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5G固定無線アクセスが急拡大 Omdia「2030年に1億5,000万契約」

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英Omdiaは2025年10月21日、「5G Fixed Wireless Access(FWA)市場動向レポート2025」を発表しました。報告書によると、世界の5G FWA契約数は2024年の7,100万件から2030年には1億5,000万件へ倍増し、全FWA契約の88%を占める見通しです。Omdiaは、インドや米国を中心にFWAが世界最速で成長するブロードバンド接続技術になると指摘しています。

5G Fixed Wireless Access to reach 150 million subscriptions globally by 2030, Omdia forecasts

また、5G FWA市場は年平均成長率(CAGR)23%で拡大し、2030年にはサービス収入が460億ドル(約7兆円)に達する見込みです。高速化だけでなく、AIによる個別最適化や品質保証が競争力を左右する段階に入ったといえます。

今回は、Omdiaが描くFWA市場の拡大構図、地域別の成長要因、そして今後の通信・社会インフラへの影響について取り上げます。

FWAは「次世代ブロードバンド」の主流へ

固定無線アクセス(FWA)は、光回線の代替として無線ネットワークを用いて家庭やオフィスにブロードバンド通信を提供する仕組みです。特に5G FWAは、高速・低遅延・広帯域を実現し、光回線が届かない地域にも高速インターネットを提供できることから注目が高まっています。

Omdiaの分析では、FWA全体の契約数は2024年の7,100万件から2030年に1億5,000万件へと倍増する見込みです。そのうち5Gによる接続が圧倒的な割合を占め、4G LTEやWiMaxなどの旧世代は急速に縮小すると予測されています。2027年には5G FWAが4Gを上回り、DSL(電話回線型ブロードバンド)を抜いて世界第3位のアクセス方式に浮上する見通しです。

Omdiaの主任アナリストであるニコール・マコーミック氏は「通信事業者は従来型の展開モデルから脱却し、顧客層別のパッケージ化やAIによるパーソナライズを取り入れることで、5G FWAの価値を最大化できる」と強調しています。

牽引役はインドと米国――FWAが"社会インフラ"へ

地域別では、インドと米国がFWA市場拡大の両輪となります。インドは2030年に3,700万件の契約を見込み、世界全体の約4割を占める最大市場となる見通しです。背景には、リライアンス・ジオがAIとデジタルツイン技術を活用し、5G基地局と家庭用CPE(通信端末)を一体で展開していることがあります。通信の効率化と低コスト化が進み、農村部にも高速通信が広がっています。

一方、米国は既存のブロードバンド網を補完する形で成長を続け、2030年には2,000万件規模に達する見込みです。通信大手は5G FWAを住宅や中小企業向けの「第2の回線」として提供し、加入者層を拡大しています。

さらにナイジェリア、イタリア、日本が有望市場として続きます。新興国ではCPE価格の下落やサブスクリプション型の導入プランが普及を後押ししており、アフリカ・ラテンアメリカ・アジア諸国でFWAは光回線を飛び越える形で普及しています。

QoE(体感品質)が新たな競争軸に

Omdiaのレポートは、通信速度だけでなく「体感品質(QoE: Quality of Experience)」の向上が5G FWAの成長を左右すると指摘しています。大手通信事業者は、単なるスループット競争から脱し、用途別に最適化された通信体験を訴求しています。

たとえば、ゲーマー向けには低遅延モードを、リモートワーカー向けには高信頼性プランを、ストリーミングユーザーには帯域保証付きのパッケージを提供するなど、利用シーン別の価値創出が進んでいます。AIによるトラフィック分析とネットワーク制御の最適化が可能になったことで、サービスの個別チューニングが現実的なレベルに達しているといいます。

通信の「質」を可視化し、顧客体験を収益化するという考え方は、FWAが"ベストエフォート型"の通信から"体験保証型"サービスへと進化している証拠といえます。

サービス収益の拡大と新たな競争局面

Omdiaの予測では、FWAサービス収入は2024年の約250億ドルから2030年には460億ドルに達すると見込まれています。右肩上がりの成長を支えるのは、5Gプレミアムプランの拡充と、家庭・企業を横断するデジタルライフ基盤としての位置づけです。

特に、固定通信事業者とモバイルキャリアの垣根が低下し、「ワイヤレス・ブロードバンド事業者」という新たなカテゴリーが確立しつつあります。これにより、伝統的な通信モデルの再編が進み、AI・IoT・クラウドと組み合わせた統合型サービスの競争が本格化しています。

さらに、5G FWAは光ファイバーやケーブルモデムに代わるコスト効率の高いインフラとして、地方都市や発展途上国における「デジタル包摂(digital inclusion)」の鍵を握る存在になりつつあります。

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出典:Omdia 5G Fixed Wireless Access(FWA)市場動向レポート2025 2025.10

今後の展望

FWA市場は2030年以降、ブロードバンドの"第2の主流"として定着するとみられます。Omdiaは、ケーブルモデムの加入者減少を背景に、FWAが光回線に次ぐアクセス手段として位置づけられると指摘しています。特に5G FWAは、AIによるネットワーク最適化、自動化されたQoE管理、サステナブルな電力運用との連携が進み、エネルギー効率の高い通信基盤としても期待されています。

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