生成AIの進展で経営リーダーはデジタル戦略をどう見直すのか
ガートナージャパン(以下Gartner)は2025年10月21日、国内企業のテクノロジ導入状況に関する最新の調査結果を発表しました。調査は2025年4月に実施され、従業員500人以上の国内企業のITリーダー412名を対象に、デジタル推進に関わる主要テクノロジの導入実態を尋ねたものです。
この結果から、日本企業のデジタル活用は新たな段階に入りつつあることが浮かび上がりました。ビジネスに導入済みのテクノロジとして最も多く挙げられたのは「IoTプラットフォーム(クラウド)」で30.3%。次いで「サイバー攻撃や内部不正からの防御」(22.3%)、「5G(通信事業者のサービスを利用)」(21.6%)が続きました。

出典:GARTNER 2025.10
一方で「注目し、評価・検証を始めている」段階のテクノロジも多く、可視化・API連携・デジタルツインなどが高い関心を集めています。
Gartnerのバイスプレジデント アナリストである池田武史氏は、「IoTプラットフォームは注目から10年を経てようやく3割の企業が導入段階に到達した。AIやデジタルツイン、API連携、ワイヤレス通信、セキュリティなどの複合的な要素を組み合わせて初めて成果が得られる領域であり、成熟には時間を要する」と指摘しています。
今回は、この調査結果を手がかりに、デジタル変革の進展と課題、そして今後の展望を考えます。
IoTとデータ活用が進む一方、実装段階では「壁」も
今回の調査で最も導入が進んだ「IoTプラットフォーム(クラウド)」は、2023年時点から約10ポイント増加し、導入率の伸びは4割超に達しました。特に製品や設備の稼働状況を可視化するシステムや、異常を予測する保全システムの導入も拡大しており、データを活用した現場最適化が広がっています。
一方で、IoT導入が進むほど、課題も顕在化しています。センサーや機器から収集される膨大なデータをどのように処理・活用するか、またそれらを既存のERPやCRMなどの社内システムとどう統合するかが、多くの企業の悩みとなっています。
こうした背景には、IoTが単独では完結せず、AI分析やクラウド連携、API統合、サイバー防御など複数のテクノロジが密接に関わる「複合実装型」の特性があるためです。
池田氏は、「顧客やパートナーを含めた成果の検証が求められることから、IoT活用は単なる設備投資にとどまらず、エコシステム形成のプロジェクトとして進化しつつある」と述べています。
実際、今回の調査では、顧客・パートナーとのAPI連携を進めている企業が全体の約半数にのぼり、社内の最適化から外部連携へと焦点が移行していることが分かりました。
AIが引き上げるデジタル導入のモメンタム
Gartnerは今回の調査で、AIの進展が企業のデジタル導入を後押ししていると指摘しています。
生成AIの急速な普及により、社内のデータ活用や顧客対応、業務自動化の領域で「AIを組み込む前提」でシステムを再設計する動きが広がっています。
特に、カメラ映像をAI/MLで分析するソリューション(導入率16.7%)や、AIによるロボット・ドローン・自律搬送車の活用(15.0%)など、製造・物流分野での適用が進みました。
また、ローカル5Gを自社構築する企業も15.8%に達しており、AIがもたらすデータ通信量の増大に対応するため、通信インフラ面の刷新が加速しています。
池田氏は「ここ2~3年の生成AIの進展が、新たな知性をデジタル活用に積極的に展開するモチベーションになっている」と語ります。
AIを中心に据えたデジタル戦略が、もはや先進企業に限らず、幅広い業種・規模の企業で検討段階に入っている状況です。
経営リーダーに問われる「デジタル戦略の再点検」
調査では、テクノロジ導入の阻害要因や懸念についても質問が行われました。
その結果、約7割のITリーダーが「デジタル推進には経営陣の強力なリーダーシップが不可欠」と回答。AIを含む先端技術の導入が進む一方で、戦略面・組織面の支援体制に課題を抱えていることが明らかになりました。
また、7割を超える回答者が「AIの進化に伴うイノベーション加速への期待」と同時に、「セキュリティリスクの高まりへの懸念」を表明しています。生成AIや自律型システムの導入が進むほど、情報漏えいや内部不正、アルゴリズムの不透明性といったリスクが増大するためです。
こうした中で、AIガバナンスやデータ倫理、セキュリティ設計を経営の中心に据える動きが求められています。
池田氏は次のように述べています。
AIやデジタルツインなどの導入は、依然として発展途上ではありますが、すでにビジネスに大きな影響を及ぼし始めています。これからの経営者には、テクノロジの進化に迅速に対応し、新たなビジネス機会を逃さないために、自社のデジタル戦略を再点検することが求められています。
今後の展望
2026年に向け、日本企業は「つながる社会」への本格的な転換点を迎えています。IoT、AI、クラウド、5G、API連携など、複数の技術を横断的に組み合わせることで、企業は新たな価値を創出できる段階に入りつつあります。
今後注目されるのは、デジタルツインの実装と、それを支えるデータ連携基盤の整備です。リアルとバーチャルの融合が進むことで、製造業や物流業だけでなく、都市開発やヘルスケア、エネルギー分野でも新たな市場が生まれる可能性があります。
また、生成AIがもたらす知的補完によって、従来のデジタル化の枠を超えた「共創型デジタル経営」への進化が期待されています。