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デジタル・アダプション・プラットフォーム市場が急拡大

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アイ・ティ・アール(ITR)は2025年10月23日、国内の「デジタル・アダプション・プラットフォーム(DAP)」市場規模推移および予測を発表しました。調査によると、2024年度の市場規模は65億9,000万円に達し、前年度比66.0%増という高成長を記録したといいます。

この急拡大の背景には、企業が推進するデジタル・トランスフォーメーション(DX)において、導入したシステムを「使いこなす」ための教育やサポートの重要性が高まっていることがあります。従業員の操作教育を効率化し、人件費や研修コストを削減する目的で採用が進むほか、顧客向けサービスにおいても支援コストの抑制と顧客体験の向上が期待されています。

今回は、この市場の拡大要因とAI時代における進化の方向性を取り上げたいと思います。

デジタル・アダプションとは何か

デジタル・アダプションとは、導入したデジタルツールやシステムを、利用者が理解・習熟し、日常業務の中で効果的に活用できる状態を指します。単なるシステムの導入ではなく、従業員や顧客がデジタル技術を「定着」させ、自律的に活用するまでのプロセス全体を意味します。

このプロセスを支援する仕組みがデジタル・アダプション・プラットフォーム(DAP)です。DAPは、ユーザーが実際の操作画面上で手順を学べるガイド機能や、自動化されたチュートリアルなどを提供し、操作教育やサポートの負担を大幅に軽減します。企業が導入したITシステムを「使われる仕組み」へと転換させるための中核的なソリューションとして注目を集めています。

操作教育の効率化ニーズが市場をけん引

ITRによると、国内DAP市場は2023年度の約40億円規模から2024年度には65億9,000万円へと拡大し、上位2社のベンダーは1.5倍超の売上成長を遂げました。市場全体でも、多くのベンダーが2桁以上の伸びを示しています。

この急成長の要因の一つが、企業内の業務システムの多様化と複雑化です。CRM(顧客管理)やERP(基幹業務)、ワークフローなど複数のツールを組み合わせて活用する企業が増えるなか、従業員の操作教育やマニュアル整備が追いつかないという課題が顕在化しています。

DAPは、ユーザーが実際の画面上で操作を学べるインタラクティブなガイドを提供し、必要な情報をその場で提示することで教育時間を大幅に短縮します。集合研修や紙マニュアルに依存していた従来の教育手法を見直す動きが加速し、リモートワーク環境でもスムーズなオンボーディングが実現可能になりました。

特に多拠点企業では、社員のスキル習熟度の差を均一化し、業務標準化を推進する手段として導入が進んでいます。

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出典:「デジタル・アダプション・プラットフォーム(DAP)」市場規模推移および予測 2025.10

顧客体験の最適化へ―サービス分野にも拡大

DAPの活用は企業内教育にとどまりません。小売、金融、通信などの業界では、顧客向けのサービス支援にも導入が拡大しています。

たとえば、インターネットバンキングの新規登録やEコマースサイトの購入フローで、ユーザーの操作に合わせてリアルタイムに手順を案内する「インタラクティブガイド」を実装する企業が増えています。これにより、コールセンターへの問い合わせ数を削減しながら、顧客満足度を高めることができます。

また、官公庁や自治体でも、オンライン申請や行政手続きのサポートとしてDAPを導入する動きが始まっています。高齢者やデジタル初心者でも迷わず手続きが進められるようにすることで、デジタル行政の推進に寄与しています。

このように、DAPは「企業内の効率化ツール」から「社会全体のデジタル支援基盤」へと進化しつつあります。

AI連携で"学習するプラットフォーム"へ進化

ITRのシニア・アナリストである水野慎也氏は、「DAP市場は、DX推進を背景に社内システムのオンボーディング支援として成長してきたが、今後はAIとの連携によって、より高度でインテリジェントな支援へと進化する」と指摘しています。

従来のDAPは、あらかじめ設定された操作手順を基にユーザーを誘導する仕組みでした。しかし今後は、AIがユーザーの行動や操作履歴を分析し、最適なタイミングで個別の支援を提供する"予測型アダプション"が実現されつつあります。

生成AIの技術を取り入れることで、操作ガイドだけでなく、FAQやマニュアルの自動生成、ユーザー入力の補完支援といった機能も拡張されます。結果として、サポート業務全体が自律化し、ユーザー体験そのものが変わっていくことになります。

また、AIが蓄積した行動データを分析することで、企業は利用状況を可視化し、システム投資のROI(投資対効果)を継続的に改善できるようになります。

市場は2029年度に500億円規模へ 年平均成長率49.9%

ITRの予測によれば、国内DAP市場は今後も急速な拡大を続け、2029年度には500億円規模に達する見込みです。2024年度から2029年度にかけての年平均成長率(CAGR)は49.9%に上り、ITソリューション分野の中でも最も高い伸び率を示しています。

この成長は、企業のDX定着における「最後の一マイル」を支える仕組みとしてDAPが不可欠になりつつあることを意味しています。システムの導入だけでは価値を生まないという認識が浸透する中、導入後の"利用定着"を支援する取り組みが企業経営の重要なテーマとなっています。

今後の展望

今後の市場拡大を支える鍵は、生成AIとの融合です。AIがユーザーの操作意図を理解し、必要なサポートを自動生成することで、デジタル・アダプションは「教える」から「伴走する」段階へと進化します。

さらに、行政・教育・医療といった公共分野でも、誰もが直感的にデジタルサービスを利用できるようにするためのUI/UX支援ツールとしての重要性が増しています。特に地方自治体における行政手続きや学校でのICT教育では、利用者の習熟度に応じた支援が求められており、DAPの導入効果は大きいと考えられます。

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