを選定条件の最優先要素」と位置づけています。
AIは、トラフィック制御や障害予測、リソース最適化などに加え、将来的には自律運用型ネットワーク(AIOps)の中核を担う存在となります。特にNVIDIAやRed Hat、VMwareといった主要ベンダーは、通信向けに最適化されたオンプレミスAI機能を提供し、データ主権と低遅延を両立させるアプローチを推進しています。
この動きは単なる効率化ではなく、通信事業の付加価値そのものを再定義する試みといえます。たとえば、AIを活用した動的ネットワーク制御は、5Gの超低遅延通信や将来の6G対応にも不可欠な要素となるでしょう。
クラウドネイティブ化が進む通信システム
Omdiaは、Kubernetesベースのクラウドネイティブプラットフォームへの投資が年率25%で拡大すると予測しています。従来のVM(仮想マシン)中心の環境は伸び悩む一方で、クラウドネイティブ化による俊敏性とスケーラビリティが重視される傾向が顕著となっているといいます。
コンテナ化ネットワーク機能(CNF)の導入により、通信事業者はネットワーク構成の柔軟性を高め、サービス展開までの時間を短縮できます。これにより、AIや自動化技術と連携しやすいアーキテクチャが整い、クラウドネイティブ基盤が「ネットワークのOS」として機能する時代が到来しつつあります。
Omdiaのシニアアナリスト、インダープリート・カウル氏は「クラウドネイティブ移行は、仮想化を超えたネットワーク自律化への重要なステップだ」と指摘しています。
パブリッククラウドがネットワーク領域に拡大
通信ネットワークのワークロードをパブリッククラウドで処理する割合は、2024年の3%から2030年には13%に上昇する見込みです。AWS、Microsoft Azure、Google Cloudなどのハイパースケーラー各社は、通信事業者専用のソリューションを相次いで提供しています。
たとえば、クラウドネイティブ5Gコア、エッジノード統合、分散型OSS/BSSなどの領域で、クラウドとネットワークの境界が急速に曖昧になっています。この潮流は「Telco Cloud 2.0」とも呼ばれ、通信業界のCAPEX削減とOPEX最適化の両立を可能にします。
一方で、データ主権やセキュリティの観点から、ハイブリッド構成を維持する戦略も強まっています。今後は、「どのワークロードをどの環境に置くか」という判断が経営戦略上の焦点となるでしょう。
ベンダー勢力図と自動化戦略の転換
Omdiaによると、クラウドインフラ管理市場ではRed Hatが25%のシェアを握り、首位を維持しています。続いてVMware、Nokia、Ericssonなどが後を追う構図です。
特筆すべきは、通信向けのプラットフォームが単なるクラウド基盤提供から「ライフサイクル自動化」へと進化している点です。
企業が採用を検討するプラットフォームには、CI/CDパイプラインやGitOpsの導入など、クラスタとネットワークワークロードの自動化を前提とした仕組みが求められています。
Omdiaは、2029年以降にAIエージェントによる自動運用が商用化段階に入ると予測しており、通信事業者の運用モデル自体が変革する可能性を指摘しています。
今後の展望
通信インフラの未来は、AIとクラウドネイティブ化が融合した「自己進化型ネットワーク」の実現に向かっています。Omdiaの予測では、2030年には通信ネットワークの管理・運用に占めるAI関連投資が3割を超える見込みです。
生成AIの登場により、障害対応や構成変更といったオペレーションが自動生成・自動検証の領域に入りつつあります。通信事業者は、AIが提案する構成変更を人間が管理する体制から、AI主体の"アシスティブ運用"へと移行するでしょう。